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辻邦生作品レビュー/短編小説

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辻邦生さんの小説作品のうち、短編のレビューをアップしていきます
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#人生

noterさんにぜひお贈りしたい二つの言葉   『ある生涯の七つの場所2』100の短編が 織り成す人生絵巻/夏の海の色 第三回

連作短編『ある生涯の七つの場所2/夏の海の色』第三回。これで『夏の海の色』は完結です。 上記は「黄いろい場所からの挿話」のラストで、アメリカへ留学する恋人エマニュエルとの別れを決めていた「私」が、考えを翻す場面です。 それは、やはり、いつかくるはずの、より完成された形までの、準備にすぎなかった。 お読みくださるみなさんにお贈りしたいのがまずこの言葉です。今自分がやっていることは、いつか手に入れるであろう成功や幸福の準備にすぎないのだ、そんなふうに考えてはいないでしょうか?

『円形劇場から』一箇所に定住せず「私」が彷徨い続けた理由とは?人生の意味を問う美しい物語

発表年/1970年 辻邦生さんは機会あるごとにご自分の作品について書いたり語られたりしているので、作品をご紹介しようとおもうとついそういったものに頼ってしまいそうになるのですが、ここはできる限り自分の感想としてお伝えしようとおもいます。 レビューを書くために再読して思い出しました、短編小説の中では、僕はこの『円形劇場から』という作品が一番好きだったのです。 例によって「私」のモノローグで物語は進んでいきます。「私」は家を離れ、大学で聴講生となるために都会に出てきます。都会