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【short short story 4】失われた時間の贈り物

ある町に時計屋がいた。彼の名前はベンジャミン。一日中、彼は時計を修理したり、人々に正確な時間を教えたりしていた。しかし、ベンジャミンには一つだけ問題があった。彼自身、時間を感じることができなかったのだ。常に時計を見なければ、一日がどれほど進んだのか分からなかった。

一方、町の反対側にはマリアという婦人が住んでいた。彼女は完璧な体内時計を持っていて、時間を見ずとも正確に時間を感じることができた。しかし、彼女には視力がなく、実際に時計を見ることはできなかった。

ある日、二人の人生の道が交差する。視力がないマリアが時計屋ベンジャミンの店に訪れたのだ。彼女は、自分が感じる時間を確認するための時計を買いたいと言った。しかし、ベンジャミンは、時間を感じることができない自分にはそのような時計を作ることはできないと告げた。

マリアは笑って、一つの提案をした。「それなら、明日一日だけ私の時間を感じてみてはどうでしょう。私が一日の流れを伝えます。それがどれほど正確かをあなたの時計で確認してみてください。」

次の日、ベンジャミンは一日中、マリアの声に耳を傾けた。彼女が昼食の時間、午後のお茶の時間、夜の時間を告げた。そして驚くことに、それぞれの時間が訪れるたびに、マリアの言う時間とベンジャミンの時計が一致していた。

その日が終わるとき、ベンジャミンは自分が初めて時間を「感じた」ことに気づいた。そして彼は、マリアに感謝の言葉を述べ、特製の時計を贈った。

その時計はただの時計ではなかった。それは音を出す時計で、時間がくるたびに、マリアが時間を確認できるように、音で時間を告げるものだった。マリアは、それを最高の贈り物だと言って、喜んで受け取った。

この日から、時間を感じながら生きることの喜びを知ったベンジャミンと、時間を確認できる喜びを得たマリア。二人はそれぞれの時間を大切に過ごすようになった。

彼らを見た町の人々はこう言うようになった。「ベンジャミンの時間とマリアの時間、それぞれが欠けていたものを補い合い、完全な時間を作ったのだ。それが真の贈り物だ。」と。

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