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【short short story 3】時間泥棒

ベンジャミン・フェラーズは、ニューヨークの有名な時計職人で、時計に対する情熱は誰にも負けない男でした。彼の店は、ブロードウェイ沿いの一等地にあり、質の高い時計がずらりと並んでいました。

ある日、エレガントな紳士が店に入ってきました。彼は、時間を失ったと言いました。不思議に思ったベンジャミンは、その言葉の意味を問いました。紳士は「わたしの人生は、時間が速く進んでしまい、楽しむ間もなく日々が過ぎていくのです」と言いました。

ベンジャミンは紳士に特製の時計を渡し、「この時計を見て、一日を大切に生きることを思い出してください」と言いました。

数ヶ月後、紳士が再び店に現れ、時計をベンジャミンに返しました。「あなたがくれた時計のおかげで、時間がゆっくり進むようになり、毎日を心から楽しむことができました。でも、時間が遅すぎて、人生が長すぎるように感じるようになりました」と彼は言いました。

ベンジャミンは驚いた振りをして、再び時計を調整したかような素振りをしました。そして再び紳士に時計を渡し、「今度は時間が少し速く進むようにしました。これでちょうど良いはずです」と言いました。

それから数ヶ月後、紳士は再び店を訪れました。「あなたがくれた時計は完璧です。時間が適度に進んで、人生がちょうど良い長さに感じられます。ありがとう、ベンジャミン。あなたのおかげで私は時間泥棒を捕まえることができました」と紳士は笑いながら言いました。

ベンジャミンは思いました。時間を盗むものは、時計ではなく、私たち自身の心なのだと。そして、彼はほほえんで紳士に頷きました。

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