成功に必要なのは運か努力か・ラプラスの悪魔
こんにちは、ミネソタより、コーイチがお届けします。
成功に必要なものは運なのか?努力なのか?
置かれた環境は運が大きいですよね。自分で選べる環境ならいいのですが、例えば生まれてくる地域は選べそうにないですよね。
さらに双子の比較研究では、置かれた環境によらず楽器の習得は遺伝子に要因がありそう、という結果でした。練習に集中したりする能力が遺伝子によって違いそうだということは示唆されています。ということで、たしかに、生まれ持ったものや環境という運の要素は、成功に関わってくるでしょう。
でも、その違いが現れてくるのは発達に大きな差がある幼少期や、プロの世界くらいまで能力を高めた時の話。大部分の人にとっては、努力や工夫によって、他人をちょっと驚かせられるくらいの能力は身につけられるし、それを駆使してある程度の成功を目指すこともできる。
そしたらやっぱり成功に重要なファクターは努力ではないでしょうか。
いや、”ある程度”なんて求めてないんだ、と。突き抜けたくてこちとら苦労してるんだ、と。あるいは、自分は不運すぎて努力が全く歯に立たない、と。そんな方もいらっしゃることでしょう。
確かにこの世界は理不尽なことだらけです。僕はそんな理不尽の中でも、病気という医学の理不尽を少しでも解決したくて医学研究をしています。
未来は変えられる、自分で選んで行ける。そういう風に考えることが僕のモットーでもあります。
ですが、未来は、運命は、すでに定まっているのではないか。そんな風な考えがあります。
ラプラスの悪魔
1600年の終わり頃、人類の誇る天才の一人アイザック・ニュートンが著作「プリンキピア」を発表しました。現代では古典物理学とされるニュートン力学が記載されています。
そして人々に次の考え方が浸透しました。
「あらゆる物体の動き方は、運動法則に従っている」
つまり、不思議なことが起こっているのではない、全てはメカニズムがあって、「原因があることによって結果が決まってくる」という因果律の考えが広まりました。現代人にも一般的な考え方ですよね。
しかし。「全ての出来事は、それ以前の出来事によって決定される」と解釈して、18世紀の天文学者のラプラスという人は、自分の著作である考えを披露しました。それがラプラスの悪魔と呼ばれているのですが、
”もしもある瞬間における全ての物質の力学的状態と力を知ることができ、かつもしもそれらのデータを解析できるだけの能力の知性が存在するとすれば、この知性にとっては、不確実なことは何もなくなり、その目には未来も(過去同様に)全て見えているであろう。” — 『確率の解析的理論』1812年
原因があって結果があるということは、その原因にもさらに元の原因があって、その原因にも・・・という感じに遡っていくことになる。つまり、ある瞬間の物体の位置や運動量など全ての状態がわかっていれば、この後起こる全てのことは予測できる。もう決まっているも同然だ。…という主張です。
それを知ることができる全知全能の知性が存在するかどうかはわかりませんが、もしいたら全てを見通せるだろう、と考えたのです。その知性のことを悪魔と呼んだのですね。
原因があって結果がある
例え話になりますが、僕は今、医学の研究をしています。この研究をするに至ったのは、農学部で農芸化学で食品の機能性と人間への影響を研究していたから。農学部で研究に至ったのは高校生の時にたまたま研究紹介を見て農学部に興味を持ったから。その高校に行ったのは、別の第一志望の高校に落ちたから。その高校に落ちたのは…
という感じでどんどん過去に戻っていきますね。最終的に、僕が生まれたから。ということになりますが、僕が生まれるには両親が生まれる必要があって、両親が生まれるには大昔に人類が誕生する必要があって、それには地球が誕生する必要があって、宇宙が誕生する必要がありますね。宇宙の誕生は、ビッグバンだとされていますね。その時は、時間も空間も1点でした。そこから宇宙空間が爆発と共に広がっていったわけですが、全てはビッグバンが起こる時点で決まっていたのでしょうか。手に持ったリンゴの手を離したら、真下に落ちて地面にぶつかるでしょう。それと同じように、ビッグバンから未来はもう決まったようなものだと。
こう考えると、未来も過去も何もかもが定められているように感じますね。物事には原因があって結果があると考えて、拡大解釈していくとつまりこういうことになってしまいますよね。
ラプラスの悪魔の否定
しかし世界はそう単純じゃなかったんです。20世紀に入って、従来の物理学では光や電子の振る舞いをうまく説明できなくなってきました。そこで新たな物理学の分野が誕生しました。それが量子力学です。人の直感に反することがたくさん起こる、とても不思議で難解な学問ですね。
量子力学によって、「不確定性原理」というものが知られることになりました。これは、「原子の位置と運動量は同時には知ることはできない」というものです(僕も専門外ですのでふんわりとした理解です)。ラプラスは、全てを知る知性があれば、未来も過去も見えていると考えました。つまり、不確定性原理がある以上、全ては知ることができないからラプラスの悪魔は不可能であることがわかったんですね。
シュレーディンガーの猫の話は聞いたことがある人も多いと思いますけど、量子力学で考えなければならないような小さな世界では、ある状態の重ね合わせが起こったような、観測するまで状態がわからない世界もあるのです。
つまり、世界はある一つの状態に決まってはいないのです。
成功に必要なのは、運を味方につける努力
さて、ここまで飛躍して想像してきましたが、成功に必要なものが何なのかを考えるにあたっては、いいとこ取りで考えてみましょう。
努力したという原因を伴って結果は必ず返ってきます。それがいい結果になるか悪い結果になるかはわかりませんが、結果のためには原因があるということは因果律の考え方ですね。ニュートンの古典物理学もそう言ってるようなものです。だから努力を欠かさず頑張りましょうということです。これは、自分に努力が足りないとき、怠けそうな時に心に留めておきたい考え方ですね。
一方で、どうしてもうまくいかないと感じる時。それは自分の努力と関係ないところで起きた力のせいかも知れません。すなわち、運かも知れません。
そしてそもそも、うまくいかないなと感じた時は、すでに努力を重ねてきた証拠でもあります。そうでないとそう感じることもないでしょう。この世界に理不尽なことは確かに多いのですが、きっとラプラスの言う知性が存在していれば、その努力のことを知ってくれています。
しかしながら、ラプラスの悪魔にも知り得ないものがある。つまり世界は一つの運命を辿る単純な物語ではないのです。決まった未来に向かうだけなんて面白くないですよね。今、気持ちを切り替えれば、きっと将来違った未来がやってきてくれると思います。
そのために何ができるかというと、「これから良い運に恵まれるように努力すること」です。チャンスは準備している者のところに来る、という言葉でも言い換えられるかも知れません。運を引き寄せ、味方にして、自分のものにするには、やっぱり自分の考え方をアップデートしたり、何かに努力する必要があるものです。
だから成功に必要なのは、運をも味方につける努力なんだと僕は思っています。
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