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【転載】難民申請中の送還停止の例外規定を封じた東京高裁判決~入管法改定案再提出は無理筋入管法改定案に「送還停止効例外規定」が盛り込まれれば東京高裁判決に違反

朝日新聞の「論座」が4月で更新を終了し、7月にはサイトを閉じてしまうとのことですが、更新終了後は自由に転載可能ということで、随時こちらに載せていきます。
最初は、2021年12月17日掲載のこちら。

同趣旨のものをこちらのnoteにも書いていますが、加筆・訂正をしています。



 衆院選前の通常国会で廃案になった、外国人の収容や送還についてのルールを見直す出入国管理及び難民認定法改正案(入管法改定案)の国会への再提出が取り沙汰されている。
 これとの関連で注目すべきは、難民認定の申請を退けられた外国人を、裁判で争う機会を奪うかたちでチャーター機で母国に強制送還したことは、憲法が保障する「裁判を受ける権利」の侵害にあたるなどと断じた2021年9月22日の東京高裁判決が、国側の上告がないまま、10月6日に確定したことである。
 なぜかというと、この判決によって、入管法改定案に盛り込まれている「送還停止効の例外規定」が事実上、封じ込められているからだ。本稿では、入管法改定案の内容と経過、この東京高裁判決との関係を見ていきたい。
廃案になった入管法改定案に再提出の動き
 現在の入管法は、難民申請手続き中の申請者の強制送還を禁じている(入管法61条の2の9第4項)。これは、それまで何ら関連性がなかった難民認定申請手続と退去強制手続との関係を整理し、難民申請中の者の法的地位を安定させるために、2004年の法改正(施行は2005年)で盛り込まれたものである。
 ところが、2021年2月19日に閣議決定され、第208回国会に提出された入管法改定案では、これに例外を設ける条項が盛り込まれた。この法案は、内外からの強い批判を浴びて、一度は廃案に追い込まれたが、11月30日に産経新聞が政府に再提出の意向がある旨を報じ、12月8日には自民党の「出入国在留管理業務の適正運用を支援する議員連盟」が、再提出するよう政府に要望した。
 入管法改定案に明記された例外規定の中身は以下の通り。法案61条の2の9第4項で、難民認定申請手続き中の場合も、以下の例外規定を設けることが提案されている。
①3回目以上の申請者(ただし、相当の理由のある資料を提出した者を除く)
②重大犯罪もしくは暴力的破壊主義者

3回目以上の申請者の送還停止効を外す趣旨


 このうち、①の3回目以上の申請者について、送還停止効の例外を設ける趣旨について、出入国在留管理庁が公表した「入管法改正案Q&A」では、次のように説明されている(Q5)。
 難民と認定されなかったにもかかわらず、同じような事情を主張し続けて難民認定申請を3回以上繰り返す外国人は、通常、難民として保護されるべき人には当たらない(申請時に難民と認定することが相当であることを示す資料が提出された場合を除きます。)と考えられます。 そこで、このような外国人については、今回の入管法改正法案により、送還停止効の例外として、難民認定手続中であっても日本からの強制的な退去を可能とすることとしました。
 さらに、出入国在留管理庁が作成した「現行法の課題と改正法案の内容・効果2/5」というスライド(参照)にも、送還停止効の例外を設けることで期待できる効果として、
送還回避のために難民認定申請する者等を送還できる
と書かれている。

 以上から、改正法案で例外を設けるのは、難民申請の濫用を防止する趣旨であることが読み取れる。だが、この趣旨ははたして妥当なのだろうか。
 これに関連し、上記の2021年9月22日東京高裁の送還違憲判決は、次のとおり判示している。

控訴人らの本件各異議申立てが濫用的なものであり、救済の必要性に乏しいと主張するが、難民該当性の問題と難民不認定処分について司法審査を受ける機会の保障とは別の問題であり、当該難民申請が濫用的なものであるか否かも含めて司法審査の対象とされるべきであるから、控訴人らの難民申請にかかる上記事情を前提としても、そのことをもって、司法審査の機会を実質的に奪うことが許容されるものではない。

 そうだとすると、司法審査を受ける機会どころか、出入国在留管理庁内部の審査すら受ける機会を与えないで強制送還することを可能とする入管法改定案は、はなから論外ということになる。そして、国はこの判決に対して、上告することなく服したのである。その意味は、重い。

重大犯罪者等の場合も同様


 例外規定を設けることが提案された②重大犯罪もしくは暴力的破壊主義者、についても同様である。
 難民条約で送還禁止の例外として認められているのは、
当該締約国の安全にとって危険であると認めるに足りる相当な理由がある者または特に重大な犯罪について有罪の判決が確定し当該締約国の社会にとって危険な存在となった者
だけである。以下条文を示す。

難民条約第33条【追放及び送還の禁止】
1 締約国は、難民を、いかなる方法によっても、人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見のためにその生命または自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放しまたは送還してはならない。
2 締約国にいる難民であって、当該締約国の安全にとって危険であると認めるに足りる相当な理由がある者または特に重大な犯罪について有罪の判決が確定し当該締約国の社会にとって危険な存在となった者は、1の規定による利益の享受を要求することができない。



 東京高裁判決の趣旨からすると、条約上の例外に該当するかどうかについても、当然司法審査の機会を保障すべきなのであるから、出入国在留管理庁のみが独自に②重大犯罪もしくは暴力的破壊主義者かどうかを判断し、強制送還できるような仕組みを作ることは許されないのである。
 さらに、難民条約33条2項に該当するとして難民を送還することが許容できるかどうかについては、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が、相当慎重に判断すべきという以下の意見を、2021年4月9日付で公表している。
 送還停止効は、初めて難民申請を行う申請者については、難民認定に関する第一次審査と不認定処分に対する不服審査が行われている間、一定の犯罪歴がある、またはテロリズムや暴力主義的破壊活動に関与するおそれや可能性があるというだけの理由によっては、決して解除されてはならない。
 送還が危険を消滅または軽減させる最後の手段でなくてはならず、比例性が無くてはならない;つまり、国家や社会に対して当該難民が及ぼす将来的な危険が、当該難民が出身国に送り返された際に直面する危険を上回るときにのみ可能である。難民認定の個人面接や不服審査も含め、難民条約の難民の定義に照らして難民該当性を完全に評価される権利がまず確保されなければならない。

司法審査の機会が保障されない法案の再提出は許されない

 このように、政府が上告することなく確定した東京高裁判決の内容を踏まえると、3回目以上の難民申請者や、難民条約上送還が禁止される「当該締約国の安全にとって危険であると認めるに足りる相当な理由がある者または特に重大な犯罪について有罪の判決が確定し当該締約国の社会にとって危険な存在となった者」に当たるかについても、司法審査を受ける機会が保障されなくてはならないのは明らかである。
 再提出が取り沙汰されている入管法改定案に前回同様、「送還停止効例外規定」が盛り込まれるのであれば、自らその判断に服した東京高裁判決に違反することになる。
 以上のことから、司法審査の機会が保障されない送還停止効例外規定を含んだ入管法改定案の再提出は、許されないのである。


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