見出し画像

「そこが知りたい!入管法改正案」について その4 無限ループとなる退去命令拒否罪

「そこが知りたい!入管法改正案」の「2 現行入管法の課題 (2)」では、退去を拒む自国民の受取を拒否する国の存在と迷惑妨害行為による航空機への搭乗拒否が、退去を拒む外国人を強制的に退去させる妨げとなっているとしています。

その解決策として、「強制的に退去させる手段がない外国人に退去を命令する制度を設けます。」、「罰則を設け、命令に従わなかった場合には、刑事罰を科されうるとすることで、退去を拒む上記の者に、自ら帰国するように促します。」としています(「4 入管法改正案の概要等 (2)②)。

退去を拒む自国民を受け取らない国の責任を個人に転嫁できるのか?

ですが、挙げられている類型のうち一つ目は、これ、個人の責任ではなくて、その国の責任ですよね。
自分の出身国に原因があるのに、どうして当該国出身の人が刑事罰まで受けるのでしょうか。理屈が立ちません。
自分で帰らないから悪いのだ、という言い分もあるかもしれませんが、強制送還というのは国権の発動場面であり、本人の意思に反してでも行えるものです。
機能不全のつけを、個人に負わせるのは間違っています。
2つ目も、航空機内で送還妨害行為に及んだ場合、搭乗させないという判断を下すのは当該航空機の機長です。乗せていけば良いだけです。妨害行為が公務執行妨害罪とか、強要罪とか、航空法とかに触れるのであればそれで処罰すればすむ話です。刑法に触れるまでの行為でないのであれば、それは処罰するほどのことではないということではないでしょうか。

無限ループ


そして、この案が出た当初から繰り返し述べていることですが、本当に送還を拒む人には、この制度は何の意味もないです。
退去命令を下され、それに反したら刑事罰をうけて刑務所に行っても、刑期が明けたら入管に戻ってきます。その後また退去命令を下され、したがわず刑務所へ、刑期が明けたら入管へ。また退去命令・・・・と無限に繰り返すことができてしまいます。
2021年の法案でも同じ制度が盛り込まれており、その時からこの点を指摘し続けてきましたが、それから2年以上経っても、この無限ループを回避できる方法について政府から回答を得たことはありません。それはそうでしょう。回避できないのですから。

「命令の対象を必要最小限に限定」?


「そこが知りたい!入管法改正案」では、「そもそも命令の対象を必要最小限に限定しており、送還忌避者一般を処罰するものではありません。」としています。
確かに、退去命令の対象は上記のとおり限定されていますが、別の落とし穴が用意されています。

退去強制令書の発付を受けた者を送還するために必要がある場合には、その者に対し、旅券の発給の申請その他送還するために必要な行為として法務省令で定める行為をすべきことを命ずることができるとしています。こちらには、限定はないのです。そして、これに違反した場合には、退去命令拒否罪と同じ刑罰が予定されています(法案52条12項)。

退去命令(法案55条の2第1項)については、送還停止効の認められた難民申請者の場合は退去命令のその効力が停止されるものの(同条2項)、旅券発給申請等命令(52条12項)については停止効がありません。
ですから、送還停止効の例外とされる難民申請者だけでなく、送還停止効が認められる難民申請者にまで旅券発給申請の命令をすることができます。刑罰による威嚇のもとで、強制送還の準備を進めることが可能となります。これは、ノンルフールマン原則(難民条約33条1項)に反します。

「そこが知りたい!入管法改正案」では、この旅券発給申請の命令については一切言及がありません。アンフェアです。

刑罰は必要最小限であるべき


本来、強制送還という直接強制が可能な権能を有しているのに、刑事罰による抑止力に頼らなくてはならないというのは国家権能の機能不全を宣明するようなものです。諸外国に倣い、自発的な帰国に促すための諸方策(たとえば、帰国後に使える生活費を交付するなど)を、コスト面も含めて検討するのが先決です。言うことを効かないから罰を与えればよいというのは、刑法の謙抑性(「刑罰はなるべく必要最低限に規定・執行されるべきで、最後の手段でなくてはならない。そのため刑法は補充の形で登場すればよい」という、刑法の基本的な考え方)に反します。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?