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浅川晃広参考人質疑の衝撃 出身国情報は「たまに」見る。ほとんどは見ないで3800件を判断

たった今(2023年5月25日)、参議院法務委員会の参考人質疑が終わりました。
浅川晃広参考人の質疑における回答があまりに衝撃的だったので、ここに記しておきます。

10年で3800件 年1000件も


この日の午前中の質疑で、難民審査参与員の柳瀬房子さんが2022年は二次審査全件4740件のうち1231件(勤務日数32日)、2021年は全6741件のうち1378件(勤務日数34日)にも及ぶことが明らかにされ、衝撃が走っていました。単純計算で1日約40件、8時間で処理するとして1件あたり12分で審理されているからです。

ですが、午後1時から始まった参考人質疑の浅川晃広参考人は、自らの難民審査参与員の経験につき、10年で3800件、年間で1000件処理したことがあることを自ら明らかにしました。

書面審査の方法


浅川晃広参考人によれば、予め入管から書類が送られてきてそちらを検討して、その上で入管に集まり3人の参与員が意見を述べ合う、なので、1日50件判断をすることもできるとのことでした。
その判断は、まず、難民条約に定める5つの理由(人種、宗教、国籍、特定の社会的集団、政治的意見)に当てはまるかどうかで簡単に判断できるものもあるとして、借金取りから逃げてきた事例や、不貞行為の相手方から殺されるという事例を挙げていました。

出身国情報はほとんど見ない!

そして、浅川晃広参考人は、入管から送られてくる書類の最後の方に日本語にされた出身国情報があるが、ほとんど見ないで審理をしているということを明言していました。
また、難民条約上の5つの理由に当てはまるものであっても、地域的なもので全国的な広がりがないものについても、出身国情報を参照せずに判断をしているとも述べていました。

出身国情報の重要性


これには大変驚きましたが、他方で、なるほど、こういうやり方なら年間1000件処理できるのだと、得心もしました。

UNHCRハンドブック


国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の作成した難民認定基準ハンドブックでは以下のとおり記述されています(同13)。このハンドブックは、「ハンドブックは『拘束力』があるものではありませんが、難民の定義および関連する手続要件の解釈において、権威ある文書として政府当局や裁判所により認識され、引用されています。」(同「日本語版への序」)というものです。

申請者の供述は抽象的に捉えられることはできず、関連のある背景事情の文脈の下で考察されねばならない。申請者の出身国の状況を知ることは、第一義的な目的ではないが、申請者の信憑性を評価するに当たって主要な要素となる。

1951年難民の地位に関する条約第1条の解釈


また、UNHCRの「1951年難民の地位に関する条約第1条の解釈」パラグラフ11では、以下のとおり明記しています。

その事案の個別事情に関連性のある客観的で信頼できる出身国情報は、分析のこの段階において必須である。

UNHCR研修テキスト(追記)


こちらの19頁にも、以下のとおり書かれています。

また、申請者の信憑性と恐怖は、出身国の状況の客観的情報に照らして試算されなければならない。信頼のできる出身国情報は、この点で不可欠な情報である。

こんな本を書かれている浅川さんが、こんな基本中のキを理解されていないのに、心底驚きました。


阿部浩己参考人の意見

難民「認定」の専門家ではなかった

ですが、浅川晃広参考人の話は、2023年5月23日に行われた参考人質疑での阿部浩己さんが、「難民認定の専門家」はいない、という意見を裏づけるものだったと思います。
難民法の解釈や理論を机上でいくらわかっていても、実際の証拠にあたり、申請者本人の供述を聞き、その信憑性を評価することとは全く別物です。野球のルールブックを丸暗記し、ノウハウ本をどれだけ読んだとしても、実際に試合でホームランを打ったり、160㎞の球を投げられないのと同じです。いみじくも、浅川参考人は、どうなれば「専門家」と言えるのか示してほしいとおっしゃっていましたが、この発言自体が、その区別がわかっていないことを自白したに等しいと思いました。

出身国情報も見ずに判断してる???

また、浅川晃広参考人は、明らかに難民条約上の理由に該当しない申請を簡単に弾いていたことを繰り返し述べていました。その判断のためには、出身国情報は見るまでもないということでした。

他方、阿部浩己参考人は、夫が交通事故で亡くなった。そのことを理由に、夫の親族から危害を加えられるというこういうことを訴えて本国を逃れてきたというケースで、出身国情報を丹念に調べて、「特定の社会的集団」に属する難民という意見を述べたと言っていました。

難民保護という基本的な姿勢があまりに違うと思います。

浅川晃広参考人は、また、スリランカでの政党間での対立が地域的なものであることを理由に、難民該当性を認めなかったという事例をひいていましたが、これなど、出身国情報を見なければ到底その対立が地域的なものなのか否かというのはわかりません。

ひょっとすると、今日の浅川晃広参考人は、柳瀬房子さん問題の火消し役という役割を期待されていたのかもしれませんが、あまりに杜撰で、基本も知らない方が難民審査参与員として審査を担当していることを白日の下に晒すことになったと思います。

法案の立法事実とされた柳瀬房子さんも同様だったのか、証人喚問が不可欠です。

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