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「そこが知りたい!入管法改正案」 Q&A 「Q5 なぜ,日本からの退去を拒む外国人を退去させられないのですか?」について 制度の一部切り取りはやめましょう
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「そこが知りたい!入管法改正案」 Q&A 「Q5 なぜ,日本からの退去を拒む外国人を退去させられないのですか?」について 制度の一部切り取りはやめましょう

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Q5では、送還の妨げになっている理由を挙げています。

送還停止効

まず、「現在の入管法では,難民認定手続中の外国人は,申請の回数や理由等を問わず,また,重大犯罪を犯した者やテロリスト等であっても,日本から退去させることができません(送還停止効)。外国人のごく一部ですが,そのことに着目し,難民認定申請を繰り返すことによって,日本からの退去を回避しようとする外国人が存在します。」とあります。

テロリスト?

日本に入国したテロリストが難民申請するんでしょうか?0.4%しか認められないのに?送還拒否して収容されたまま日本に居続けるのでしょうか。まず、そういう例はないと思います。

古い話で恐縮ですが、2001年、9.11の同時多発テロ後にアフガニスタン難民申請者が一斉収容される事件があり、大騒ぎになりました。どうも、彼らがアルカイダの仲間と思われたらしいのですが、一人としてテロリストであったという事実はなく、でも、入管はメンツを保つために彼らを収容し続けました。

詳しくは、土井香苗さんの以下の書籍に書いてあります。

政府案ではテロリストなどの暴力的破壊主義者を送還停止効の対象から外そうとしていますが、1 立法事実がない 2 入管にテロリストとしての認定能力が無いです。

さらに、難民条約33条2項は、「締約国にいる難民であって、当該締約国の安全にとって危険であると認めるに足りる相当な理由がある者または特に重大な犯罪について有罪の判決が確定し当該締約国の社会にとって危険な存在となった者」については送還禁止の例外を認めているのですが、「当該締約国の安全にとって危険であると認めるに足りる相当な理由がある者」かどうかは、その人が本国に送還された場合の危険と、送還しない場合の庇護国の安全とを慎重に比較衡量しないといけないのです(以下の「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案(第 204 回国会提出)に関する 2021 年 4 月 9 日付け国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の見解の概要」2頁)。


今回の改正法案ではそういう配慮が全くありません。

重大犯罪?

また、今回の政府案は、「無期若しくは3年以上の実刑判決に処せられた者」を送還停止効の例外としていますが、難民条約が例外を認めているのは「特に重大な犯罪について有罪の判決が確定し当該締約国の社会にとって危険な存在となった者」です。

3年以上の実刑判決というと、コンビニ強盗で怪我させたとか、特殊詐欺の掛け子とかならすぐ行ってしまいますね。条約が定める「特に重大」だとか、「当該締約国の社会にとって危険な存在」というのとはかけ離れています。

複数回申請者は濫用?

「難民と認定されなかったにもかかわらず,同じような事情を主張し続けて難民認定申請を3回以上繰り返す外国人は,通常,難民として保護されるべき人には当たらない(申請時に難民と認定することが相当であることを示す資料が提出された場合を除きます。)と考えられます。そこで,このような外国人については,今回の入管法改正法案により,送還停止効の例外として,難民認定手続中であっても日本からの強制的な退去を可能とすることとしました。」

とあります。

年間0.4%しか認定しない自らの非は省みず、申請する方が悪いという理屈ですね。

持続化給付金が0.4%しか認められなかったら、それは99.6%が濫用しているからだと考えますか?それとも制度がおかしいと考えますか?

どう考えても、制度運用が間違っているからと考えるのが普通です。

日本の難民認定制度に不備があり、救うべき人が救われていないということは、あちらこちらで言われていることなのでここでは繰り返しません。こちらにたくさん紹介されているので、ご覧下さい。

帰ったら本当に危ないから、繰り返すんです。他国に行けるなら行きたいけど、在留資格がなくなってしまったら入国させてくれる国もないです。日本という地獄を一度選んでしまったら、そこで保護されるか、命の危険がある本国に強制送還されるかどちらかしか選択肢がないのですよ。

ちなみに、国際結婚で海外からの呼び寄せをするときに、「在留資格認定証明書」というものを日本にいる配偶者が取得する必要があるのですが、こちらは1回で出ることは滅多にないと聞いたことがあります。本当の夫婦なら何度も繰り返すはずだということで試しているという話です(不正確な伝聞ならすみません)。

退去を拒む自国民の受取りを拒否する国の存在

「退去を拒む外国人を強制的に退去させるときは,入国警備官が航空機に同乗して本国に連れて行き,その外国人を本国の政府から受け取ってもらう必要があります。しかし,ごく一部ですが,そのように退去を拒む自国民の受取を拒否する国があります。」

これ、本人の責任じゃないですよね。

そういう人に命令を出して、従わなければ刑罰を科すのが今回の政府案です。ひどくないですか?

同じような場合に、ニュージーランドでは3か月の就労可能なビザを出して、送還可能になったときに改めて送還するかどうか判断するそうです。ある講演会でNZの方に聞きました。とても合理的だと思いました。

あと、人種差別撤廃条約に基づいて設置されている人種差別の撤廃に関する委員会が作成した一般的勧告30のパラグラフ25では、以下のとおり述べています。強制送還について、国籍に基づく差別を禁止しています。

25. 締約国の管轄の下からの市民でない者の追放その他の形態の排除措置に関する法令が、人種、皮膚の色、または種族的もしくは民族的出身に基づき、市民でない者を、その目的または効果において差別しないよう確保すること、ならびに、市民でない者が効果的な救済措置(追放命令に異議を申し立てる権利を含む)を平等に利用し、そのような救済措置を効果的に遂行することが認められるよう確保すること。


今だとイランに限定されるようです。

人種差別撤廃条約違反の立法だと思います。

送還妨害行為による航空機への搭乗拒否

「退去を拒む外国人の一部には,本国に送還するための航空機の中で暴れたり,大声を上げたりする人もいます。そのような外国人については,機長の指示により搭乗拒否されるため,退去させることが物理的に不可能になります。」

「そこで,その外国人を翻意させて退去等を決意させるため,最終的な手段として,一定の期限までに日本から退去することを命令し,その命令に違反した場合は処罰されるという仕組みを設けることとしました。」

ということです。

そこまでして帰れない理由は関係ないのですね。先の難民複数回申請のところと同じです。

あと、それで刑事事件にして刑務所に行って、その後また入管に来て、送還時に飛行機で暴れたらどうするんでしょうね。永遠に刑務所と入管を行き来するんでしょうか(他の類型も同じですが)。

刑事罰で脅すというのはすごく稚拙なやり方だなぁと思います。

制度の一部の切り取り?

「なお,当庁で把握している範囲では,例えば,アメリカ,フランス及びドイツについては,対象者にその国からの退去の義務を負わせ,その義務に違反した場合の罰則を設けているとのことです。」

あれ?

Q2で「そもそも,各国の出入国在留管理制度は,これを構成する個々の制度が相互に密接に関連し,制度全体で適切に機能するよう設計されており,制度の一部のみを取り出して日本の制度と比較することは適切ではありません。」って書いていませんでしたっけ?

単なるオーバーステイとか不法上陸に対して刑事罰を科す国は少ないと聞いたことがあります。

退去の義務を負わせることのできる要件、手続、不服申立て手続、弁護士の代理人選任権とか無視して、制度がありますよというのは、「制度の一部のみを取り出して日本の制度と比較することは適切ではありません。」ということにはならないのでしょうかね。


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東京生まれ、ほぼ東京育ち。早稲田大学卒。1994年弁護士登録。2009年から代々木上原で法律事務所経営 http://milestone-law.com/ Photo by Kanako Baba