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進化した2021年9月22日東京高裁判決〜1月13日名古屋高裁判決との比較

2021年9月22日、チャーター便によって送還されたスリランカ国籍男性2名について、裁判を受ける権利(憲法32条)などを侵害したとして国家賠償請求を認めた東京高裁判決。テレビだけでなく、今朝は、朝日、毎日、東京新聞で一面に掲載され、他の各紙でも取り上げられました。

ですが、彼らと同じチャーター便で送還された男性について、2021年1月13日、名古屋高裁は国の措置を違法として国賠請求を認め、国も原告も上告せず、判決は確定しています。

名古屋高裁判決の意義については、私のnoteでも以前書かせて頂きました。

今回の東京高裁判決は、名古屋高裁が先陣を切ってくれたからこそ存在するのではないか、と思っていますが、単なる追随ではなく、いくつかの面で明らかな進化を遂げています。

法違反を明言

まず、話をわかりやすくするために上記noteには触れなかったのですが、名古屋高裁判決は、裁判を受ける権利を保障する憲法32条や適正手続きを保障する憲法31条には違反しないと判断しています。以下のファイルの9頁〜10頁です。ただ、憲法違反ではないけども、司法審査を受ける機会を奪ったのが違法だ、という判断をしているのです。

これに対して、今回の東京高裁判決は、以下のとおり、憲法32条および憲法31条の適正手続の保障およびこれと結び付いた憲法13条に反すると明確に判断しました。

以上によれば、入管職員が、控訴人らが集団送還の対象となっていることを前提に、難民不認定処分に対する本件各異議申立棄却決定の告知を送還の直前まで遅らせ、同告知後は事実上第三者と連絡することを認めずに強制送還したことは、控訴人らから難民該当性に対する司法審査を受ける機会を実質的に奪ったものと評価すべきであり、憲法32条で保障する裁判を受ける権利を侵害し、同31条の適正手続の保障及びこれと結びついた同13条に反するもので、国賠法1条1項の適用上違法になるというべきである。

裁判の勝ち負けで言ったら、憲法違反と理屈づけようが、そうではないけど違法だという理屈であろうが同じなのですが、私も30年近く弁護士やってきて、自分が関わっている事件で憲法違反と明言されたのは2件目です。憲法判断をしないで同じ結論を導けるなら、憲法判断を回避するというのは一般的によくとられています。違憲判断を一度も経験しない弁護士の方が圧倒的に多いでしょう。それくらい、レアで、インパクトが強く、裁判所の力強い怒りとメッセージが感じられるのです。

濫用かどうかの判断を受ける権利がある

また、名古屋高裁判決は、以下のとおり判示しています。

入管職員が、難民不認定処分に対する異議申立棄却決定後に取消訴訟等を提起する意思を示していた被退去強制者について、集団送還の対象として異議申立棄却決定の告知を送還の直前まで遅らせ、同告知後は第三者と連絡を取ることを認めずに本国に強制送還した場合、これらの一連の公権力の行使に係る行為は、異議申立てが濫用的に行われたといえる特段の事情のない限り、上記の被退去強制者の難民該当性に関する司法審査の機会を実質的に奪ったものとして、国賠法1項1項の適用上違法となるというべきである。

太字にした部分が曲者で、この判決に従ったとしても、異議申立が濫用的であれば、同じようなチャーター便送還は違法ではないと読めます。

この判決が出た後、東京高裁の事件で、国は、案の定、こちらの事件は濫用だから名古屋高裁の判決の事案とは違う、だから参照価値はないと言ってきました。

この点について、今回の東京高裁は以下のとおり判示しました。

(国は)控訴人らの本件各異議申立てが濫用的なものであり、救済の必要性に乏しいと主張するが、難民該当性の問題と難民不認定処分について司法審査を受ける機会の保障とは別の問題であり、当該難民申請が濫用的なものであるか否かも含めて司法審査の対象とされるべきであるから、控訴人らの難民申請にかかる上記事情を前提としても、そのことをもって、司法審査の機会を実質的に奪うことが許容されるものではない。

すごくすっきりした理屈だと思います。濫用的かどうかも含めて裁判所による司法審査の機会を保障すべきだということです。

「憲法31条の適正手続の保障およびこれと結び付いた憲法13条」

これは法律学習者向けのマニアックな話かもしれません。私が司法試験の勉強をしているときには、このような「これと結び付いた」という表現にお目に掛かったことはありませんでした。

今回の訴訟でも意見書を提出して下さっている名城大学の近藤敦教授が、ここ最近の論文で使われているのをよくお見かけします。例えば、以下の「自国に入国する権利と在留権:比例原則に反して退去強制されない権利」。

日本の憲法や法律用語では聞き慣れない表現、何度かお話を伺って、ああ、そういうことかと納得はしたのですが、自分の言葉で表現できるほど租借できていないです。すみません。ただ、こういう新しい概念を採り入れて、違憲判断を下したことに先進性と、裁判所の強い意思を感じたのでした。


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