警察の権限行使と実際に起こっている犯罪の差、アメリカ警察組織の最大の問題点!

今アメリカはすごいことになっている。それもコロナ騒ぎが吹っ飛んでしまうくらい。

”Black Lives Matter”

直訳すると「黒人の命も大切だ」という意味になる。今回のデモ活動の発端となったのは、5月25日ミネソタ州ミネアポリス市で、ジョージ・フロイドさんという黒人男性が、警察官の暴行行為によって亡くなったという事件である。具体的には、偽造通貨使用の疑いで逮捕されたジョージ・フロイドさんを、4名の警察官が取り押さえるとともに、うち1名の警察官が、首を膝で8分46秒間押さえつけ、窒息死させてしまったというもの。この動画がSNSやメディアを通して拡散し、デモ活動に一気に火がついた。日本でも先日渋谷で行われていたように、今、世界各国で”Black Lives Matter”という言葉が響き渡っている。

今回の事件に関わった4名の警察官は、全員逮捕・起訴された。アメリカは各州によって法律が異なるが、ミネソタ州では、殺人罪の中でも2番目に重い罪に当たる第2級殺人罪で主犯は起訴されている。ちなみに、一番重い罪が、第1級殺人罪で無期懲役。第2級殺人罪が、懲役40年、そして第3級殺人罪が、懲役25年。このように3段階に分かれている。実は、検察官は当初第3級殺人罪で起訴をしようとしていたんだけど、まあ世論の影響があったのかな、一つ重い罪に変更をした。これは実務では珍しい。そして、今回の逮捕からの起訴までのスピードは異常な速さ。それだけ今回の事件が持つ影響力が大きいということだね。

今回の事件から考えるべき点はたくさんあると思うけど、僕が着目したい問題点は2つある。それは、①人種差別問題と②警察組織問題だ。

1つ目は、①人種差別の問題。文字通り黒人に対する人種差別の問題だ。これは誰もが言うことだと思うけど、人種差別は絶対にあってはならないこと。しかし、未だに根強い人種差別がアメリカには存在する。

今回特に問題になっているのは、いわゆる人格的な人種差別というよりは、制度的な人種差別というものだ。簡単にいうと、黒人であるだけで権利侵害を受けやすい、不利益を受けやすいというもの。このような社会的差別が、未だにアメリカでは根強く残っている。今回のコロナの問題でも、黒人の死亡率が高いというデータがあって、これは社会的差別が生み出した黒人の貧困率が関係し、医療機関でしっかりとした医療を受けることができなという背景があるからだろう。

アメリカは民主国家だから、本来は選挙で選ばれた政治家がこれを変えていかなければいけないんだけど、それが実現されてきていない。ある意味、社会がそれを容認してきてしまったという事実がある。だから、今回のようなデモ活動が起こって、国民が声をあげて直接政治を動かしていくしかない。

この人種差別の問題は非常に重要で、歴史を含めた多くのことを知る必要があるんだけど、僕が長々と語るより、僕の友人が書いてくれた記事及びそこで引用されている記事が既にわかりやすくまとめてくれているので、ぜひそちらを読んでほしいです。

僕がしっかり取り上げたいのは、②警察組織の問題。この問題も非常に重要なんだけど、あんまりクローズアップされていない印象があるね。

おそらく、今回の事件の報道を見て、日本人の方は単純にびっくりしたと思う。だって、日本の警察官が、誰かを押さえつけて、窒息死させるみたいなことは、想像しにくいからね。たしかにね、僕もニューヨークにいたときは、向こうの警察官は怖いなって思ってたよ。威圧的だし、いかついし、それでいかつい銃持ってうろうろしてるから、まあ怖い。

アメリカにおける警察官の暴力行為は、今回の事件に始まったことではなくて、昔から問題視されていたことなんだ。データによると、2015年から2020年現在に至るまで、4728人の方が警察官の暴力行為によって犠牲になっている。1年で約1000人の犠牲者がいるってことになるけど、日本じゃ考えられないよね。さらにいうと、人口の割合的に、黒人の被害者は白人の被害者の2倍以上いるという統計もある。黒人の方の被害率が大きい。ここにも人種差別の問題が絡んでしまっている。これは、アメリカ南部でそもそも警察組織が奴隷制度の維持として役割を果たしていたという歴史も関係しているんだ。


なんでアメリカの警察官ってこんなにも暴力的なんだろうか?

これは根本的な問題で、アメリカの自己防衛の理論からきているんだ。というのは、アメリカは銃社会だから(特に他国に比べて銃が手に入りやすい)、もちろん銃規制のあり方は州によって違うけど、何か危険を感じたら、何かされる前に、自分の身を守らなければならない、こういう考え方が根付いているんだよね。警察官も人間だから、最悪の場合、銃撃戦になるかもしれないという心構えが常にある。だから、警察官も暴力的になってしまう。

ここで、派生的に生じる問題が、今回の事件の最大の問題点。それは、警察官が行使する権限と実際に起こっている犯罪の差があまりにも大きすぎるというものだ。

ー警察官が行使する権限と実際に起こっている犯罪の差ー

たとえば、今回のフロイドさんの事件。彼は、20ドルの偽札を用いてタバコを購入した疑いで警察官によって取り押さえられた。もちろん偽札を使用することは犯罪だから、やってはいけないこと。とはいえ、20ドルを使って他人の生命や身体に危害を加えたわけではない。20ドルを使って社会秩序を著しく乱したわけではない。言い方を変えれば、大した罪は犯したわけではない。にもかかわらず、警察官は彼の首を膝で8分46秒も押さえつけ、結果的に窒息死させてしまった。つまり、起こっている罪のレベルにあっていない不要な措置をとってしまったわけだ。

それこそ、テロリストや凶悪犯が多くの人に危害を加えようとしたところを、警察官が阻止したという報道が出れば、たとえ暴力的でも誰も文句を言わないだろう。それは、起こっている罪のレベルにあった必要な措置をとっているから。そこに大きな違いがある。

アメリカの警察官は一人一人に強大な権限が与えられている。たとえば、日本の警察官に発砲権限は原則ないが、アメリカの警察官には個別にその権利が付与されている。また、日本では被疑者を逮捕するにあたって、逮捕状が原則必要だが、アメリカでは令状なしの逮捕が実務では認容されている。これって被疑者の人権を考えたら恐ろしいことだけど、直ちに危険を排除しなければならないというアメリカ社会の意識からすれば、ある程度は仕方がないのかもしれない。

しかし、問題なのは、アメリカの警察官があまりにも幅を利かせすぎていて、権限行使が暴走しているということ。今回の平和的なデモ活動に参加している人に対してだって、催涙スプレーをかけたり、棒で叩いたり、そもそも犯罪が起こっていないのに、こういう措置を取っている。この点をしっかりと見直す必要がある。さらに、警察官は公務員として、不祥事を起こしても免責される特権を持っている。実際に、暴力行為を起こした警察官は起訴されずに、起訴されても無罪になるケースが多く存在する。これは、自己防衛に基づく権限の行使が認容され、また、これらを司法や行政の力で正当化してしまってきたからだ。

今回の事件を受けて、民主党は警察改革案を下院で採決する動きを見せている。他方で、一部では、警察組織を廃止しろ!という声があがっており、実際に事件の現場となったミネアポリス市の市議会議長が、警察解体を宣言して話題となった。

このような、警察組織を廃止しろ!という声が一部から上がることは、警察組織改革のインセンティブとしては重要である。ただ、警察組織廃止論者の具体的なプランがない限り、実際に警察組織を解体・廃止することはできないし、僕は賛成できない。警察は治安維持という観点では必要だし、仮に警察組織を改めたところで誰がどのように街を守るのか、ちょっと思いつかないね。

とはいえ、警察組織を今のまま放っておくことはできない。だからこそ、この制度改革をしっかりと議論していくことが重要なファーストステップだと僕は思う。

第1に、警察官の免責される特権をなくすこと。これがなくなれば、警察官も自分自身の行動に慎重になり、一定の抑止力に繋がる。

第2に、警察官の権限行使と罪のバランスの強化。この点は僕が先に述べた点だけど、仮に、不要な措置をした場合は即解雇等のルールを設ける。もちろん、今回のような場合は、逮捕・起訴をする。今までは、権限を逸脱した措置があったとしても、注意程度で済まされていたところがあった。

第3に、警察官を逮捕・起訴しやすくすること。ここは要件緩和とともに、しっかりとした司法の監視を強化する必要がある。司法による制裁があることで、一定の抑止力に繋がる。

第4に、警察官の発砲権限を厳格にすること。この点は、日本の警察官みたいに原則として発砲しないというルールを作ることで、銃使用の回数をそもそも減らす必要がある。

第5に、相互監視及び報告義務。警察官はプロの意識を持って、お互いを監視し合うこと。そして、民間組織の委員会を作って、そこに報告する義務を設け、少しでも問題があれば、厳重な注意をするようにする。

もちろん、まだまだアイディアはあるだろうけど、こういった具体的な制度改革を考えることが、将来より良い警察組織を作る上で重要なことじゃないかな。

それを踏まえて、最も大切なことは、抽象的でもよいから、警察組織の問題点に対して、多くの国民が声を上げること。そして、警察組織改革の本格的な始動に対するインセンティブを政治に与えることだ。

”Black Lives Matter”は、今回の事件がきっかけで始まったものではなくて、数年前からSNS上で拡散していたものなんだけど、今回は今まで以上の規模になっている。これからアメリカの政治システムが、いわゆる二大政党制というものが、崩れるかもしれない。それくらいインパクトを持つものと言っても過言ではない。

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