知ってる!環境のこと(第63話)
⁂データや内容は、当時のものですので、ご理解ください。
こんにちは、いかがお過ごしでしょうか?今回のテーマは、「イタイイタイ病」です。今年1月19日、北部ターク県メーソット郡メタオの住民1037人が1月19日、バンコク南民事裁判所に対し、亜鉛鉱採掘によるカドミウム汚染で健康被害が発生したとして、亜鉛精製最大手のパデン・インダストリー社とターク・マイニング社を相手取り、37億バーツの損害賠償を求める集団訴訟を起こしました。日本の恐ろしい4大公害病の1つが、ここタイでも、発生していたのです。会社側は、「環境基準は満たしている」という姿勢を崩しておらず、現在もまだ解決の糸口は見えていません。
始まりは黒い米
事の発端は、2000年、ターク県有数の米所であるメーソート郡メータオ、メーク、プラタートパーデーンの3区で生産された米に、黒ずんだ米が混ざるようになったことに遡ります。2002年、既に同地区の、近隣河川水に高濃度のカドミウムが含まれていることを認識していた非営利組織・国際水資源管理研究所(IWMI)は、2004年に独自の調査を実施し、米の黒ずみは、長い間土壌に蓄積したカドミウムによる土壌汚染が原因と発表しました。同年、天然資源環境省公害管理局でも調査が行われ、1㎏当たり0.4㎎の国際基準を超える0.7㎎から2㎎のカドミウム含有米が発見されました。
被害状況は
IWMIの調査では、メーソート郡3区の約2000ヘクタールで汚染が判明しました。また、市民の健康にも影響が出ており、メ-ソ-ト総合病院などの調査で、これまでに同地区と周辺の約7000人が、カドミウム摂取による健康被害の特徴である骨の痛みや腎機能障害を訴えていることが判っています。更に、医学的な裏付けは得られていないものの、カドミウム暴露が原因と見られる死亡者は38名にも上っています。
政府の対応
タイ政府は、汚染地域でのコメ作りを禁止し、その代替作物として、燃料用のトウモロコシやサトウキビなどを植えるよう指導していますが、河川流域に広がる汚染地域では、雨季と乾季で土壌中の水分量が極端に異なるため、特にサトウキビ栽培には向かない他、低価格で買い叩かれるため、農家は赤字となり、苦しい生活を強いられています。また、政府は04~06年にかけ9000万バーツで汚染米の買い上げや稲作農家への補助金至急など救済措置を行ってきましたが、根本的な汚染源の究明には手をつけておらず、現在も土壌汚染は続いたままです。更に農業共同組合省では、米のカドミウムを減少させる技術として、酸性土壌であれば、植物に吸収されやすいというカドミウムの性質を利用し、ライム汁と有機肥料で土壌を酸性化し、土壌中のカドミウムを植物に吸収させる土壌浄化法を研究していましたが、実用段階では余りいい結果を得られなかったようです。
結果、補助金が打ち切られた年から、米作りに逆戻りし、あえて汚染米を自家食用とする農家が現れるなど、問題は振り出しに戻った感があります。今回の集団訴訟も煮え切らない政府の対応に住民側がご業を煮やした形です。今後、汚染源の根本にメスを入れることが出来るか、政府の対応が注目されます。
◆イタイイタイ病◆
富山県神通川下流域で発生した4大公害病の1つ。1968年、厚生省(当時)は、三井金属鉱業神岡鉱業所(岐阜県飛騨市、現神岡鉱業)のが排出排水が原因との見解を示し、初の公害病に認定した。患者が「痛い、痛い」と訴えたことからこの名がついた。腎臓に蓄積したカドミウムが、骨の成分を再吸収する尿細管の働きを壊し、骨軟化症を引き起こすのが特徴だが、中毒症状が多様で認定が難しいとされている。
◆カドミウムの毒性◆
カドミウムは人体に体重1kgあたり約0.7mg含まれるといわれている。また、カドミウムは多くの生物に蓄積性がみられ、人間の場合は体内に約30年間残留すると言われており、一度カドミウムに暴露されると、長期間その毒性にさらされる危険性があり、骨軟化症や肺気腫、腎障害、蛋白尿などを引き起こすといわれている。さらに、亜鉛と同族元素であるために、亜鉛含有酵素の働きを阻害したり、カドミウム除去の際に、生体に必須な亜鉛をも除去してしまう可能性がある。
◆日本よりも厳しい含有基準◆
米をはじめとして食物には、カドミウムの含有基準が設けられている。国際基準では、精米中0.4mg/kgを超えないことになっている。日本の食品衛生法上では玄米において1ppmと規定され、基準値を超過したものは、すべて焼却処分となる。しかし、食糧庁通達により玄米中0.4ppm以上の検出がされた場合、全て工業用にまわされている。各国で基準が異なるが、タイはオーストラリアと並び0.1ppmで、韓国や中国、EUの0.2ppmよりも厳しい基準を設けている。
CHAOちゃ~お ちょっとディープな北タイ情報誌
(毎月2回10・25日発行)2009年10月25日第157号掲載