見出し画像

VRミュージカル「人魚姫」感想とか音についてとか


東雲めぐちゃん主演の
VRミュージカル「人魚姫」初回を見ました。


ずっと前からVR演劇の可能性を感じている僕としては、いよいよ見れる、という感じで楽しみにしていました。2回延期になりましたが、無事に公演できてよかった。


いきなりだけど、たぶん、

何も考えずにこの作品単体で見たら別段おもしろくはないと思う。

とにかく平凡。いや、平凡に見えるところまでまとめあげたのがすごい。

「うわーダメだなー」みたいな部分がなく、マイナスのポイントになりそうなところをうまく処理していた。

あとめぐちゃんの演技もよかったので作品そのものに集中できた。

内容そのものよりも、実際にVRミュージカルという形を具現化したものを見せてもらったことで、色々なインスピレーションが湧いた。それがこの作品の収穫。そういう意味では非常によかった。

というわけで感想とかいろいろを書いていこうと思う。

音楽家なのでまずは音について書こう。

Oculus Questにミックスのモニターにも使用しているYAMAHA HPH-MT8を挿して視聴。

音楽は「とにかく歌に集中」という予算感を感じた。編曲はラフの打ち込みで、効果音はあまりついてなく、薄かった。

歌自体はメロディもめぐちゃんの歌も素晴らしかった。

たまに声や音楽がクリップしていた。たぶん、実在の舞台だったらあまり気にならないと思うんだけど、ヘッドフォンだから気になっちゃう。


声と音楽の両方のパンが中央なので、やや聴きにくかった。

パンはもうちょっと左右に振ってもいいんじゃないかなと思った。

実在の舞台だと音楽のパンはあまり振らずに、お客さんの座る位置で聴こえ方が変わらないようにする(特殊な効果を出したいときは激しく左右に揺らしたりはする)んだけど、

VRだとお客さんの座る位置でのバランスを気にしなくてよいので、もっと左右を広く使って声を聴きやすく補助したり、世界を広げたりできるとよさそうだなと。

あと、セリフの時にメロディが多すぎたり、セリフとBGMの前後感が同じ位置で聴こえたりもしてセリフにカブっていたので、BGMはもっとフワッと、奥の方に位置させたいなと思った。

そして歌パートでは音楽を前にドン、と出すとメリハリもつくと思う。

前後感を感じにくいのはヘッドホンという視聴環境もあると思う。

あと、音量のダイナミクスが少なく、音楽の音量を上げたりといった演出もたぶんなかったので、もうちょっとフェーダーでダイナミクスをつけてもよかったんじゃないかなと。

全体的な音の美しさ自体は聴きやすくてよかったし、声の残響も舞台っぽくてよかった。

その他


Oculus Quest/GoというスペックやVARKの仕様などでできなかったり諦めた演出もあると思うんだけど、専門外ながらも考えたことを無責任に書く。


VRの可能性

画像1

VR演劇にしかできないなと思ったのは

・雨
・フワフワしたものが浮いている
・めぐちゃんが常に浮いている。上に泳いでいく。
・他のキャラも浮いている
・めぐちゃんが自分の近くに来る

他にもありそうだけど。

画像4

雨はとても効果的だった。ビジュアル自体はリッチなものではないんだけど、雨が降ってきたら実際に体感の温度も下がるように感じた。

めぐちゃんの足がなく、常に浮いているのはまさにVRでしかできない。登場キャラクターの多くも浮いている。だからこの演目なのか!と思った。なるほど。

そのままだと歩いているように見えてしまうので、きちんと「泳いで」いるそう。

あと、最後にめぐちゃんが自分に手を差し出す演出があったんだけど「これが見たかったんだよ!」と思った。

VRのグッとくるポイントの1つは「近さ」だと思っていて、しかも同時に全員の目の前に寄ることができる。めぐちゃんが近くに来るのは最初のほうと最後だけだった。

近さをもっと使ってもよかった気がする。

今回はめぐちゃん以外は2Dだったのでできなかったけど、悪役が出てくるとき自分の目の前を通っていくとか、目の前まで何かが迫るとか。ディズニーランドのフィルハーマジックみたいな感じ。

そもそも、VRだったらもっと自分の体の近くで物語が進んでいくのもよさそう。

自分はテーブルに座っていて、そのテーブルの前で演じる、とか。自分は拘束されていて動けない設定みたいなのとか。自分によく語りかけてくるとか、問い詰められるけど話せない、とか。左右に人物が座っていて、左右から声が聞こえる、とか。

あと、登場人物全員が小人で、目の前のミニチュアで物語が進んでいくのはどうだろう。スケールを変えられるのもVRならではだし、ミニチュアのほうが物体のディティールを感じられる。

表示されるものが大きいと絵っぽくなりがち。今回はまんま絵だったりもしたけれど。

画像3


毒に侵されるシーンは一部の体の色などが変化してもよかったのでは?と感じた。色がその場で変えられるのもVRのよさ。


あと、ビジュアルをもっとリッチな環境で見たいー!大人数のものも見たい。今回は、めぐちゃん1人だけが動いている状態だった。

再生機器のスペックが上がれば舞台のセットじゃなく、大きなフィールド上でやれたりしそう。

照明とかにしても、VRならではの表現がまだ確立されていないので、まだ現在にあるものを踏襲する感じになっているけど、今後新しいやりかたが発明されてくるのが楽しみ。

これはあとでハッとしたんだけど、僕自身「演劇は動かずに座って定位置で見るもの」と思い込んでいた。一切動かなかったので、このミュージカルが3Dofなのか6Dofなのかもわからない。(たぶん3Dof)

6Dofだったら、観客の身体を動かす仕掛けがあってもいいんじゃないか。覗き込まないとオブジェクトが見えないとか。

演劇として

画像2

今回のミュージカルは「コンテンツ」に近かったな、と。

リアルタイム感が少なかった。全部録画でも成立しそう。

それだと、フォーマットとしてはVRゲームやVR映画、VRアニメの方が映像も音楽もリッチだからそっちがよくね?ってなっちゃう。

その時間帯にみんな揃って視聴する意味をもっとつけれるとよいなと。

物語とか音楽とかビジュアルのクオリティよりも、そっちを優先したほうが他のコンテンツとの差別化ができてよいと思う。

実在の舞台だと、その場にいるプレミア感を出す工夫を色々している。

舞台あいさつや客席の近くを通るとかもそうだし、アドリブというか、役者の遊びを入れられる部分をたくさん入れたりとか。そのときに役から外れて素が見える感じがあったりするといい(まるでVtuberみたいだ!)

あと、スイッチを押して応援しよう!みたいな双方向性のイベントを入れてもいいかも。

上映前にコメントを送れるのはよかった。ああいう感じで上映中も常にコメントしたい。


内容の印象としては、淡々と、のっぺりと進んでいく感じ。

にぎやかして場を乱していくキャラが欲しかったかも。例えばもう一人、クリオネに人が入って動くと随分違ったんじゃないか。

あと、実在の演劇だと舞台装置などを使ったりして空間の上下や前後をフルに使うけど、そういうのがなく、大体横並びの構図になっていたのもダイナミクスを感じなかった原因かな。

物体の立体感をあまり感じなかったんだけど、空間や動きをあまり使ってなかったからかも。

なぜか舞台挨拶が前にあったけど、あとにしてほしかった。スパッと終わってしまったので、もっと余韻を感じたかったし、舞台が始まる前の緊迫感を感じたかった。


おわりに

VR!すごい!という単純な感動にはもう慣れてきてしまっているので、それ以上のものを作るフェーズに入ってきているんだろうなとは感じてます。

純粋に作品としておもしろいかどうか。双方向性や共感が感じられるかどうか。

予算があまりなさそうだけど、集中すべきところに適切に使ってるな、って感じだった。

予算やスペックをもっともっと上げてみたものをいつか見てみたい。

これがその1歩になればいいな。


サポートするとこおろぎのおかずを1品増やすことができる!