世界が泣いてる 〜吉田豪ロングインタビュー〜

――いま都内某所のカラオケボックスに2人で来てるわけですけど、この企画は小日向さんが自腹を切って企画したインタビューなんですよね。
小日向 はい、そうです! 今回のアルバム(『世界が泣いてる』)のインタビューを豪さんにしてほしくて、でも力がないからわかんなくて。
――紙とネットで1本ずつ記事が出る予定だけれど。
小日向 はい。でも今回のアルバムではいろいろ知ってくれてる豪さんにインタビューしてもらいたいなと思って、自腹を切って依頼しました。
――実際、『ミュージックマガジン』のインタビューでもふつうにボクの名前が出てましたからね。
小日向 ハハハハハハ! 
――要は今回の作品にはボクとやってるイベントの影響もあるみたいだから、そのへんのことをちゃんと事情をわかっている人に話したい。
小日向 そうですね。あとこれは取材と関係ないんですけど、PANTAさんから伝言を預かってて。
――え?
小日向 オダ……オガ……オダラ? いま流行りの。
――小山田圭吾じゃないですか?
小日向 そう! 小山田圭吾さんがまだグループをやってたときに、「フリッパーズギターの小山田圭吾です」って自己紹介されて、ギター屋さんだと勘違いしたPANTAさんが「神田商会のPANTAです」って答えて大爆笑になった、それがおもしろかったんだよねっていう思い出をなぜか豪さんに伝えておいてって言われました。
――小日向さんは人名から何からわからないから伝言が致命的に向いてないんですよね。
小日向 ハハハハハハ! でも伝えた! 「神田商会」と「フリッパーズギター」はメモしておいたんで。これで使命を果たしました!
――ありがとうございます。そんなわけで小日向さんはけっこうな金銭的リスクを背負って音楽活動を続けてる人じゃないですか。
小日向 はい、背負いますね。

【解説】小日向由衣はもともと音楽に詳しいわけでもなくテレビで歌番組を見る程度だったが、JUDY AND MARYのコピーバンドに誘われ、どうせやるならオリジナル曲でやろうと、作詞作曲を始めるがすぐに解散。バンドオーディションを受けたがそれも詐欺で、オーディション費用だけ取られる。その後、変な事務所でレッスン代を払いながらモデル歩きの練習をさせられたり、一生公演されない演劇の練習とかをやらされていたが、仕事は何もこなかった。そんな頃、偶然地底アイドル現場に流れ着く。みんなカラオケで歌ってるし、カヴァーだし、これなら楽器のできない自分でもやれると思って、気が付くと何もわからないままアイドルに転身。馴染めない世界で自分なりに頑張っていたら、ある日突然起き上がれなくなる。鬱病だった。半年ぐらい家から出られなくなっていたとき、友人に無理矢理ライブを組まれ、オケがかからなくてアカペラでやらなきゃいけなくなり、次からは全曲オリジナルでやろうと決意。徐々にメンタルも安定していく。その頃、眉村ちあきとも知り合うと、なぜかレジェンドと呼ばれるようになり、現在へと至る。20年2月に初めての全国流通盤『夢じゃないよ』をリリース。コロナでリリースイベントもできなくなったせいで家に在庫が500枚ある状態なのに、わずか5ヶ月後の20年7月にアルバム『明日咲く』をリリース。その1年後となる21年7月に今回のアルバム『世界が泣いてる』がリリースされた。その直前、生誕ワンマンライブを浅草花やしきを貸し切って開催したが、予算が掛かりすぎて前売7000円、当日7500円(ソフトドリンク飲み放題付き)という無茶な価格になり、「赤字がこのままいくと…25万超えるって経理に言われて…乗り物5台動かせない…3台でも怒らないで…」「赤字が20万円にまで減りました」とかスリリングなツイートを連発していた。

――さらにリスクを背負って自腹で取材まで組んじゃったという。

小日向 そうですね。だってやりたいと思ったら我慢できない!
――決してお金がある人ではないじゃないですか。
小日向 そうなんですよ。私、文化遺産? 文化ナンチャラ制度を利用したんですよ。
――文化遺産ではないですけど、コロナ禍で活動がままならなくなって。
小日向 そう。経理をやってくれてる人にめちゃめちゃ何回も聞いてお願いして、10回以上メールが返ってきました。
――そういう作業も致命的に苦手な人ですもんね。
小日向 それを全部見せてまたお願いして。あきらめようかと思ったけど額が額なんで、これは仕事だと思ってやらないとと思って申請を出して、通ったんですよ。
――いくら入ったんですか?
小日向 80万いかないぐらいです。
――それは借りてるんじゃなくて支援金っていうことなんですよね。
小日向 …………わかんない。
――ダハハハハ! え?
小日向 え、借りてるのかな? わかんないどうしよう? かなり遣ってる!
――たぶん大丈夫だと思いますよ(笑)。
小日向 まあ、そのときにまた考えましょう。
――今日は1から話したほうがいいんですか? それとも今回のアルバムを話す流れでいろんな深い話になっていけばいい?
小日向 今回のアルバムを話す流れで。豪さんの脳みそは私を汲み取ることに適した人間だと思って。
――それなりに優れた通訳だと思います。
小日向 毎回思ってるんですけど、決意を出してるんですよ、これはもっと売れるぞっていう気持ちを持ってて……だから、なんなんでしょうね。
――前作『明日咲く』のタイトルみたいに「明日こそ売れるぞ!」っていう思いがある。
小日向 そうそうそう。今回もワーッと広げていこうっていう気持ちで出してるから、通訳があったほうがよりわかりやすいと思って。
――任せてください。とりあえず、いいアルバムでしたよ。
小日向 ホントですか!? よかった!
――小日向さんはちゃんと心に訴えかけるようなことを歌える人だから、おもしろ要素はもう消してもいいんじゃないかとか前にも言ったと思うんですけど、ホントにそうなった感じですよね。


ー来週に続くー次回の更新は8/25になります。無料で公開していきますが、もし良かったらサポート機能からサポートして頂けるととっても嬉しいです。

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