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前髪

私は、前髪がある自分の顔の方がないときに比べて好きなので、最近はずっと前髪を作っている。

他の人に対しても圧倒的前髪あり派なので、かっこいいなと思っていた同期が就活のために前髪を分けてしまったときはとても残念がったし、推していた先輩が前髪を作らなくなってしまってからの七夕のお願いは毎年「先輩がまた前髪を作ってくれますように」だ。アニメやドラマのキャラはビジュアルが変わらなくて助かる。
今までの私の推しの中で前髪がないのは、ロードオブザリングのレゴラスだけである。

前髪の話はいろいろなところでされているようだ。
私も、毎年夏になったら、前髪を作りたいけどおでこが暑いんだよねえ、という会話をする友だちがいる。
前髪切った?と気づいてもらえると嬉しい。

昨日大学を歩いていたら、すれ違った男子5人のグループの1人が、
前髪を上げてたらどうしてもヘディングを連想してしまうんよね、澤穂希みたいな、わかる?
自分もサッカーやってたからさ、
と話しているのが聞こえた。
そんなふうに女子サッカーを見たことはなかった、不思議な感性だなあとこっそり彼の言葉を心の中で転がしながら、もしすれ違った私に前髪がなかったら彼らはちょっと気まずかったかもしれないな、と思った。

私はできるだけ毎月、前髪だけを切ってもらいに美容院に行く。自分で切るのは恐ろしくできない。
切ってもらっている間は目を閉じる。時間が短いから美容師さんもあまり話しかけてこない。だからその間は、今日買って帰るもののことを考えたり、美容院の中の他の音に耳を澄ましたりする。
あの人はきっと常連さんなんだろうな、とか、彼氏はいるんですか、じゃなくて恋人はいるんですかって聞いてるあの美容師さんは気が使える人なんだろうな、とか考えていたらすぐに時間が過ぎる。

たまに、カットしてくれている美容師さんにこのぐらいの長さで大丈夫?と聞かれるので、目を開けて、ほとんど毎回、もーうちょっとだけお願いします、と言う。
カットが終わって目を開けると、前髪がまっすぐになっていて、視界がすっきりする。

またかわいくなってしまったわ、と思いながら、見えやすくなった世界を歩く日は楽しい。

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