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同志

研究室に本好きがいる。
彼とは大学1年生の時に同じクラスで、何度か一緒に実験もして、2年とちょっと同じ研究室で過ごしているのだけど、あまり話したことがない。
彼はいつも疲れていて、なんだかむすっとしているように見える。
だから研究室で重松清の本を先輩に薦めているのが耳に入って、驚いた。
あまりフィクションで心が動かないタイプだと決めつけていた。
人を見た目で判断したらいけないというフィクションを数えきれないぐらい摂取してきているのに。

最近彼はよく読みかけの本を机に置いている。
私は「あ、方舟」とか、「お、伊坂幸太郎」とちょいちょい声をかける。
だいたい「まだちょっとしか読んでない」という返事が返ってくる。
我々の会話はこれ以上は続かない。
私は研究室では本を読まないので、彼が話しかけてくることはない。
本を紹介したり、貸し借りしたりもしない。
感想を言い合ったこともない。
だけど私は彼のことを勝手に読書友だちだと思っている。
近くに本好きがいる。そう感じるといつも、少しだけ嬉しくなるのだ。

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