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#1 『その年、私たちは(原題:그 해 우리는)』

終わって欲しくなかった、まだまだこの世界に居たかった。こんなにも美しくて優しくて、心温まる世界。
2023年の年の瀬に、とても感動した韓国ドラマを観たので余韻に浸りながら感想文を書きます。(※ネタバレでしかないのでお気を付けください)



『その年、私たちは』とは。

学年一位と学年ビリが一緒に学生生活を送ったらどうなるか。とあるドキュメンタリー番組で撮影されることになった、チェ・ウンとクク・ヨンス。最近どうやら10年前の番組が巷で話題になっているらしい。ひょんなことから、10年後のいまのふたりが撮影されることになった。最悪な別れ方をしてから5年。ふたりの時間が再び動き出す…

親友の10年間の恋バナを一番特等席で観ているかのよう。


⒈ 世界観、世界観、とにかく世界観。

クク・ヨンス(left) & チェ・ウン(right)

このドラマは、一言で言うと、感情移入がとてもしやすいのです。
感情移入どころか、ふたりの世界に自分が入っているような錯覚がします。

白馬の王子様がピンチに現れるといった「そんなんありへんやろう」ってツッコミたくなるようなシーンはなく、つらいことがあったら仕事終わりにお酒を飲みながら友だちに話を聞いてもらったり、ひとりでベットの上でムシャクシャしたり、気になる人からメッセージがこないかとスマホの通知が気になったり…と。誰もが一度は経験したことがあるような日常の数々が見られます。

また、随所に主人公の心情の変化が本人の口からナレーションで語られます。思わず「うんうん、分かるー!」と、まるで自分がその人物になったかのように。恋愛ドラマとドキュメンタリーのエッセンスが織り作り込まれた、ありそうでなかったヒューマンドラマです。

日常生活をベースにしながら心がほんわかするような世界観。回を追うごとに、どんどん世界に引き込まれます。全16話を完走すると、その世界からもう戻ってこれません。

2. 登場人物の過去といま。

劇中の主役は3人です。それぞれ過去に負った心の傷を経ていまの性格が形成されています。分かっているけど変われない。そんな登場人物の心の葛藤が作品に奥行きをもたらせます。

チェ・ウン
飲食店を経営する裕福な家庭で育つ。平和主義で穏やかな性格。授業中は寝るか好きな絵を描くかで、成績は学年ビリ。現在は、画家コオとして活動中。周りからは成功者と思われている。

変わることのない穏やかな日々を過ごしたい。欲がない平和主義者だと思われていますが、実は自分が欲を出して取り巻く環境が変化することを怖れています。環境の変化に敏感に反応するのは、実の父親に捨てられたというトラウマがあるから。ヨンスから別れを告げられた時も、なぜ別れたのかその理由に囚われ続けます。

クク・ヨンス
おばあちゃん子。プライドが高く一匹狼な面を持つ。負けん気が人一倍強く、高校・大学・就活と競争社会を勝ち抜く。現在は、PR会社でチーム長を務めている。仕事はよく出来るが、その勝気な性格上、周りからは気難しい存在に。

プライドが高すぎる故に、素直になれないクールな性格。貧乏な家庭にコンプレックスを抱いており、人に弱みを見せると攻撃されると思っている。大学時代にチェ・ウンと喧嘩した時、自分が悪いと分かっているけどプライドが邪魔をして「ごめん」の一言が言えないシーンがありました。一方、自分がしっかり働いて稼ぐことで、大切なおばあちゃんを楽にさせたいという優しい一面も持ち合わせています。

キム・ジウン
チェ・ウンの親友。小学校の入学式で前後になってからずっと仲がいい。母子家庭で育つも、母親が多忙すぎるあまり、ほったらかしにされる。チェ・ウンの両親に可愛がられ、実の母親よりウンも含めた4人での思い出の方が数多くある。現在は、テレビ局でプロデューサーをしている。

実は親友の恋バナを一番近くで観ていたのが、ジウンです。最初の5年は親友として。残りの5年は2人のドキュメンタリーを撮影するプロデューサーとして。作品の中でとても重要な人物です。というのも、高校時代に一目惚れをしてから、ヨンスに片思いをしています。そう、三角関係なのです。チェ・ウンがヨンスと付き合った時に一番最初に報告したのは、キム・ジウン。親友の彼女に恋をしてはいけないと、自分の中で恋心を鎮めようとします。けど、大人になって再会すると当時からの気持ちは変わらないことに気付く…。

3. 表情のちょっとした変化、その豊かな演技力に感動しぱなっしの俳優陣。

チェ・ウン役のチェ・ウシク(최 우식)。クク・ヨンス役のキム・ダミ(김다미)。キム・ジウン役のキム・ソンチョル(김성철)。

3人とも高校生と28歳の役を両方こなすのですが、どちらも全然違和感がないです。高校のシーンではあどけなくなるし、大人になるとちゃんと垢抜けている。ほんのちょっとした表情の変化をセリフ毎に使い分ける表現力の幅の広さに驚かされます。

特に、チェ・ウシクとキム・ダミは映画『The Witch / 魔女』で共演をしています。それも、お互いを殺しあう役です。キム・ダミは、遺伝子操作によって生まれた狂気じみた殺戮兵器の女子高校生役を演じるのですが、前作と今作のギャップがとにかくすごい。チェ・ウシクも同じく殺戮兵器の役を演じており、今作からは想像できないサイコさを発揮しています。『魔女』を観
てから本作を観ると、演技力の高さをさらに感じるかと思います。

というわけで。
演技っぽさを感じない自然な演技が魅力の俳優陣。
恋愛ドラマより恋愛ドキュメンタリーに近いリアルなストーリー。
苦しい過去を持ちながらも前向きに生きようとする人間味溢れる登場人物。

2024年は心が痛い出来事でスタートしました。将来に対して漠然とした不安や恐怖を感じましたが、ドラマの優しくて心温まる世界に救われました。


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