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ステイホームの収穫 ~音楽編~


もう6月も下旬、ステイホームにとりあえずの一区切りがついてから、はや1ヶ月ほど経つ。
かといって僕の生活はさして変わらないけれど。


前回が「ステイホームの収穫 ~映画・ドラマ編~」ということだったので、今回は「音楽編」。

映画やドラマと違って音楽にはコロナ禍以前ももちろんたくさん触れていたが、聴き方、聴くもの、聴きたいと思うもの、聴いて思うことなんかはやっぱり変わったように思う。そういった点を軸にしつつ、自粛期間に触れた音楽について書いてみようと思う。


新譜

まず新譜類から。

くるりthaw
ツアーの中止を受け急遽リリースされたくるりの最新アルバム。いわゆる"お蔵入り"になった曲を集めたアルバムであるため、正直なところクセが強いアルバムではある。感触的には、カップリング曲集の『僕の住んでいた街』をもっとドープにした、そんな感じ。ではあるものの、収録曲は「未発表にしてしまうほどくるりのプリミティブな部分をそのまんま出した」ものであり、このアルバムがある意味"ピュアなくるりのアルバム"であることは間違いない。
なかなかの個性派揃いアルバムだが、コロナ禍でどうしても内向的になりがちだった自分にぴたっと寄り添ってくれるアルバムでもあったことは確実だ。"今だからこそ身に染みた"アルバム。
M1「心のなかの悪魔」、M2「鍋の中のつみれ」がまず良い。くるりオリジナルメンバー時代の曲が聴けるのも嬉しい。
あと全然関係ないけど、先述した『僕の住んでいた街』に収録されている「すけべな女の子」という曲にやたらハマって、自分には珍しくドラムをコピーしてやろうというところまでいった。オフィシャルのYouTubeに上がっているクリフ・アーモンドのドラムのライブ映像がとにかくヤバいので是非観てほしい。


サニーデイ・サービスいいね!
「カガヤの名盤探訪」で取り上げたので簡単に。さきほどのくるり『thaw』とは対称的な、溌剌としたパワーにあふれたサニーデイの最新アルバム。こっちはこっちで"ただ好きな最高の音楽"として、コロナ禍の僕の支えになってくれた。サニーデイで一番好きなアルバムを決めろと言われたら、候補に入ってくる3枚のうちの1枚には確実になるぐらいお気に入り。


The StrokesThe New Abnormal
これも以前ディスクレビューを書いたが、再度。結局カラー盤のLPは手に入らなかったものの、なんやかんやSpotifyでリピート聴きした。最初は「Bad Decisions」だけがやたら名曲だと思っていたが、何回も聴いてるうちにM6「At The Door」以降の後半部分がクるようになってきた。


The 1975Notes On A Conditional Form
いまや世界一人気なバンドといっても過言ではないぐらいの人気っぷりを博すようになったThe 1975の最新大作(The 1975はいつも大作がち)。全部で1時間20分もあるが、先行で配信されていたリード曲がバチバチの超名曲なのでそれを目印(耳印)にして意外と難なく聴ける。
前作の延長線上にあるようなアンビエントな曲から超絶甘いギターポップ、マリリンマンソンみたいなゴリゴリの曲まで、曲のバラエティがかなり豊富で聴いていて楽しい。前作がRadioheadでいう『OK Computer』だとしたら、今作は「『The Bends』『OK Computer』『Kid A』の3つを全部合わせた」みたいな感じ。というと言いすぎな感じもするが。前作で諦めてしまった人は、今作のほうが長いとはいえ一度聴いてみてほしい。まあとにかく、「Me & You Together Song」が名曲。



初めて聴いたもの

次は「今までなんやかんやちゃんと聴いてはなかったけど、聴いてみるかと思って聴いてみたら良かった」っていうもの。

Flipper's GuitarSINGLES
小沢健二LIFE
「なんやフリッパーズベスト盤かよ!」とお思いの方もいるかもしれないが、なにを隠そう僕は今までオザケンとフリッパーズをスルーし続けていたのだ。
コロナで長風呂のチャンスを数多く得た僕は、「1時間尺ぐらいのアルバムを聴いているあいだ風呂に入る」という娯楽を発見し(もともと長風呂は好き。お風呂で音楽聴くのも好き)、機会があれば即実行。はじめはお気に入りの長めのアルバムをじっくり聴きながら風呂を楽しもうという趣向だったが、「どうせじっくり音楽聴くならこの際今まで聴いてなかったやつ聴いてみよう」という考えに至ったのだ。そこでまず白羽の矢が立ったのが、ほんとうにいろんなところで名前を聞きまくっていた小沢健二の『LIFE』だった。
「聴いてみたらやっぱりむちゃええやん!」と感動した僕はオザケンがかつて所属していた、これも永遠のスルー対象だったフリッパーズギターも聴き始めた。
フリッパーズギターのベスト盤は本当に毎日レベルで聴いているが、「ベスト盤をめっちゃ聴く」というややミーハー的な行為をしたのが高校生ぶりとかそんな感じだ。無駄にオリジナルアルバムに拘って聴くようになったいま現在だが、「とりあえずベストから聴いてみる」という当時の音楽に対するフラットでピュアな気持ちを少し思い出した。


『Kid A』以降のRadiohead
さっきThe 1975をRadioheadに喩えていたわりに、僕の中のRadioheadは『Kid A』までだった。『Pablo Honey』『The Bends』『OK Computer』『Kid A』の最初の4枚まででお腹いっぱいになってしまった僕は、「5枚目以降は『Kid A』的なムズい音楽性で進んでいる」という(あながち間違ってはいない)情報から、聴かず嫌いになっていたのだ。
しかし、これも長風呂の功名で1枚1枚じっくり聴くに至ることになった。
聴いてみたところ「ムズい」という感想を持ったことが正直なところではあるが、Radioheadがここまで世界中に評価されている理由は、この『Amnesiac』からあとのアルバムを聴いていてもわかったような気がした。
「ロックは死んだ」と言い放ったバンドは「ロックバンド」のフォーマットを保ったままロックを終わらせ、新しい世界を提示する。まずは僕らが受け取り聴くことに意味がある。『Kid A』以降のRadioheadの作品は、そう思わざるを得ないものだった。


踊ってばかりの国
踊ってばかりの国は、またしても"聴こう聴こうと思って聴いてなかった"シリーズ。これもいざ聴いてみるとすごくよかった。かなり夏が近づいたこの季節の、まだ明るいうちにする長風呂によく合う。かなり長い時間熱い湯に浸かるので、揺らめくサイケサウンドと相まって体や脳が溶けていくような感覚に陥ってしまうのだが、それがとんでもなく気持ち良いのだ。
Spotifyにあるすべての音源を聴いたわけではないが、この『光の中に』というアルバムがすごくよかった。フォークやサイケのサウンドを基調にしながら、シティ・ポップ的なスタイリッシュなニュアンスの曲や、一方で非常に荒っぽいパンクテイストの曲も入っていて、全体としてすごく好きなアルバム。ジャケットもカッコいい。


Snail MailLush
Soccer Mommycolor theory
YawnersJust Calm Down
この3枚は出会ったのがほぼ同時なのでいっぺんに紹介する。
海外のオルタナ女性SSWのセンはずっと好きなのだが、今になって個人的なブーム再興が来た。
ジャケットが有名なSnail Mailは、FazerdazeやStella Donnellyが大好きな僕のストライクゾーンど真ん中なあの感じ。これもなんやかんやスルーし続けていたが、聴いてみるとやはりハマった。
Soccer Mommyはそのあたりのアーティストのなかでも歌がしっかり聴こえるような感じで、"邦楽っぽい"といえばわかりやすいのだろうか。透明感のあるサウンドが、オルタナながらもしっとりなめらかな感じで気持ち良い。夜のプールで、一人優雅な泳ぎを楽しむときに流れていてほしい、そんなアルバム。
Yawnersは上2つとは違って、バンド。音楽性もパンクめなパワーポップという感じで、僕の好きな感じ。Weezerが好きな人はもちろん、Charly BlissやBeach Bunnyが好きな人はおそらく好き。 BPMが速い曲のビート感はわりと日本のバンドに近いものも感じられるが、M6「Forgiveness」あたりのどうしようもなくパワーポップな曲が僕はやはり好きだ。ジャケットもすごくいい。


Tyler, The CreatorIGOR
Frank OceanBlonde
この期間、今までずっと聴かず嫌いしていたヒップホップも、ほんの少し有名なものだけだが聴くようになった。タイラー・ザ・クリエイターの『IGOR』はジャケットにすごい見覚えがあって(超有名だから当然。このジャケットすごくいい)、思い切って聴いてみたらすごくよかった。今まで「純然なロック・ファンたる自分がヒップホップなんか好きなわけがない!チャラいやつの聴く音楽やろそんなん!」と思っていた自分が愚かだと思った。思っていたよりずっとメロディアスで、なんというか、思ったより全然"聴けた"。シンプルにいい音楽だなと思えたのだ。あえてザラつかせているのかな?という感じのサウンドの曲もあって味わい深さもある。またなんといっても山下達郎の「FRAGILE」をサンプリングした曲が入っていて、最高。
フランク・オーシャンのほうはタイラー・ザ・クリエイターほどは聴いていないが、すごく話題になっていただけあってロック・フリークの僕でも十分すぎるほど楽しめる間口の広いアルバムだった。
ロックの曲では味わえないビート感がヒップホップにはあるので、少しロックのビートに飽きたなというときに聴いていた。


佐藤博Awakening
永井博デザインかな?と思われるジャケットがずっと気になっていたのだが、つい最近初めて聴いた。1982年のアルバムでレーベルはアルファレコード、つまりアノあたりの作品で、山下達郎をフィーチャーした楽曲もある。AORといわれるジャンルにはそこまで詳しくはないが、いわゆるそういう感じだと思う。いわゆる「シティ・ポップ」として括られているものよりもよりいっそう洋楽志向で、高度で本格派な感じ。ややテクノ的なノリの楽曲もあり。さっきも言った"アノあたり"の音楽が好きな人は百発百中で好きだと思う。



改めて聴いてやっぱりいいなと思ったもの

さんざん言った長風呂効果などにより、この期間に「これやっぱええわ」と思い直したものも数多くある。いくつか紹介する。

KIRINJIペイパードライヴァーズミュージック
もともと好きだったKIRINJIの傑作1st、この期間何回も聴いた。ポップ注意報、オシャレ警報発令。心地良すぎて昇天しそうになる。天気の良い初夏の日にぴったりだった。最新盤『cherish』もよく聴いていたけど、これもヤバいぐらい良いのでかなりおすすめ。


HomecomingsSALE OF BROKEN DREAMS
今まではどちらかというと最新アルバム『WHALE LIVING』のほうを愛聴していたのだが、ここ何ヶ月かはこっちを聴いていた。外出がはばかられ近所の散歩ぐらいしか家の外での楽しみがなく、そのBGMにしていた。爽やかな午前の散歩によく合うアルバムだ。曲の内容だけでなく、アルバムの構成、曲名、アルバム名、ジャケット、全部のセンスが最高。


ティン・パン・アレー周辺やシティ・ポップ系の音楽
常に愛してやまない70年代・80年代の日本のポップスはもちろんこの期間も聴いていた。大貫妙子『SUNSHOWER』、吉田美奈子『TWILIGHT ZONE』、杏里『Timely!!』などおなじみの名盤をよく聴いた。
特に杏里の「WINDY SUMMER」という曲には最近ハマり直した。その前の「CAT'S EYE」から曲間なしでドラムのフィルインが始まり「ダダーン」と入るイントロは何回聴いても痺れる。作詞・作曲・編曲のクレジットが角松敏生ということで納得。この『Timely!!』は本当にシティ・ポップの名盤。「都市」「夏」「リゾート」の全部乗せ。ジャケットも素晴らしい。
ティン・パン・アレー『TIN PAN ALLEY 2』も聴き直して感動した。ティン・パン・アレーといえばギターに鈴木茂、ベースに細野晴臣、キーボードに松任谷正隆、ドラムに林立夫というえげつない面子の揃ったバンドだ。バンドといってもボーカルがいて自分たちの曲を歌う普通のバンドではなく、主にバックバンドとしてアーティストの演奏やプロデュースを行う音楽家集団だ。初期のユーミンのアルバムなどはほぼすべてのバンド演奏をこのティン・パン・アレーが担当している。どおりで荒井時代のディスコグラフィに外れがないわけだ。
この『TIN PAN ALLEY 2』はバックミュージシャン集団であるティン・パン・アレーがバンド名義で残した数少ないアルバムの1枚だ。ティン・パン・アレーが関わった楽曲やカバー曲が収録されておりほとんどがインストゥルメンタルなのだが、これがとにかく良い。聴いているだけで涎が出てしまうような演奏だ。"ポップスのバンドの豊潤な演奏"を聴きたいときはとにかくこれを聴いておけば間違いない。1stアルバム『キャラメル・ママ』も同様に名盤。




他にもたくさんある気がするのだが、これ以上ほじくり出し始めるとキリがなさそうなのでこのへんにしておく。
上で紹介した音楽を中心に、この自粛期間中に僕の脳内を支配していた音楽を下↓のプレイリストに集めた。突然発掘リリースされたオアシスの(新?)曲やドラマのサントラ、映画『ウォールフラワー』に感動しすぎてDavid Bowie「Heroes」も入れてしまった。

家でなにか作業をしながら、あるいは風呂に浸かりながら、あるいはレコードを回してじっくり、そうやって音楽を聴くことが豊かで幸せな行為であることは間違いないが、電車や車に乗って移動しながら音楽を聴くのが好きな僕からすればそれが往々にできないのは少し寂しい。大学にも長らく行っていない。早く阪急電車に乗りたい。

自分以外の人がこの期間、どんな音楽を聴いていたのかも知りたい。


音楽の話ならいつでもいくらでもできる。世界が感染症に侵されたとしても音楽の魅力や価値、ポテンシャルは全く変わらない。やっぱり音楽って良い。

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