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夢に出てくるエレベーター

TikTokのおすすめに、どこかの国のドッキリ番組が出てきた。ターゲットの人物がエレベーターに乗ると、エレベーターが急激に上昇を始めて止まらなくなり、ついには空に向かって飛び出していくという内容だ。乗っていた人はみな、驚いて座り込んでしまう。

もちろんこれはトリックで、ターゲットがエレベーターだと思って乗ったのは、遊園地によくあるアトラクションである。ガラス張りで外が見えるとみせかけて実はスクリーンで、急上昇する様子を再現した映像が映し出されている。映像とシンクロして部屋がガタゴト揺れるので、乗っている人は上昇しているように錯覚する仕掛けだ。

私はこういう一般人を対象にしたドッキリ企画が好きではない。不整脈や過呼吸を起こしたらどうするのか。失禁したら人権問題ではないか。昔のテレビだったら、仮にそんなことがあっても力ずくで揉み消したのかもしれないが、令和の日本人の価値観には合わないよなあと、昔のドッキリ番組を見るたびに思う。それとも、すべてが了解済みのやらせだったとでも言うのだろうか。

いや、今回はそういう話ではなくて、私がビックリしたのはこの動画についたコメントの数々である。

実は私も、この種の夢を何度も見たことがある。

舞台はさまざまで、小学生時代に住んでいた団地だったり、都庁の10倍くらいあるナゾの巨大ビルだったり、初めて一人暮らしをしたマンションによく似ているけれども、なぜか途中階が商業施設になっていてレストランがにぎわっている不思議な建物だったり。

そこでエレベーターに乗ると、いつまでたっても止まらずに延々と上昇を続け、ついには横に動き出してビルの屋上から屋上へとジェットコースターのように飛び回る。そんな夢である。上のコメントだと2番目の人に近い。

ここ5-6年は見ていない気がするが、以前は定期的に見ていた。

同じ夢を見る人がこんなにたくさんいるんだと知り、私は衝撃を受けた。違う人生を歩んできた違う人間なのに、同じ夢を見るなんてほんとうに不思議だ。これはいったいどういうことなのか。

幼い頃から団地で育ってきた人間だけが見る、独特の夢なのだろうか。子どもの頃、ひとりでエレベーターに乗っていると、スーッとした恐怖感に襲われることがあった。あのトラウマが増幅されて夢になるのかもしれない。

あるいは、エレベーターに乗ったときのフワッとした身体感覚が脳に刻み込まれて、睡眠中に一定の条件が揃うとそれが再現されるといった、生理学的な現象なのだろうか。

多くの人が同じ夢を見るということは、なんらかの客観的な条件が関与しているわけである。それが何かは、私は心理学者でも精神分析家でもないので分からないが、なにしろ不思議な現象だ。

自分だけじゃないんだ、という気づきはインターネットの発達ですごく増えた。テレビを見ていて、アナウンサーの言っていることがおかしいと感じたら、とりあえずTwitterを検索する。私と同じようにおかしいとつぶやいている人を見つけると、なんともいえない安心感に包まれ、溜飲が下がる。そういうことをよくやる。

私は40代後半で自律神経失調症に悩まされ、突然全身に鳥肌が立ったり、汗が止まらなくなったり、肋骨が割れそうなほどの胸の圧迫感が半日続いたり、いろいろと苦しかったのだが、検索すると同じ症状のオジサンたちが何人も見つかり、それだけでずいぶん気が楽になった。

ライブの後は、飽きもせずひたすらTwitterで感想文を読み続ける。どうせみんな同じような感想しか書いていないのに、その羅列にライブの余韻が宿っているような気がして、その場から離れがたくなってしまう。

同質の人に出会う効能はなかなかのものだ。仲間を見つけたり同意してくれる人を見つけたりすることが、人生でどれほど大切なのかを、SNS時代になって身に沁みて理解するようになった。というかSNS時代だからこそ、その大切さが増幅されているのかもしれない。

本当は異質の人と出会うことも大事なのに、同質の人と出会うことがどうしても優先される。それがSNSなのだろうか。

パブロフの犬ではないが、私はもはや、同質の人との出会いがなくても、ただ画面をスクロールするだけで気が晴れる体になってしまったようだ。

だいぶ話題がずれてきたので夢の話に戻ると、私はよく、住んだことのないマンションに住んでいる夢を見る。決まって四車線の広い道路沿いにあるマンションの低層階で、これまで住んだ部屋を全部混ぜたような感じもするし、そうじゃないような気もする。

あれはいったいどこなんだろう。見たこともないし知らないのに、ふるさとのように何度も出てくる。夢は不思議だ。

やっぱりこれも、「私も知らないマンションに住んでる夢をよく見ます!」という人がけっこういるのだろうか。もしかして私も、こうやってネットに文章を書き連ねることで、誰かの溜飲を下げているのか。