「僕とみんなの往復書簡」を終えて #2 起
「たぶん、僕の商品はあまり売れないと思う。」
きっかけは、この一言だった。
この部分だけ抜粋すると、語弊が生まれそうなので、きちんと説明することにする。
この言葉を投げかけてくれたのは、100%ソイキャンドルを製作しているsheepの山川さんだった。今思うと、僕と山川さんの関係性だったからこその言葉だったように思う。
山川さんは、「食事中でも使えるキャンドル」というコンセプトで、石油系のパラフィンを使わず、オーガニックや無臭にこだわり、香りをつけるとしても精油(エッセンシャルオイル)を使用した、ソイワックス100%のキャンドルを製作している。
このキャンドルを製作するに至った経緯は、手紙にも書いてあったように、25歳の頃にマクロビ料理にはまっていた時代に遡る。
食事中にキャンドルを灯すことが増え、「普段使っているキャンドルは何から出来ているのか」という疑問が湧いたという。火を消したときのすすや、キャンドルを点けたときの独特な匂い。これは、石油系のパラフィンを使っていることに由来していると気付いたそう。
こういった、製作背景や経緯などは、卸先の販売店、まして期間限定のイベント出店など、本人が店頭に立たない場合は特に、お客様にきちんと丁寧に伝えることは不可能だ。
だから最近では、きちんと理解し、伝えてくれる店舗とのみ取引をしているらしく、今回も僕の企画展ということと、僕自身が売り場に立つということもあって、出店を了承してくれた。
そして、最初の言葉に続くのは、
「売れるに越したことは無いが、イベントでたくさん売ろうとは思っていない。それよりも、僕の作っているキャンドルを、きちんと伝えて理解してもらうことが第一だ。購入はそれからでいい。」
これを聞いて、「あぁ、僕は知ったつもりになっていただけだったのか、今までなんて失礼なお願いをしてたんだろうか」と落胆した。
それから2週間ほど、悶々とした日々を過ごした。
僕だからできる展示、作家さん達が僕に商品を託す意味、きちんと意図を伝えることのできる方法は何なのか。
答えが出たのは、2017年の年末だった。
「手紙のやりとりをしてみるのはどうだろうか。」
その年の秋、坂本裕二著の「往復書簡 初恋と不倫」読んで、手紙のやりとりに懐かしさを覚えたのもきっかけの1つだったように思う。
出店をお願いした作家さん達は、昔からの友人や先輩、知り合いも多く、どういった作品を作ってどういった活動をしているか、ある程度理解しているつもりだった。
けれど、実のところ分かっているつもりだった、知った気になっていただけなのである。山川さんとの会話の中で、そう実感した。
面と向かって、改まって聞くのは恥ずかしいけれど、手紙なら聞けるかもしれない。手紙なら相手も話しやすいかもしれない。僕がそれぞれの作家さんに対してどう思っているかを伝えることもできるし、作家さん自身も初心を振り返ったり、深い部分を改めて考えるたりするかもしれない。
お互いにとって、そんなきっかけになればいいと淡い期待を抱きながら。
「本当は、知っているようで、知らないことだらけだった」
このコピーもそのときに生まれたものだった。
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