いつかの空へ ~never ending love~

第1章 戦いは日常のなかに
第1節 千鶴の特訓


翌日の放課後。メールで待ち合わせた時間、指定した棟の窓辺に2人は集まる。
青々とした空にセットされた天候機構。

2人の学院生が今日の空を見上げて言う。
「今日も良い天気ね、酉嶋君」
「まぁまぁってとこじゃないか?」
酉嶋が先に窓から離れて行く。

それに気づいた千鶴が追いかけてくる。
「酉嶋君の脳内はもう、私の実力を見ることに向かってるってわけね」
「当たり前だ。なんの為にお前と一緒に行動を共にしなきゃならないんだ」
「はーい、酉嶋せんせ」
せんせ、と呼ばれて振り返る。
「その呼び方はやめろ」
「じゃあ、元通り酉嶋君、てことで」

細長く続くメタリックグリーンの絨毯の上を、2人は行く。
1人はピンクのロングヘアをサイドアップテールに結い上げた女子学生、もう1人は黒い前髪と黒くて四角いセルフレーム眼鏡の男子学生。

サイドアップテールの女子はその柔らかで艶やかな髪をふわりふわりとゆらして、自分より少し高い背中について行く。


長い長い通路の先には、002の番号。

これは各模擬戦演習室に割り振られる部屋番号なのである。ちなみに、各演習室を使用の際には、事前に演習質管理受付で手続きを取らなければならず、事前予約制だ。
今回は酉嶋が予約手続きを済ませてある。

「おっ、いよいよね」
「ここの予約とるとき、受付の婆さんがすげぇ訝しげに僕のこと睨んできてさ。ヒヤヒヤだったぜ」
千鶴が酉嶋の肩をぽんっと優しくたたく。
「お疲れ様です」
「そうゆうときだけ敬語になんのな、お前」

ドアノブをゆっくりと下げ、引いていく。

中には東京タワーの2分の1ほどの高さの機体が、5m間隔で円を描くように起立している。
機体には種類があり、部隊によって乗る機種が変わる。
酉嶋が授業時いつも乗っているのは、前衛部隊がのる帝戸04という機種。
千鶴が乗るのは偵察部隊専用機種スターナイト06。

「千鶴、先ずはスターナイトに乗れ」
「はーい!」

期待の横から自動で降下してくるエスカレーターに乗る。

次に機体の操縦室に入る。全面が特殊な鏡張りの為、下から見上げている酉嶋からは彼女の姿は操縦室に入った瞬間見えなくなるが、千鶴からは酉嶋の姿は勿論、外の景色も見える。

これは、帝戸空軍が他国の軍と共同開発した画期的な仕掛けなのだ。

この鏡張りのおかげで、敵からはこちらの次の一撃がいつどの機体部分から放たれるかわからないという、大きな利点がある。この鏡張りが正式に導入されて以後、帝戸空軍は連戦連勝。負け無しなのだ。

しかし、戦いは終わらない。

日常的に勃発する戦いはいまだその終わりを告げる目処は立っていない。
帝戸からは以前アメリカと戦って負けた時から、終戦の提案を何度も何度もしているのだが、いつも却下されてそれきりなのだ。他の国も容赦なく戦いを挑んではミサイルやら爆薬やらを帝戸目掛けて落としてくる。帝戸はアメリカに負けた時には既に開発していたドーム型の「都市安全機構(及び天候機構)」を建設して、日本中の安全を守り抜いている。
特にミサイルがドームを貫通或いは損傷させた報告もなく、今のところ100年間新品同様を維持。


酉嶋はスクールバックから取り出したヘッドセットを装着した。頭上斜め先の千鶴に声をかける。
「こちら酉嶋。聞こえてれば応答せよ」
『こちら千鶴。ばっちり聞こえてるわよ』

「それではこれより、実力テストを始める!」
酉嶋は安全のため3階のギャラリーへ移動した。
まもなく、エンジン駆動音が、千鶴の搭乗しているスターナイトから響く。

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