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拙作語り⑭~アートスペース逍遥

An introduction

どこかの街角で、まったりと営業中の『アートスペース・逍遥=RAMBLE=』。
アートポスター・ポストカード、CD・DVD、図版・書籍、そしてギャラリー。ここは、その名の通り、古今東西の芸術家たちの作品が集まる場所なんです。
今日も、店主たちのアート放談が聞こえてきましたよ。

概説

拙作『アートスペース・逍遥』は、アートバラエティ的現代街角短編連作小説。
音楽、美術、文学など、様々なアートを織り込みながら、「逍遥」での時間は実にまったりと過ぎていきます。
文章を書くことも絵を描くことも、そして音楽も専門的にやったことがない、ド素人の横好きによるアート作品セレクト。自分が本当に好きな作品ばかりを取り込んでいるものだから、書きながら幸せを噛みしめてました(自爆)
そもそも完結というものがあるのか分からない形式ながら、多分いまだに完結はしていない(さらに爆)。やはりこれも一昔とか前に書いてたものなので、色々古いですよね…小学生があこがれるダンス&ヴォーカルユニットとしてエグザイルは大人すぎというか渋すぎな域になってしまった。今だとどうでしょう3代目J Soul Brothersでもちょっと大人かなと…BTSとか、あるいはなにわ男子とか(え?)
ちなみに、私はNHK教育(現・Eテレ)のパペット音楽バラエティ「ハッチポッチステーション」「クインテット」「フックブックロー」(さらには執筆を離れて以降放映された「コレナンデ商会」も含め;)が大好きで、それらのような世界を自分テイストで書いてみたかったという動機もあります・・・暴露。

主要登場人物

■マスター:
 『逍遥』店主。本名は英多執人あがた もりひと。上品な老紳士。芸術全般に知識があるだけでなく、たまに楽器を弾いたりもする。
■美音:
 フルネームは設楽美音したら みお。『逍遥』に勤める、妙齢をやや過ぎかけた女性従業員。ピアノを自在に弾きこなす、「弾いて歌えるアシスタント」。なぜかマスターには「キタラくん」と呼ばれているが……。
■序:
 フルネームは米込序よねごめ ひさし。『逍遥』で主に力仕事を請け負う、男子アルバイト。近くの大学院生で、専攻は心理学だが、超心理学や占い、文学も好き。ここに来るようになってから、アコースティックギターを再び弾き始めた。

さらに、準レギュラーとでも呼ぶべき、『逍遥』のお客様。

鳴海迅太なるみ はやた
 理科学関係の装置や材料を扱う渡瀬理化の営業。外回りの途中で、喫茶店と間違えて『逍遥』に入って来た。雰囲気が気に入ったとかで、また来るつもりらしい。
飯塚公いいづか とおる
 近所に住む小学二年生男子。エグザイルのパフォーマーを夢見る、食べることとダンスが好きで少々見栄っ張りな少年。
橘理与たちばな りよ
 美音の旧友で、チェロ奏者。迷いを感じて『逍遥』を訪ね来るが、店の人たちに背中を押されて吹っ切れた。
文屋斉信ふんや ただのぶ
 近隣で書道サークルを主宰する、店主と同年代の老紳士。
葛野絵里子かずの えりこ
 近隣で絵手紙サークルを主宰する、パート主婦。
 

本編本文

今時期なので、クリスマスの一話をこちらで再掲。

Wn-03. クリスマスの夜に

 12月25日、クリスマス。前日のイヴのほうが盛り上がるせいか、クリスマス当日は装飾等はそのままだが、街も歳末ムードが色濃くなっているようだ。
 午後4時過ぎ、まだ明るいうちに、近所の小学生・とおるがアートスペースにやって来た。
「来るの早えよ」
 通常より早く店をしまい、ささやかなパーティーを開く予定ではある。しかし、今日の閉店時刻は午後6時だ。普段通りに店内の雑用に励んでいた男子学生アルバイトのひさしは素で言った。
「だってぇ。親に送りも迎えもしてもらうのは気まずいじゃんよ。帰りはさすがに迎えに来てもらうけどさあ・・・」
 確かに、歩いて数分の距離とはいえ、日没後の道を小学生一人で歩かせるのは不安が多い。
「あ、そう。じゃあ、おとなしくしててよ」
と、少年をギャラリー傍の休憩スペースにあるテーブルセットに着かせた。
「でも、もう4時過ぎたのか・・・」
 序は壁の掛時計を見上げた。
「そろそろ、準備始める?」
 軽やかな足音と共に、ポスター額を抱えた女性従業員・美音みおが、店奥から姿を見せる。
「そうですね。・・・マスターは?」
「午後は用事があって出掛けるって。料理とか引き取って、お店閉める時間には戻って来るって」
「なら、俺たちは会場のセッティングだけすればいいんですね」
「そういうことね。・・・というわけで、序くん。これを掛けて」
 美音が出した額には、幼子に捧げ物をする三博士を描いたアートポスターが納められている。
「へえ、こんなポスターもあったんですか」
「あったみたい。マスターが出してきたの」
「作品名は『Nativity〈降誕〉』・・・クリスマスならではね」
「で、これの筆者って」
「アンディ・ウォーホル」
 美音の返答に、序は意外そうな顔をした。
「え?ウォーホルって確か、あのマリリン・モンローの顔写真とかを色んなカラーで刷って並べてアートにするって人でしたよね」
「うん。わたしも、そういうイメージだったから驚いた」
 とりあえず、序は折り畳み式の小さな脚立を持ち、パーティー会場となる休憩スペースから良く見える位置の壁の額絵を交換した。

『Nativity』 アンディ・ウォーホル

「公くんは早いのね」
「まあね。暗くなる前に参上しておかなきゃ」
「なら、ちょっと手伝ってもらおうかな。難しいことじゃないから」
「お任せあれ!」
 話がついたようで、美音は椅子に掛けていた公に声を掛けて、店奥へと去って行く。そしてほどなく、二人はグラスや皿の載ったトレーとクリスマスカラーのテーブルクロスを持って戻って来る。
「まだ一応営業中の時間だから。エントランスから見えない所・・・この辺に置いとこうかな」
 食器類を、店頭から見えない棚の空きスペースに置いた。
「あーあ。それでもまだ5時」
などと美音が溜息をつくと、エントランスドアのチャイムが鳴る。店主かと思えば、お客さんであった。
 五十路を過ぎた男性客は、店に入るなり訊いてくる。
「クリスマスカードって、まだ扱ってる?」
「え?ああ、はい。ありますよ」
 レジ傍に立っていた序が応対し、季節のカードのコーナーへ案内する。
「いやあ、良かった!」
 ほっとした風でカードの入ったペーパーバッグを手に帰って行く客を見送り、公が言う。
「そうか。ここ、お店なんだ」
「何だと思ってるのよ?」
 美音は不満げに声を上げるが、
「・・・まあ、ポストカードとかアートポスターとか、グリーティングカードとか、そういうの商うだけのお店でもないんだけどね。その辺のステーショナリーストアやデパートでは売ってないような物もマスターが見付けて仕入れてくるから、そういう『ここらじゃ珍しい』カード類を目当てに来るお客さんが居るのも事実なのね」
 通い始めて一年ほど経とうというのに、改めてこの店について聞くのが、公には初めてだった。一つ二つうなずき、
「ふーん。じゃあ、ねえちゃんとかマスターとかがミニコンサートをやる・・・」
「あれは売上に一切関係ない、いわば余興」
「えー?お金とればいいじゃん」
「取らないから、自由にやっていられるの。そこがいいんじゃない」
「ストリートミュージシャンみたいに帽子とか置いとけば、入れてくれる人も居るかもよ」
「公くんは入れてくれるの?」
 悪戯っぽく美音が訊くと、
「うーん、どうだろうなあ。奮発しても五百円くらい?」
 素直に答えた公に、美音が笑った。
「あ、でも。もうじきオレ、小金持ちになるんだぜー。お正月だからね!」
「そっか。お年玉」
「八割は貯金して、残りでDVD買うの。EXILEの」
 本当に好きらしい。
「来年は年が明けたら貸ギャラリーで展覧会をやるから、新年早々ちょっと忙しいのよね」
「展覧会・・・?」
「そう。美術館まで敷居が高くなくて、公民館ほど くだけてなくて・・・程良く身近でお洒落な感じで、趣味の展覧会に使ってもらってるんだ」
「なるへそ。色んな顔のある店なんだね、ここって」
 美音は会心の笑みで、
「分かってもらえれば嬉しいわね」
 閉店そしてパーティーの始まりまでは、まだ三十分ほど時間がある。倉庫を見に行った序が、店内に戻って来て問いかける。
「美音さん。さっき、展覧会がどうのって言いました?」
「あ、聞こえた?序くんはマスターからまだ聞いてないのか」
「ええ」
 チャイムが鳴り、皆がエントランスへと視線を向ける。
「こんばんは。間に合ってよかった」
 店の出入口で笑顔を見せたのは、仕事帰りと見える二十代後半ほどのビジネスマン。
「鳴海さん」
 営業の途中で偶然立ち寄って以来しばしば訪れる、鳴海迅太なるみ はやたであった。
「ま、とりあえず入ってください」
 序は、休憩スペースのテーブルに彼を招く。迅太はコートを脱いで椅子の背もたれに掛け、
「ほんとにオードブルとかシャンパンとか・・・何も持たずに来ちゃったけど、良かったの?」
「いやいやー。ノープレミアムなんだよ、にいさん」
 公が、椅子から身を乗り出して答えた。
「ノープロブレム、な」
 つかさず序が訂正し、皆が揃って笑った。
「何も持たず、って言ったけど・・・それは?」
 序は、迅太が床に置いた手提げバッグを目に留めて訊くが、
「これは、始まってからのお楽しみさ」
「えー!サプライズ・プレゼントとかー!?」
 公が目を輝かせる。
「そうとも言うかな」
「・・・えーと。用意したグラスと取り皿は、五客分。あとはマスターが来れば揃ったことになるのかしら」
 午後6時まで数分となり、美音はレジ廻りを片付け、序は外用の立看板を下げに出る。
「あ。お帰りなさい、マスター。持ちますよ」
 ドア越しに、序の声が中まで届いた。
 店主たる老紳士と序が、幾つもの箱を抱えて入って来る。ちょうどその時、掛時計が午後6時を指し、正時を知らせるメロディーが鳴った。
 引き取ってきたオードブルやケーキをテーブルに置き、店主はドアの掛け札を「CLOSED」に返し、鍵をかけた。
「お揃いですか」
「ええ。ちょっと前に」
「わたし、冷蔵庫の飲み物を持ってきますね」
 早速、料理がテーブルの上に並べられ、皆にグラスと取り皿が配られる。ドリンク類を取りに行った美音が戻り、グラスにめいめい飲み者を注ぐ。これにて準備完了だ。
「さて、始めましょう」
「楽しいクリスマスに、かんぱーい!」
 序がケーキを切り分けている間に、美音が席を立つ。
「えー、さて。お酒が回らないうちに・・・あと、手が汚れないうちに。真面目に弾き語りしておきます」
 そしてピアノ前に座り、カバーを開ける。オルゴールを思わせるパッセージから始まるのは、『Merry Christmas To You』。

『Merry Christmas To You』
作詞:永井真理子/辛島美登里 作曲:辛島美登里

「以上、『これまでに感謝を。これからに希望を』の、わたしからの歌のプレゼントでした」
 ピアノ椅子を立ち、恭しく礼をした美音に、皆が拍手を送った。
「あ。じゃあ、オレも。お腹がふくれて動きにキレがなくなる前にやるー」
 続いて、公が口の中のチキンやサラダを飲み込んで立ち上がる。
「ねえちゃん、伴奏ヨロシク」
「いいけど。曲は?」
 改めてピアノ椅子に座り直した美音に歩み寄り、耳打ちする。
「弾けるよな?」
「あたりきしゃりきのコンコンチキよ」
 美音の返答に苦笑いをこぼしつつ、公は店内の空きスペースに移動する。
「自称『歌って踊れる小学二年生』のオンステージですよ」
 首をかしげる迅太に、序が手短に説明した。
 美音が奏で始める軽快な曲は、子供にも馴染み深いクリスマスキャロル。
♪あわてんぼうの サンタクロース・・・

『あわてんぼうのサンタクロース』
作詞:吉岡治 作曲:小林亜星

 歌い踊る公を見て、序が席を立つ。店の隅の箱にタンバリンが入っていたのを思い出したからだった。タンバリンを鳴らして盛り上げていると、
「にいちゃん、いいの持ってるじゃーん!」
という目で公が寄ってきたので、素直に渡した。
 曲が終わると、公は例の大げさな一礼をし、席に戻る。
「あのー。わたしも戻っていい?」
 序も迅太も反論しない。店主がうなずき、
「どうぞ」
 しばし、食事を楽しみながら歓談の時間が流れる。皆が概ね食べ終えたと見ると、序は店奥へと去って行く。ギターを取りに行ったのかと思ったが、彼が抱えて戻ってきたのは、もっと小さなものだった。
「ウクレレだ」
 迅太がまず気付き、
「ええ」
 「6弦のギターが弾けるのなら、4弦のベースやウクレレも弾けるはずよね」と、イルミネーション見物のお供をした『お礼』にと美音がくれたものだった。もはや御礼でも何でもなく半ば押しつけでもあるのだが、序はありがたく頂戴し、今日のために『ある曲』をこっそり練習していた。
 店の折り畳み脚立を開いて椅子のようにし、そこに腰掛けてウクレレを構える。
「常夏の国、そして今が夏の南半球でのクリスマスを思い浮かべながら、聴いてほしいと思います」
 彼が準備した曲は『メレ・カリキマカ』――ハワイの言葉で「メリー・クリスマス」という意味の、ハワイアン・クリスマス・ソング。

『Mele Kalikimaka(Hawaiian Christmas Song)』

 演奏を終えて普通に軽く頭を下げ、ウクレレを持ったまま席に戻る。続いて、迅太がバッグを持って席を立ち、休憩スペースのもう一つのテーブルの上に中身を出した。一見すると太鼓の一種のようではあるが・・・
「・・・それは?」
「電子ドラム・パーカッション。買っちゃった」
 迅太は子供のように笑い、電源を入れるとドラムスティックを手に取った。
 タン・タタタ・タン・タタタ・タン・タタタ・・・
 スネアドラムの音色で規則正しく刻まれるリズム。
♪Come they told me pa rum pum pum pum ・・・
「この世に生まれ来た、幼くも偉大なる、我らが王様。僕は貧しくて、あなたに何も差し上げるものがありません。だからせめて、この太鼓を叩いてお聞かせしましょう。よろしいですか・・・?」
 キリスト降誕の夜、一つの物語。その曲の名は、『Little Drummer Boy』。

『Little Drummer Boy』

 曲の途中で美音が席を立ち、急ぎ足でピアノ前に向かう。素早くカバーを開け、即座に演奏に加わった。
♪Then he smiled at me pa rum pum pum pum ・・・
 そして、フィナーレ。
「こういうことなら、最初に教えてくれたほうが助かるわ」
 美音が軽く嫌味を込めて言う。
「それはどうも」
 迅太も、軽く受け流した。
 店主は、すっかり空になったテーブルの上の皿を見渡して、壁の掛時計を見やる。
「お開きの前に、皆で合唱しませんか」
「いいですよ。で、何の曲を?」
 序が尋ねるそばから、老紳士の返事を待たず美音がピアノを弾き始める。
 タン・タララララ・タン・タン、・・・
 誰もが知っている、クリスマスソング。テーブルについていた皆が、その場で立ち上がり、声を合わせて歌った。
♪ We Wish You a Merry Christmas, And a Happy New Year.

『We Wish You A Merry Christmas』

「楽しいひとときを、ありがとうございました」
 店主が挨拶を終えるとほぼ時を同じくして、午後8時を告げて掛時計から正時のメロディーが流れた。
 と、ドアを叩く音がする。ドアのガラス越しに、三十代ほどの婦人の顔が見える。
「あ。母ちゃんが迎えに来たー」
 公が席を立ち、エントランスへと走っていき鍵を開ける。
「気を付けて」
「もちろん!ありがとねー」
 元気に手を振り、深くお辞儀をし店内の面々に感謝を伝えた母親に手を引かれて、一足先に帰途についた。
「さて、我々も片付けて帰りましょう」
 食器類を手早く下げて店奥のさらに先、「関係者専用」ドアの向こうの流しで洗って片付けて、序が店内に戻ってくると、テーブルクロスも変えられて既に普段通りに戻っていた。
(祭りのあと、か・・・なんだか寂しいな)
 店主が最後の戸締りをして帰宅する。それを知っているので、もう自分も帰ろうとエントランスから外に出た。
(あ・・・)
 思わず、足を止めた。駅へと続くみちを、迅太と美音が肩を並べて歩いて行く。
「家、こっちなの」
「途中で曲がるから」
「一人で平気?」
「ご心配なく。近いし、道も明るいし」
 しかし、悪い雰囲気ではない。序は黙って、耳を澄ました。
「それじゃ」
 T字路で曲がり、先へと歩きだした美音へ、迅太が声を掛けた。
「またね、『裸足の女神』」
 女靴のヒールの足音が止まった。駅へ向かう濃グレーのコートの後姿は、そのまま遠く小さくなっていく。
(裸足の、女神・・・)
 B’zの歌が、頭をかすめた。やがて再び聞こえだしたヒールの音も、遠ざかってゆく。

『裸足の女神』
作詞:稲葉浩志 作曲:松本孝弘

 序は夜空を仰ぎ、深呼吸する。
 明日も、ここに仕事にやって来る。そして、顔を合わせる。不器用な『裸足の女神』と――痛みを知るからこそ傷を隠して、傷を庇いながらも、毅然と歩き続けている彼女と。
 今日と変わらない笑顔で、会う。そう心に決めて、別の道を自宅へと歩きだした。

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