〈本の雑誌〉に寄せたシュミッツ『惑星カレスの魔女』の思い出(2013年3月)
2013年3月号の大森望特集「大森望SFサクセス伝説」に寄せたもの。以下は掲載版を参照せず、最初に送ったテキストデータをもとに修正を加えたものです。内容的にはだいぶ「盛って」います。原画が大森さんの自宅にあることは知っていました。
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創元SF文庫のJ・H・シュミッツ『惑星カレスの魔女』は宮崎駿さんのカバーイラストで知られていますが、元々は一九八七年に新潮文庫から出たもので、同じ絵がカバーを飾っていました。担当編集者は、まだ二十五歳の大森さんでした。
この頃の宮崎さんは、前年に『天空の城ラピュタ』を公開し、すでに巨匠も巨匠。カバーイラストの依頼に対して固辞する宮崎さんに、大森さんは「先生しかこの小説のイラストはあり得ません。とにかく読んでください」とゲラ刷りを事務所の郵便受けに突っ込んでくるという荒技に出て、宮崎さんは根負けしたのでした。
その新潮版が絶版となったのを受けて、創元で再刊することにしたわけですが、それを大森さんに伝えたところ、「宮崎さんの原画なら、ぼく持ってるよ。再使用させてもらうといいよ」と言うではないですか。
新潮文庫版ができて大森さんが絵を返却しに伺ったところ、なんとしたことかあるいはそういうものなのか、宮崎さんは「じゃあ捨ててください」! 大森さんはその場でちゃっかり、「なら、ぼくにください!」と。
しかし宮崎さんはその事情をお忘れかもしれない。ぼくは恐る恐る事務所にお電話し了解をいただいたのでしたが……現物を手に大森さんは自慢します。
「ほらこれ。額装して飾ってるから綺麗だよ。記念に『大森望様 宮崎駿』とおっきくサインを入れてもらったんだ」
……なんだと。
サインは見事に、とても大きく絵にかかっています。なんとか消し込むことができたのは、その当時でもすでに、奇跡的にデジタル加工に対応してくれていたデザイナーの岩郷重力さんのおかげです。大森さんは「消さずに使ってくれれば良かったのに!」とおっしゃいますが、それは無理というものです。