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12-4 甲状腺関連治療薬


甲状腺

甲状腺は10-20 g の小さな臓器であり、気管を前から取り囲むように配置しており、甲状腺を裏から見ると、副甲状腺がある。

甲状腺の働き
甲状腺には、内分泌腺として、ホルモンを分泌し、体の機能を調節する重要な機能を担う。
甲状腺ホルモンの産生にはヨードが必要であるが、日本人は海藻(のり・ひじき等)を食べる習慣があるため、ヨード欠乏症は少ないと言われている。

  • 甲状腺ホルモン

    • トリヨードサイロニン:T3

    • サイロキシン:T4

  • カルシトニン

副甲状腺
副甲状腺も内分泌腺であり、副甲状腺ホルモン(パラトルモン, PTH)を分泌し、カルシウムを調節している。PTH とカルシトニンは逆の作用をしている。


甲状腺ホルモン

甲状腺ホルモンの調節

甲状腺ホルモンの分泌は、上位中枢である、脳の視床下部・脳下垂体から分泌される刺激ホルモンで調節されている。
視床下部から甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)が分泌され、下垂体に作用する。TRH に刺激されると、下垂体前葉では、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が放出され、甲状腺を刺激する。
甲状腺からは、T3 と T4 が放出される。甲状腺で主に産生されているのは、T4 であるが、末梢組織に到達した T4 は T3 に変換される。遊離型の T3 は、核内受容体と結合し、作用を発揮する。
甲状腺ホルモンが不足していると、視床下部や下垂体にフィードバックがかかり、甲状腺ホルモンの分泌を増やそうと働く。甲状腺ホルモンが過剰な場合、負のフィードバックがかかり、甲状腺ホルモンの分泌を減らそうと働く。この調節の仕組みによって、一定量に保とうとしている。

甲状腺ホルモンの作用

甲状腺ホルモンは、基礎代謝を亢進させたり、心拍数・心収縮力増大といった交感神経が刺激された時のような作用をもたらす。

検査項目

甲状腺に関連する検査項目に、FT3、FT4、TSH などがある。甲状腺ホルモンは、血中でほとんどが TBG(チロキシン結合グロブリン)やアルブミンと結合したタンパク結合型として存在しており、一部が遊離型として存在している。

甲状腺機能低下症では、TRH が上昇↑

甲状腺ホルモンが少ないため、増やそうとして、TRH↑

甲状腺機能亢進症では、TRH が減少↓

甲状腺ホルモンが多いため、減らそうとして、TRH↓

甲状腺機能低下症

甲状腺機能低下症とは、甲状腺ホルモンが不足し過ぎた結果、基礎代謝が低下している状態をいう。
その原因には、甲状腺自体の異常のために不足している、原発性甲状腺機能低下症と、調節する上位中枢である視床下部や下垂体の異常が原因である、中枢性甲状腺機能低下症がある。
原発性甲状腺機能低下症のほとんどは、橋本病である。

橋本病

橋本病は、自己免疫性疾患の一つであり甲状腺に慢性炎症を起こしている状態であり、女性に多い。代謝低下症状や粘膜水腫症状が現れる。
自己抗体によって甲状腺が破壊されるため、甲状腺ホルモンが不足し、フィードバックがかかり TSH は増加する。(FT3↓, FT4↓, TSH↑)
治療
治療が必要なレベルに甲状腺機能が低下している場合、不足している甲状腺ホルモンを補充する。これは補充療法であり、一生涯継続する。それに加えて、生活習慣の工夫も継続することが効果的である(適正量のヨードの摂取、運動、禁煙、節酒等)。

  • リオチロニン (T3)

  • レボチロキシン (T4)

医薬品としては、T3 と T4 の類似物質の両方がある。ただし、T4 製剤を投与すると、徐々に作用が強い T3 に変換されるため、効果が安定して持続的に得られるため、T4 製剤が用いられている。過剰に刺激すると、動悸や手の震えなど(交感神経刺激)が見られるため、開始するときは、徐々に漸増する。


甲状腺機能亢進症

甲状腺機能亢進症とは、甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、全身にさまざまな症状が引き起こされている状態をいい、その一つにバセドウ病がある。
バセドウ病は、TSH 受容体に対する自己抗体ができ、それが、TSH 受容体を刺激することで、甲状腺の機能が亢進している状態。
三大主徴に、眼球突出・びまん性甲状腺腫大・頻脈がある。他にも、血圧上昇・発汗・手の震えがある。
薬物治療では、甲状腺ホルモンの働きを抑える、抗甲状腺薬が用いられる。

チアマゾール
甲状腺ホルモンの産生を阻害する
プロピルウラシル
甲状腺ホルモンの産生を阻害する
プロピルウラシルよりもチアマゾールの方が、効果が高く、副作用も少ないため、よく用いられている。

対症療法の例
手の震えを抑える・・・β遮断薬


安定ヨウ素剤

ヨウ化カリウムは、ヨウド欠乏による甲状腺腫などの治療に用いられるが、他の目的として、放射線被曝時の甲状腺防護の目的で使われている。
原子力発電所事故が発生した場合、環境中に放射性物質が放出される危険性がある。その中で、健康や環境への影響が問題となるものに、ヨウ素131、セシウム134、セシウム137、ストロンチウム90の4つがある。
天然で安定に存在するヨウ素は質量数127、核分裂で、不安定なヨウ素の同位体が発生し、そのひとつに、ヨウ素131がある。甲状腺ホルモンの産生にはヨウ素が必要であり、事故後などに空気中に放出された放射性ヨウ素が体内に入ると、甲状腺に取り込まれる。そこで、放射性ヨウ素はβ線とγ線を放出するため、甲状腺は、内部被曝を受ける。


原発事故の後、放射性ヨウ素が体内に取り込まれないように、事故後、安定ヨウ素剤を服用することが行われている。
原子力発電所の近隣の地域には、あらかじめ安定ヨウ素剤が事前配布されている。事故発生時には、住民の避難とあわせて、指示に基づき安定ヨウ素剤を服用する。
安定ヨウ素剤を服用することで、ヨウ素が結合する箇所をあらかじめ埋めることで、放射性ヨウ素の蓄積を防ぐことができる。



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