12-3 糖尿病治療薬/経口血糖降下薬
糖尿病治療薬
インスリンの病態に応じて、適切な治療薬が選択されます。
インスリン分泌障害
インスリン分泌障害には、インスリンを補うためのインスリン製剤、インスリン分泌を促進する薬が用いられます。
インスリン分泌を促進する薬には、血糖非依存性と血糖依存性があります。血糖依存性とは、血糖が高くなり、インスリン分泌を増加する必要があるときに、インスリン分泌を促進する作用を示します。
インスリン抵抗性
インスリン抵抗性を改善する薬には、ビグアナイド薬、チアゾリジン薬があります。
糖の吸収・排泄を調節する薬
糖の吸収を遅延させる薬がα-グルコシダーゼ阻害薬、排泄を促進させる薬が SGLT2 阻害薬です。
(作用機序イメージ)
血糖が高い時、食事からの吸収を遅延させるか、糖新生を減少させる
細胞内への取り込みを増加させる
尿中への排泄を増加させる
ことによって、血糖値を低下させることができます。
糖尿病治療薬の基本的な注意事項
糖尿病治療中に、注意が必要な主な事項は下記の通りです。
低血糖
血糖降下薬の効果が強く出過ぎても、低血糖リスクがあり、糖尿病中には注意が必要です。例えば、薬の飲み間違え(過量)、忙しくて食事が取れなかった場合、激しい運動など糖の消費が増加した場合など。入浴は糖消費が増加するため、温泉旅行に行く前に、事前に対処を説明するなどが必要となります。
体重増加
インスリンは、血中の糖を細胞内に取り込むことを助けるため、貯蔵も増加し、体重は増加する可能性があります。
「薬を飲み始めたから、なんでも食べて良い」というのは誤解であり、体重管理に気をつけながら治療をすることが重要です。
体重増加に注意が必要な薬に、インスリン・SU薬・チアゾリジンがあります。
血糖非依存性にインスリンを分泌させる薬
スルホニル尿素薬(SU薬)
インスリン受容体に結合して刺激し、インスリン分泌を促進させる薬。現在では、第三世代のグリベンクラミドが、主に使用されています。
第三世代は、作用が持続的であり、空腹時高血糖を改善させるために使用されます。
SU 薬の特徴として、インスリン分泌を促すため、血糖降下作用は高いです。ただし、長期使用すると膵臓が疲弊し当初の効果が得られない二次無効が起こる可能性があります。そのためも、治療効果を確認しながら、運動・食事療法を継続して治療を続けることが重要です。
速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)
特徴として、非常に速効性であり、効果は短時間で消失する点です。この特性から、食後過血糖の改善に有用であり、食直前に服用します。
インスリン抵抗性を改善させる薬
ビグアナイド薬
ビグアナイド薬は、欧米で2型糖尿病の第一選択薬として用いられています。(欧米は、インスリン抵抗性の割合が多い)
肝臓で糖新生を抑制するなどの作用を持ち、インスリン抵抗性を改善させます。そのため、肥満合併例では第一選択薬とされています。
ただし、稀だが、重篤な副作用に、乳酸アシドーシスがあります。それを防ぐために、投与できる患者には制限があるので、それを遵守すること、予防策を講じることが重要です。
イメグリミン
イメグリミンは2021年に承認された全く新しい機序の糖尿病薬です。メトホルミンと類似した構造ですが、インスリン分泌促進作用とインスリン抵抗性改善作用を併せ持つとされています。
チアゾリジン薬
チアゾリジン薬は、末梢組織でのインスリン感受性を亢進させたり、肝臓からの糖放出を抑制することで、高血糖を改善させます。
体液貯留させるため、使用中は、浮腫・心不全に注意が必要です。
チアゾリジン薬の一つであるピオグリタゾンは、副作用の発生危険性に性差があり、女性の方が高いです。そのため、副作用を防ぐために、男女で用量が異なります。
糖の吸収・排泄を調節する薬
α-グルコシダーゼ阻害薬
小腸で糖が吸収される前の最終工程である、二糖類から単糖類へ分解する酵素(α-グルコシダーゼ)を阻害する。そのため、小腸の入り口側の方が強く阻害されるため、糖の吸収が緩やかになり、食後の血糖値上昇を緩やかにします。
食事の時に酵素を阻害すると、薬の効果が効率的に発揮されるため、食直前に服用します。(食後30分後に飲んでも、低血糖リスクが増えるわけではない)
低血糖リスクは、ほとんどありません。
小腸の出口側に糖を届けることになるため、腸内細菌の栄養源である糖を供給することで、腹部膨満感・放屁・鼓腸などの副作用が起こる可能性があります。
低血糖のとき、ショ糖をとると吸収が遅くなり、低血糖から速やかに回復できないため、必ずブドウ糖を摂取する必要があるため、ブドウ糖を携行するように説明が必要です。
SGLT2 阻害薬
尿細管での糖を再吸収するトランスポーターを阻害するため、糖排泄を増加させます。
尿中に糖を排泄させるため、それに伴い、利尿効果があり、尿量増加や脱水に注意が必要です。また、尿中に糖を排泄するため、尿路感染症のリスクもあります。そのため、服用中は、飲水量を増やすように指導が必要です。
体重を減少させることに加え、CKD や心不全に有効であることが明らかになっており、有用性が注目されています。
血糖依存性にインスリン分泌を促進させる薬
体の働きとして、食後には、小腸からインクレチンホルモンが放出され、インスリン分泌を促進しています。インクレチンには、GIP と GLP-1 があり、治療薬が主に開発されているのは、GLP-1 です。これに作用することでインスリン分泌を促進します。
インクレチンに作用するインクレチン関連薬は、食後に血糖値が高くなりインスリン分泌が活性化されるタイミングで、その作用を強める(血糖依存性)ので、血糖降下作用が強いにも関わらず、低血糖リスクが低いところが特徴的です。
DPP-4 阻害薬
GLP-1 分解酵素である DPP-4 を阻害することで、インスリン分泌を促進します。
まれであるが、特徴的な副作用に、水泡性類天疱瘡があります。
GLP-1 受容体作動薬
GLP-1 受容体に作用することで、インスリン分泌を促進します。
当初、毎日投与する注射製剤が開発されたが、その後、内服薬や週1回投与が可能な注射薬も開発され、選択肢が広がってきました。「毎日」ではない、というのが、非常に特徴的です。
GLP-1 の作用で、胃内容物の排泄遅延作用も示し、食欲抑制効果や体重減少効果もあります。
副作用として、消化器症状があるため、低用量から投与開始し、漸増して用いられています。
いずれも、単独では低血糖リスクは低いですが、SU薬やグリニド薬と併用する時は、低血糖の発症頻度を増加させる可能性があるため、注意が必要です。
副作用
乳酸アシドーシス
メトホルミンの注意すべき副作用
メトホルミンは、インスリン抵抗性を改善し、SU 薬やチアゾリジン薬と同等の血糖降下作用を示すが、単剤では低血糖を起こしにくく、また、体重も増えにくいという利点があります。
ただし、稀であるが重篤な副作用に乳酸アシドーシスがあります。これを防ぐために、リスクのある患者には使用しない、初期症状を説明しておき、早期に対処することが重要です。
その機序として、メトホルミンが、糖新生を抑制するために、原料の一つである乳酸が貯留傾向になります。その結果、血液中の乳酸が増加し、アシドーシスに至ります。
◯禁忌
乳酸アシドーシスの既往がある人や、乳酸が増加しやすい・メトホルミン作用が強く出る可能性がある因子を持つ人には、禁忌であり、使用を回避することが重要です。
◯予防
脱水も副作用リスクにつながるため、脱水予防のための飲水指導などが重要です。シックデイにメトホルミンを休薬するのは、乳酸アシドーシス予防の目的があります。
注意点
シックデイ
糖尿病の方が、感染症にかかり、熱が出る・下痢をする・吐く、または食欲不振によって、食事ができないときのことを、シックデイといい、普段からシックデイの時の対応を説明しておくことが重要です。
シックデイ時には、食事が取れないことによる低血糖だけでなく、インスリン拮抗ホルモンにより食事が取れなくても高血糖になり、血糖値が乱れやすいです。
また、乳酸アシドーシスは脱水で起こりやすくなるように、副作用リスクも増加する可能性があることに注意が必要です。
患者の中には、食事が取れないからと、薬も中止する可能性がありますが、血糖値が乱れやすい状態であるため、自己判断での休薬は危険です。
◯療養の注意
患者には、あらかじめ対処を説明しておきましょう。
温かくして安静に過ごす
食欲がなくても、できるだけ炭水化物をとる
消化が良い、うどんやおかゆなど
食べられない場合、ジュース
水分を十分とる
◯治療薬の調節
あらかじめ、主治医に対処法を確認しておくことが必要です。
基本的な原則として、下記があります。
・インスリンは中止しない(基礎インスリンは継続。追加インスリンは、調節)
・メトホルミンや SGLT2 阻害薬は、休薬する。
・SU薬やグリニド薬は、食事量に応じて調節する。
外科手術をするとき、糖尿病患者では血糖管理が重要です。術前に絶飲食する、手術の侵襲などストレスによりインスリン拮抗ホルモンが増加するため血糖値が増加します。また、糖尿病では易感染性になるため、術後感染の危険性は増加するので、注意して術後管理が行われます。
そのため、外科手術前には、休薬が必要です。
原則として、前日まで、ほとんどの糖尿病薬は継続し、当日は絶飲食するため、当日はほぼ全ての糖尿病薬は中止します。
例外として、SGLT2 阻害薬は、手術2日前から中止します。
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