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「横紋筋融解症」

脂質異常症の治療薬である、スタチンやフィブラート系薬の副作用でもある、横紋筋融解症について、調べてみました。


どんな症状か

横紋筋融解症とは、骨格筋の細胞が融解・壊死することによって、筋肉の痛みや脱力などを生じます。この際、血液中に大量のミオグロビンなど、筋肉細胞内にあった成分が流出し、腎臓の尿細管が障害される結果、急性腎不全を引き起こすことがあります。まれに、呼吸筋が障害され、呼吸困難になる場合もあります [1]。
非常にまれな副作用ではありますが、放置すると、生命に危険を及ぼす可能性があるため、注意が必要です。医薬品の副作用としても引き起こされる場合があります。

原因薬剤

横紋筋融解症の原因薬剤には、スタチンやフィブラート系以外にもあります。
FDA の有害事象データベース研究によると、2004年から2020年に報告された6583件のうち、上位14位だった薬剤は、シンバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン、レベチラセタム、エゼチミブ/シンバスタチン合剤、オランザピン、ダプトマイシン、クエチアピン、プロポフォール、エゼチミブ、プレガバリン、フェノフィブラート、リスペリドン、クロザピンでした。
単剤だけが原因でなく、薬薬相互作用も原因と言われています。
原因の被疑薬として、スタチンが最も報告頻度が高かったです [2]。

報告件数が多いことは、使用頻度が高いことも一因だと思いますので、これだけで、スタチンが一番危ないなどと、ということはできません。
もちろん、危険性はあることには、違いありませんが。

私信

スタチンの有害事象としての横紋筋融解症

発生頻度

スタチンが原因となって出現する筋症状について、筋肉の痛み、つり、こわばり、違和感などさまざまな症状が知られており、スタチン関連筋症状(SAMS)と総称します。その発生頻度は、レビュー、メタアナリシス、臨床・観察研究、市販後調査の結果から、スタチン関連筋肉痛は5%ミオパチーは 0.1%横紋筋融解症は 0.01% でした [3]。筋肉痛の発生頻度に比べると、非常に稀な症状ですが、重篤な病態に至る可能性があるため、横紋筋融解症や、四肢・体幹の筋力低下(ミオパチー)には特に注意が必要です。

ミオパチーとは、
(広義)筋肉の疾患の総称
(狭義)四肢・体幹の筋力低下
ですが、[4] では狭義で使われています。
(注意)四肢・体幹の筋力低下:自覚症状…「首が重い」「腕が挙がらない」「しゃがみ立ちができない」など

著者解説

発生時期

スタチン関連筋症状(SAMS)は、スタチン内服開始から、4-6週間以内に出現することが多いため、内服開始後に注意が必要です。ただ、まれに数年経ってから筋症状が出現する場合もあります。
症状が出やすい状況として、体を動かすことが多い人、スタチン内服量を増量した場合、別のスタチンに変更した場合があります。
一度スタチンを中止して、また、同じスタチンを再投与した場合には、早期に出現することが多いため、再投与開始後に注意が必要です。[4]

スタチンの種類

スタチンの種類によって、発生頻度には違いはあるのでしょうか?
FDA の有害事象データベース [2] では、シンバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチンの、3つのストロングスタチンは、横紋筋融解症の発生件数も多かったです。
18報のメタアナリシス [3] では、フルバスタチン、プラバスタチン、シンバスタチンはアトルバスタチンよりも発生頻度は低いことなど報告されていました。
このように、ストロングスタチンでは発生リスクが高い可能性があるように思えますが、ストロングスタチンは、そもそもの処方頻度は高く、心筋梗塞後やバイパス術後に高用量で使われるため、用量が影響している可能性もあると考えています。
日本の「スタチン不耐に関する診療指針2018」 [4] では、スタチン服用にともなってみられる有害な症状・兆候や、検査値異常により、スタチンの継続使用が困難な状況については、少数の報告ではあるものの、スタチンの種類によって差は認められないとされています。
副作用のリスク低下を目的とした、スタチンの使い分けをするためには、まだ、情報が不足しているといえるでしょう。

リスク低減のために

患者関連要因

本人や家族に脂質低下療法に伴う有害事象の経験がある場合、CK高値や甲状腺機能亢進症の家族歴がある場合には、運動の注意をした上で使用する。もしくは、使用しないことも検討が必要です。[3]
スタチン関連筋症状(SAMS)のリスク因子として、患者関連のものとして、女性フレイルBMI が低い甲状腺亢進症、チトクロームP450の阻害剤の併用ポリファーマシー高齢、加齢に伴う変化があります。[3]
他にも、アジア人、腎機能障害、筋疾患、アルコール多飲、過度な運動、外科手術など多くの因子が報告されています。[1]

薬物療法関連要因

スタチン関連筋症状(SAMS)は、スタチンの用量依存的だと考えられています。つまり、スタチンの投与量や薬物濃度を上昇させる要因がリスクと関連すると言えます。
そのため、スタチン関連筋症状(SAMS)のリスクを少しでも下げるためには、スタチンの用量はもちろんですが、薬物動態に関連する要因、特に薬剤師としては、薬物相互作用に注意が必要です。

ストロングスタチン:

  • アトルバスタチン(リピトール(R))は、脂溶性スタチンであり、CYP3A4 で代謝されます。

  • ピタバスタチン(リバロ (R))は、脂溶性で一部は CYP2C8とCYP2C9で代謝されますが、多くはCYPの影響をほとんど受けずに胆汁排泄されます。

  • ロスバスタチン(クレストール (R))は、水溶性スタチンであり、主に胆汁排泄されます。

スタンダードスタチン:

  • プラバスタチン(メバロチン (R))は、水溶性スタチンであり、CYP を介した相互作用の影響を受ける可能性は低いです。また、タンパク結合率については、他のスタチンは90%以上であることに対して、プラバスタチンのみ、53.1%と低いです。

  • シンバスタチン(リポバス (R))は、脂溶性スタチンであり、CYP3A4 で代謝されます。

  • フルバスタチン(ローコール (R))は、脂溶性スタチンであり、CYP2C9 で代謝されます。

このように、代謝経路が多様であり、CYP 以外にも有機アニオントランスポーター(OATP)を介した肝取り込みも関与しているため、特徴を理解して、併用薬に注意が必要です。

その他要因

感冒などのウイルス感染や脱水症状のある時期、運動負荷も要因となります。
また、体調が悪く、臥床が続いている場合は、二次的に筋障害が大きくなり、予後不良となる要因です。

スタチンとフィブラート系薬の併用

スタチンとフィブラート系薬は、どちらも、横紋筋融解症の原因薬剤ですが、両者を併用すると危険性は倍以上に増加する可能性があります。[5]
添付文書では、スタチンとフィブラート系薬は、併用注意です。

治療

薬剤性の横紋筋融解症を疑った場合には、可能性のある原因医薬品を同定し、速やかに中止するとともに、安静と十分量の補液が行われます。[1]
早期に発見して対処をすることが、回復のために重要です。

再投与

症状が軽度の場合:継続する場合もある。他のスタチンに切り替える場合もある。[4]

薬剤師として注意しておきたいポイント

用量依存性の有害事象であるため、相互作用など、変更させる要因に注意が必要です。
既往歴や小柄な女性など、リスク因子がある場合には、特に投与開始時や増量時に、脱水予防のための対策を説明したり、注意すべき初期症状の観察が重要です。
早期に認識しうる初期症状として、「手足・肩・腰・全身の筋肉が痛む」、「手足がしびれる」、「手足に力がはいらない」、「こわばる」、「全身がだるい」、「尿の色が赤褐色になる」などの症状があります。

薬剤師として避けたいのは、患者様が過度に怖がる結果、「薬を飲んでもらえない」ということです。放置すると生命に危険を及ぼす重篤な副作用ではありますが、早期に発見すると回復可能である副作用であること、発生頻度は非常にまれであること。正しくわかりやすく伝えて、患者様には服薬していただき、万が一の時には、いち早く発見して、適切な医療に繋ぐこと、薬剤師として肝に銘じます。

出典
[1] 厚生労働省:「重篤副作用疾患別対応マニュアル(医療関係者向け):横紋筋融解症」、平成18年11月.https://www.pmda.go.jp/files/000143227.pdf
厚生労働省:「重篤副作用疾患別対応マニュアル(医療関係者向け):横紋筋融解症」参考資料、令和4年2月. https://www.pmda.go.jp/files/000245289.pdf
[2]
 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37239154
[3]
 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18533086/
[4] 「スタチン不耐に関する診療指針2018」、2022年12月改訂.https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/publications/pdf/statin_intolerance_2018.pdf
[5]
 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21094360/

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