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8-8 貧血治療薬


貧血とは

貧血とは、血液中の赤血球総数が、質的や量的に少なくなることを言います。

赤血球

赤血球は、血液循環によって全身をめぐり、肺で受け取った酸素を、全身に届ける役割を果たしています。赤血球が持つ、ヘモグロビンというタンパク質に、酸素が結合しています。ヘモグロビンは、ヘムとグロビンが結合したユニット4つからなり、ヘムを構成している原子に酸素が結合することで、それを運搬しています。
赤血球の産生は、骨髄の中で造血幹細胞が分化増殖することで産生されています。
また、赤血球の寿命は120日であり、寿命を終えた赤血球は、脾臓で選別され破壊されます。また、出血部位があると、そこから消失しています。

そのため、貧血の原因としては、赤血球の産生量の減少、または、赤血球の消失があります。

また、赤血球の状態を知るための検査値として、赤血球数(RBC)、ヘモグロビン(Hb)、ヘマトクリットがあります。

貧血と赤血球

貧血症状

患者様の中には、貧血の症状として、「立ちくらみ」のイメージを強く持っている方も多くいらっしゃいますが、これは脳貧血です。

慢性の貧血の場合、Hb 8〜9g/dL くらいまでは無症状のこともありますが、7 g/dL 以下には頭痛、耳鳴り、めまいなどを認め、6 g/dL 以下が持続すると、心不全症状を呈することも多くなると言われています。

心血管系および呼吸器症状

初期症状として、倦怠感易疲労感があります。
進行すると、動悸息切れめまい頭痛下肢の浮腫間歇性跛行が見られるようになります。
高齢者臓器障害がある方では急速に心不全症状が進行する場合があります。

顔色不良、皮膚・粘膜変化

貧血があると、重要臓器への血流を増やすために、皮膚への血流が低下し、蒼白になります。顔色ではわかりづらい場合、眼瞼結膜口腔粘膜の色調や変化を観察する必要があります。

神経・筋肉症状

重篤な貧血では、共通する症状として、頭痛めまい耳鳴り意識消失集中力の欠如傾眠不穏筋力低下が起こることがあります。

消化器症状

貧血では、食欲不振上腹部の不快感下痢便秘を訴える場合もありますが、例えば、消化管出血が貧血の原因になっている可能性もあります。消化器症状が、貧血の原因なのか、症状なのか確認するためにも、消化器症状の把握が必要です。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/104/7/104_1375/_pdf

貧血の種類と治療薬

貧血の原因には、大きく分けると、赤血球産生の減少と、赤血球の消失があります。

赤血球産生の減少による貧血:

再生不良性貧血

造血幹細胞が何らかの原因によって障害されて、もしくは、原因不明のため、造血幹細胞が減少して起こります。
・血液の特徴:末梢血液中では、すべての血球が減少(汎血球減少)
・赤血球:正球性正色素性貧血
・治療薬:自己免疫機序の場合、免疫抑制薬ステロイドによる治療

腎性貧血

腎臓から分泌されるホルモンであるエリスロポエチンの産生が減少すると、赤血球の分化増殖が減少するために起こります。
・赤血球:正球性正色素性貧血
・治療薬:エリスロポエチン製剤

巨赤芽球性貧血

ビタミン B12 や葉酸は、赤血球が分化増殖する際に、DNA の合成をするとき、補酵素として働いています。そのため、ビタミン B12 や葉酸が欠乏すると、正常な赤芽球の産生ができず、巨赤芽球性貧血になります。
・赤血球:大球性正色素性貧血
・治療薬:ビタミンB12葉酸

鉄欠乏性貧血

ヘモグロビンの活性中心には鉄が必要であり、鉄分の摂取不足等により、鉄欠乏性貧血になります。
・赤血球:小球性低色素性貧血
・治療薬:鉄剤

鉄芽球性貧血

鉄量は十分か増加しているにも関わらず、ヘム合成のための骨髄内で鉄の利用が不十分であるために起こります。ビタミンB6 は補酵素として働いており、ピリドキシン補充が有効な場合があります。

赤血球の消失による貧血:

出血

溶血性貧血

通常、赤血球の寿命は120日ですが、それより早期に破壊されてしまうことで、産生が追いつかなくなっている状態です。
・赤血球:正球性正色素性貧血
・治療薬:自己免疫機序の場合、ステロイド免疫抑制薬が用いられます

鉄欠乏性貧血

生体内での鉄代謝

鉄は、赤血球のヘモグロビンだけでなく、全身の細胞の DNA 合成などにも必要不可欠な金属原子です。不足すると貧血になりますが、過剰になると細胞を傷害するため、一定の範囲に調節されています。
食物中に含まれる鉄は、十二指腸〜空腸丈夫で吸収されます。血液中ではトランスフェリンと結合して全身に運ばれます。そのうち、6~7割が赤血球合成のために使われます。骨髄で産生され全身を巡る中で寿命を迎えた赤血球は、マクロファージによって破壊され、鉄は再利用されます。
赤血球合成に使われる他では、肝臓で貯蔵されたり、全身の細胞で利用されます。肝臓では、アポフェリチンと結合したフェリチンは、貯蔵鉄として蓄えられます。

原因
鉄分摂取が必要量よりも不足していると、鉄欠乏性貧血の原因となります。
鉄不足の原因には、鉄の吸収低下、需要増大、消失亢進があります。

治療
鉄不足のため、治療薬として、鉄剤が用いられます。

鉄剤には、経口鉄剤と注射鉄剤があります。原則、経口鉄剤が用いられます。
代表的な副作用には、消化器症状があります。具体的には、悪心嘔吐便秘下痢であり、10~20%という比較的高頻度で起こる可能性があります。投与開始初期に起こる可能性が高く、だんだん慣れてくる、とも言われていますが、患者様には、苦痛を伴います。
対策として、食直後に服薬したり、食事中に服薬したり、など、主治医の指示のもとで行われることもあります。
他に、黒色便も起こりやすいです。

また、鉄剤服用時に重要なこととして、治療の継続があります。
経口鉄剤を服用すると、6〜8週間でヘモグロビンは増加してきますが、一時的なものであるため、貯蔵鉄が増加するまで継続することが大切です。貯蔵鉄の指標として、血清フェリチンが用いられます。血清フェリチンが増加するまで、4〜6ヶ月程度は継続することが重要です。

【補足】鉄剤とお茶について
お茶に鉄剤を混ぜると、黒色に変色します。これは、お茶に含まれるタンニン酸と結合するために起こります。そのため、「お茶で服薬しないように」と以前は指導していました。
しかし、①もともと、吸収される鉄は、服用した鉄の内の一部だけであり、お茶の影響を受けていても影響ない、②貧血状態では鉄の吸収が亢進しているため、相殺される、③最近の鉄剤はタンニン酸の影響を受けにくい*ことから、必ずしも、お茶で服薬してはいけないというわけではありません。

ただし、薬物動態に対するお茶の影響は、他にもあります。OATP を抑制して、薬物の肝取り込みを抑制し、血中濃度を上昇させる可能性があります。そのため、積極的には勧めませんが、ただし、手元に水はないがお茶ならあるので飲んで良いか、という場合は、OATP 基質でなければ、「お茶で大丈夫なので飲んでください」と説明しています。

私信

* 解説
クエン酸第一鉄ナトリウム製剤は、タンニン酸による吸収阻害の可能性が、他の鉄剤よりも少ないことが報告されています。
この原因として、クエン酸第一鉄イオンとして溶解し、鉄イオンを少なく、低分子ポリマーのまま小腸上部から吸収されるという特性が要因であると考えられています。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjphcs2001/30/5/30_5_326/_pdf

巨赤芽球性貧血

ビタミン B12 や葉酸は、DNA 合成のために補酵素として働いています。ビタミン B12 は食物中から摂取しており、胃から分泌される内因子と結合することで、吸収されます。
ビタミン B12 や葉酸が不足すると、DNA 合成は障害される一方、RNA 合成は障害されないため、核に比べて細胞質が大きい巨赤芽球ができます。巨赤芽球は壊れやすいため、赤血球が不足し、貧血になります。
そのため、ビタミンB12 や葉酸の摂取不足が巨赤芽球性貧血の原因になります。また、胃切除により内因子が不足することも、原因になります。
巨赤芽球性貧血では、貧血症状のほか、舌炎・舌乳頭萎縮なども見られます。
治療薬には、ビタミン B12葉酸が用いられます。

腎性貧血

エリスロポエチンとは、腎臓から分泌されるホルモンです。体が、低酸素状態にあることを感知すると分泌が促進されます。エリスロポエチンは、赤芽球系前駆細胞に作用して、赤血球への分化誘導を促進します。
腎機能低下などのために、エリスロポエチンの分泌が低下すると赤血球が減少し、腎性貧血になります。

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