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ライブラリーのBGM

 まどろみを醒ますように車掌が《チンッ》と停車を告げる鐘を鳴らす。
 都電荒川線の荒川二丁目の駅を降りて、旧三河島ポンプ場を背に二十メートルほど歩けば、五階建ての四角い建物に行き着く。建物入口わきの芝生広場では、散歩中の保育園児たちがうららかな日の光を浴びて走りまわっている。何だかいいなあと思った。
 建物は「ゆいの森あらかわ」という6年前に開館した図書複合施設だ。
 東京新聞で<ゆいの森あらかわ開館>という記事を見たものの、すっかり行かずじまいになっていた。当時は幼稚園に通っていた長女も、今では小学五年生の女の子となっている。入学前の娘と絵本でも読みに行きたいと思っていたのだが、もう絵本を一緒に読みに行く年頃でもなくなった。
 
 ひとり、都電に揺られ、ぶらり、図書館へ行く。しばし執筆に精を出し、気がつけば読書に耽っていた。
 ライブラリーに光の粒子のような時間が流れる。館内で音楽こそ流れていないが、空間に心地のよいBGMが広がっていくようだった。新春、あるがままに過ごしたく候。

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