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NHKホールでまさかの息を呑むようなピアニシモ デュトワ/NHK交響楽団のNHK音楽祭2024

NHKホールで、NHK音楽祭2024を聴いた。

ラヴェル:組曲「マ・メール・ロワ」
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調作品18
【ソリストのアンコール】
ラフマニノフ:リラの花 作品21-5番

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」

指揮:シャルル・デュトワ
ピアノ:ニコライ・ルガンスキー

はじめに

コンサートは一期一会、というのが今回ほどわかりやすく象徴された例は珍しい。

かつてN響の音楽監督だったデュトワはポストを離れた後も毎年12月に定期演奏会を振りに来日していたが、2017年にセクハラスキャンダルが明るみになり、日本の楽壇からしばらくお声がかからなくなる。

その後、サイトウ・キネン・オーケストラ、大阪フィル、札幌交響楽団、九州交響楽団などと共演を果たしたが、古巣のN響との再会はようやく今日になってだった。

なぜか演劇の話

これはまさに一期一会の「和解」のコンサートと言えるだろう。
私が連想するのは、1998年の蜷川幸雄と平幹二朗の和解の「王女メディア」である(この喩えが伝わるクラオタの方、連絡お待ちしてます😂)

日本演劇界を代表する名演出家と名優はタッグを組み、数多くの傑作舞台を世に放ったが、不幸な行き違いで10数年絶交。その顛末はこちらの記事に詳しい(ただし、二人の再会は1998年である)。

当時私は高校中退して新聞配達をして暮らしていたのだが、そのころに和解の「王女メディア」が世田谷パブリックシアターであったのだった。

私は水曜休みだったので張り切って一番高い席を買ったら、新聞屋稼業の常で休みがずれ込んで行けなくなり、配達先の喫茶店マスター(熱狂的な蜷川ファン)に譲ったのだった(マスター、店を早々閉めて出かけた😂)

その後、二人の共演舞台は何作も観たが、「和解」の特別な舞台が観れなかったのはつくづく残念。
生のコンサートや演劇にはそうした人間ドラマもあることを知ってほしい(だからこそぜひ劇場やホールに来てほしいのだ)。

話が逸れまくりだ😅 いけないいけない。

ラヴェル:組曲「マ・メール・ロワ」

冒頭から繊細な表現で驚いた。九州の友人が先日デュトワが振った九響を聴いて「普段の九響と全然音が違った!」とびっくりしていたが、NHKホールでこれほど豊かなピアニシモが聴けるとは!
聴衆が何かしらノイズを出してるせいで最近まったく聴けなくなっていた「息を呑むピアニシモ」が久々に聴けた。

ノセダがここでN響を振ったショスタコーヴィチ8番のときも相当な緊迫感だったが、今回は優美なフランス音楽のせいか、ふわっと香るようなデリケートなニュアンスがあった。これを聴けただけで今日来た甲斐があったと思った。

口の悪い知人が「N響の凄さはNHKホールの鳴らし方を知ってるところ」なんて言っていたが、NHKホールのデッドな音響はクラシックファンには有名。

今日はまったくそのハンデを感じないところか、サントリーホールやミューザ川崎で聴いてる感覚すらした。さすが元音楽監督、NHKホールの鳴らし方を熟知している。「弘法筆を選ばず」ならぬ、「デュトワはホールを選ばず」である。

デュトワは「音の魔術師」と呼ばれているようだが、今日聴き終えて驚いたのは、聴いてるあいだは色彩の感覚がなかったこと。
では無味乾燥、無色透明かというとそうではない。ほのかに香るような色付けなのだ。これは名人芸というしかない。

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番

はじめに断っておくと、私は集中力がある反面、気が散る要因があるととても気を取られやすい。
この曲では、近くにエアピアノをする人がいて結構気が散ってしまった。

ルガンスキーは52歳。私にはその音楽性が貴公子然と感じられて、やや好みとは違っていた。
正統派で気を衒うことなく、実直に曲に向き合う姿勢は素晴らしいと思ったが、もう少し熟れたというか崩れた味もほしかった。どことなく音色や表現に硬さを感じてしまった。
とはいえ、第2楽章後半の「天上の音楽」と表現するしかない景色はあまりに美しかった。

最近私がコンチェルトを聴いてると、指揮者がソリストを立てすぎて、指揮者の個性が犠牲になってる場合もあるのかなと思う。
協奏曲はソリストのやりたいことを尊重するのがベターだとは思うが、今日のデュトワはルガンスキーの良さを何倍も引き出しつつ、デュトワの音楽にもなっていて驚嘆するしかなかった。

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」

「ハルサイ」も好んで聴かないので、めちゃくちゃ久しぶりに聴いた。生で聴いたのはいつ以来か思い出せない。

デュトワは色彩だけでなく、リズム感も抜群だ。だからフランス音楽のみならず、ロシア音楽も得意にしている。ベートーヴェンはあまり振らないようだが、交響曲第7番がレパートリーなのはリズム主体の音楽だからだろう。

ティンパニが2人というのも忘れていたが、デュトワは久しぶりの共演なのでフルメンバーが出演できる曲を選んだのだろうか(打楽器メンバーが多かったし)。

この曲も近くの人がエア指揮を始めたので困ったが、「ハルサイ」は「ボレロ」並みにリズムに特化した音楽、人間が原始人だったころのDNAに火をつけてしまうのも無理はない😂

でも、手元で指を動かしてるだけでも近くの人の視界には入るんだからやめてほしい。
てか、こういう人ってリズムとらずに音楽楽しめないのかな😅

体調はいまいちだし、エア指揮も気になるしで、極めて集中力の低い状態だったが、この曲のセンセーショナルさ、アヴァンギャルドさは十二分に伝わってきた。

初演の指揮者モントゥーなのに大騒動が起きたってすごくないですか?
ブーレーズやアーノンクールが振ってブーイングなら何となく想像つくけど😅、あんな好々爺のモントゥーが指揮して大騒動って、当時の人々にはそれだけショッキングだったんでしょうね。

超名曲の3曲だったが(私はあまりなじみなかったけど)、それぞれからデュトワと作曲家、両方の魅力を感じた。

そして、忘れてはならないのがN響の献身ぶりである。
デュトワとの再共演を待ち侘びた団員も多かったのではないか。

88歳とは思えないピンピンした指揮ぶりはまさに超人。巨匠の芸を堪能した。

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