診断は数値で決まるか

ある患者さんが100の言葉より数字ですよね、というから、そうとは限りませんよと説明しました。その方は理系のお仕事をされてるからそう思っていらしたのかもしれませんが。

高血圧かどうかは血圧という数字を見ることが必要です。糖尿病かどうかも血糖値やHbA1cという数値で見ていきます。肝機能が悪い、腎機能が悪い。これも数字が決め手になります。

しかしある時、夜よく眠れない、何度も目が覚めてそれっきり熟眠できない、だから日中は眠気が酷く仕事に差し支えが出ているという方がきました。いろいろお話を伺うと鬱状態もありそうです。

しかしふっと私は「奥さんから夜寝ている間いびきをかいていると言われませんか?」と聞いたのです。するとその方は、いびきをかくと言われます。しかも自分のいびきで目が覚めることもあると言ったのです。

そうなれば医者の頭の中に一本のルートがつながるわけです。「この人は鬱もあるかもしれないが、睡眠時無呼吸症候群でもこの人の症状は説明可能だ。その検査をしよう」となります。

無論睡眠時無呼吸症候群かどうかは検査してみて、数値で判断します。しかしその可能性を思いつくのは、数字じゃない。不眠、中途覚醒、日中の眠気と言われた時「いびきをかきますか」というのはそれを聞ける医者と思い付かない医者がいるわけ。それで患者が「いびきをかく」と言えばそりゃ大抵の医者が睡眠時無呼吸症候群を考えるでしょうが、そこで「いびきをかくか」と聞こうと考え付かなければ診断には至らないわけです。それは患者さんの愁訴をよく聞いて、色々鑑別診断を頭の中に思い浮かべながら「ふむ。じゃあいびきについて聞いてみよう」となるかどうかです。

ちなみに検査値は時に克明に物事を語りますが、全く何も反映しないこともあります。以前老人病院に勤めていた時、たまたまある高齢の方が亡くなりました。何の前触れもなく朝看護師が回診したら亡くなっていたのです。非常な高齢でしたから、死因は老衰としました。ところがこの方は、たまたま毎月一回の定期採血を、その亡くなる2日前にやっていました。それをみたら、全ての数値が正常値でした。採血データで言えば、「全くの健康」。しかしの方は2日後には亡くなったのです。この場合は、採血データは一切何も物語ってはいなかったのです。そういうことも、あるんです。


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