ティアキンプレイ一日目感想

※ゼルダの伝説ティアーズオブザキングダムについて発売前事前情報の範囲で語っています。

 ゼルダの伝説ブレスオブザワイルドがオープンワールドとして優れているのは、あらゆることができる点ではなく、むしろできないことの方にある。民間人を攻撃「できない」、馬に乗って崖を強引にくだることが「できない」オープンワールドであることに特異性がある。

出典不明

 という感じのレビューを見た時にすごく納得したのを覚えている(出典不明ですみません)。
 そしてこのレビューは次のように続けることができるだろう。「にも関わらず、なんでも出来ているかのように見せかけられているところがブレスオブザワイルドの魅力であり、模倣困難な任天堂と青沼英二の技術の結晶である」
 ブレワイにおいてリンクが愛馬に跨って崖に近づくと、馬は嫌がって崖際を避ける挙動をする。場所や工夫によって身投げをすること自体は可能かもしれないが、普通にプレイすると基本的にできない。
 他のオブジェクトのように身投げさせず崖手前で自然な動きでブレーキをかけるという挙動は、当然ながらプログラムをより複雑にさせる(一律で崖ブレーキのシステムを持たせてしまうと今度は敵を崖から突き落としたりしにくくなって困る)。ブレワイ以降のゼルダは、単純に未実装なのではなく「何かを意図的に『させない』ためにわざわざ加えたひと手間」というのが結構見られる。
 この「できなくする判断基準」が絶妙なのである。ハイラルの英傑であるリンクにとって一般人や犬、猫、馬を傷つけないことは当然であり、英傑にふさわしくない動きはできないほうがむしろゲームの雰囲気を濃くする。しかし一方で食事のための狩猟で小動物を殺生することはあるし、コログとかいう見つけても見つけても湧いてくる妖精をあの手この手でいじめる遊びがあってもいい。プレイヤーは全員マイユニットでなくリンクという共通のバックグラウンドを持ったキャラクターを操作しているのに、プレイヤーの発想に寄り添った、その人固有のゲーム体験が生まれるようになっている。
 オープンワールドアドベンチャーというジャンルについてまわる膨大な数の「プレイヤーがやってみたい、やれるだろうかと発想すること」を「そのままできるようにする」「制限して(≒収集がつく範囲で)できるようにする」「できないようにする(がそのことに説得力を持たせる)」と仕分けをする力、及びその仕分けを実行する力がブレスオブザワイルドが通常のオープンワールドゲームから一線を画す点だという風に考えている。やっぱちょっと変わったゲームだよ。

 本題に入ろう。ついに発売したブレワイの続編、ティアーズオブザキングダムだ。
 年単位で延期をした本作であるが、非常に穏やかな気持ちで待ち望んでいた。なんかもう楽しみにしていたとかじゃないんだよなティアキンの発売は。単なるゲームの発売というよりは、数年に一度の神祭か何かだと捉えている節があった。果たしてどんなものが見られるのだろうかと。そして満を持して発表された内容は――!

 ティアキンは、前作クリア後の世界での物語です。
 ティアキンは、シーカーストーンに変わる新たな能力を取り入れました。
 ティアキンの新能力は、時間巻き戻し、天井抜け、フィールド上のオブジェクト同士の結合によるクラフト、所持武器とオブジェクトの結合によるエンチャントの四つです。

 馬鹿野郎!!!!!!!!
 延期の理由が丸わかりじゃねえか!!!
 どれも非常にややこしい処理システムになっていることはちょっと考えれば分かる。例えば、これがインディーズゲームっぽいそこそこの解像度のドット絵でやる2Dアクションとかなら分かるよ? 時間を戻す能力を使った謎解きや戦闘が売りで、だいたい7時間くらいでクリアできる25ドルのゲームならSteamで非常に好評のレビューがついているところが想像できる。でもそういう規模のゲームじゃねえんだよ! あの馬鹿でかいブレワイの世界で、プログラム処理も映像的なエフェクトも、実装するのにどれだけ手間がかかると思ってるんだ!
 特に後二つがやばい。マイクラがなぜマイクラとして成立したかってあれがブロックの世界だからでしょ? 石も草も鉄も等しく同じ構成単位でできているからこそ組み合わせて一つのオブジェクトにする自由が生まれるわけで、Switchでレンダリングされた生の岩や木にすることではないと思うなあ。ユーザーの「これできるのかな」の発想力を甘く見てるんじゃないかなあ。
 ところがティアキンはちゃんと発売されました。神祭というか奇祭というか。
 プレイして一日目の感触では、ティアキンでもこの「なんでもはできないが、破滅的な発想をしないように誘導しつつなんでもできるかのように思わせる開発」は健在です(ウルトラハンドの角度調整とかで顕著かな)が、流石に前作と比べてもやれることが多すぎるので、これからユーザにぶち壊されないかが少々心配ではあります。開発陣の苦労を思うと気が遠くなりそう。まあしかし既に何度も困難を乗り越えた開発陣ですから、そこはなんとかするのでしょう。
 まだまだ新能力の扱いに慣れないところだし、ストーリーも見えづらい状態ではありますが、既に元が取れたと思うほど大変楽しくやってます。タイトルロゴのシーンで軽く泣きそうになったしモドレコを実際に使ったら想像の遥か上を行く厳密さで巻き戻って感動で震えた。ありがとう青沼英二。ありがとうティアーズオブザキングダム。あなたが任天堂の柱だ。ところでスプラトゥーン3発売直後の開発能力に割と隙があったのってあなた方の所為だったりしない?

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