(005) 卒業研究はスキルの総合力がなければ完成しない:9つのコアスキル
恒例のゼミの研究発表会を開きました。春学期と秋学期の最後に一般公開で開催しています。現役ゼミ生のほかに、OB/OGや向後ゼミの様子を見にきたeスクール学生が来てくれました。
【ポイント】
・卒業研究はすべてのスキルの総合力がなければ完成しない。
・そのスキルとは、アイデアを発展させまとめるスキル、価値のある文献を探して読むスキル、伝わる文章を書くスキル、意味のあるデータを集めるスキル、データを分析し考察するスキル、わかりやすく発表し伝え、質疑応答するスキル、アドバイスを聞き柔軟に対応するスキル、自分を律するセルフマネジメントのスキル、そして、ツールとしてのパソコンスキルだ。
・これらのスキルを統合的に学ぶ機会として卒業研究には取り組む価値がある。
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卒業研究の発表を聞いて感じることは、高々10分間の発表にこぎつけるためには、たくさんのスキルを習得することが必要だということです。こうしたたくさんのスキルのどれひとつ欠けても、研究発表はうまくいかないのです。その典型的な最初のつまづきは、スライドがうまく投影されないということです。このときにパニックになってパソコンを再起動させたりすると、聴衆をガッカリさせてしまいます。普段からパソコンの利用になじんでいればパニックになることもないのです。
「(003) 卒業論文こそが大学の意味:卒論をコアにしたカリキュラムの再編」の記事で、卒業論文を大学カリキュラムのコアとして位置づけてみると、シンプルで一貫性のあるカリキュラムができることを書きました。卒論を仕上げるためには、社会に出てからも役立つたくさんのコアスキルが必要です。そうしたスキルを統合的に身につけるためには卒業研究をして卒論を書くことが良い機会になります。
卒業研究をするためのコアスキルは、次のようなリストになるでしょう。
(1) アイデアを発展させまとめるスキル
単発で何かを思いつくというところからスタートして、それを似たような事例に結びつける。まったく違う領域や次元で、構造的・パターン的に似ているものを探して結びつける。それをKJ法やマインドマップのようなアイデアを扱う技法を用いて、発展させ、最終的に中核的なアイデアにまとめる。
(2) 価値のある文献を探して読むスキル
(1) のアイデアからキーワードを生成し、それを利用して文献を検索する。文献を重要なものと、そうでないものに分類しながら、重要な文献を読んでいく。読むたびにノートをとり、それらをまとめて流れとして先行研究をストーリー化する。
(3) 伝わる文章を書くスキル
自分のアイデアや着眼点を読者の興味をひきつけながら文章で説明する(序論で使う文章)。事実を誤読させずに簡潔に記述する(方法と結果で使う文章)。問題を設定して、思考と論理の流れを読み返させることのないように文章で説明する(考察で使う文章)。要点を簡潔にわかりやすく情報量を落とさずに記述する(結論とアブストラクトで使う文章)。
(4) 意味のあるデータを集めるスキル
設定した問題を解決していくために意味のあるデータを取るためのテクニックを使える。インタビューにおいてはどのような質問をすれば意味のある回答がえられるのかがわかる。アンケート調査においてはどのような質問と回答形式を設定すれば、意味のある分析ができるのかがわかる。
(5) データを分析し考察するスキル
一般公開されている統計データを分析し直して読み解く。フィールドノートをとって、そこから重要な概念と概念間の構造を見つけ出す。インタビューデータを分析して、重要な概念とプロセスを明示する。数量的データを使って、属性や条件による差の分析、相関分析、多変量解析、因果分析をして、仮説検定とモデルの検討ができる。
(6) わかりやすく発表し伝え、質疑応答するスキル
ある程度複雑で、専門的な知識が必要な内容を、初めて聞いた人にもわかりやすく興味を引く方法で説明する。口頭で聞きやすいスピーチによって話す。スライドを視覚的にわかりやすく作る。自分が説明した内容について、質問を受け、その内容と意図をその場で理解し、相手に合わせて回答する。
(7) アドバイスを聞き柔軟に対応するスキル
自分が取り組んでいることについてのアドバイスを素直に聞き、それを最大限改善に生かそうとする。またまわりの人が取り組んでいることに関心を持ち、気づいたことやアドバイスを言ってあげるようにする。
(8) 自分を律するセルフマネジメントのスキル
やるべきこととやらないですませることを区分けして、やるべきことを習慣づけて進めていく。セルフハンディキャッピングや言い訳をしない。ときどき自分を振り返って、進むべき方向を確認する。自分も他人も追い詰めずに物事を進めていく。
(9) ツールとしてのパソコンスキル
パソコンやインターネットを自分の手足として使えるようにする。アナログでするべき作業とデジタルツールを導入するべき作業を区分けして、効率をあげる。
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