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[質問01] アドラーはどのように目的論に至ったのか?

質問 (2020/09/15)

目的論が好きです。どんなときでも理論に破綻がないように思えるからです。アドラーはどのような経緯でこの考えに至ったのでしょうか。

回答

質問ありがとうございます。アドラーの理論について一段深く知るためには、アンスバッハー&アンスバッハー編集による『アルフレッド・アドラーの個人心理学』(頭文字をとって通称IPAA)を参照するのがお勧めです。

この本はAmazonでも品切れになっていることが多いです。たまにマーケットプレイスに流れますので、高額でなければ入手しておくことをお勧めします。

さて、アドラーがどのようにして目的論を個人心理学の中心概念に置くに至ったのか、IPAA の87-90ページを参照してみましょう。「 仮想的な最終目的 (The Fictional Final Goal)」という節です。アンスバッハー&アンスバッハーは以下のように解説しています。それを抄訳して、私のコメントを入れます。

・フロイトの還元主義 vs アドラーの主観主義

・フロイトの理論は、暗黙のうちに、機械論的で、還元主義的な実証主義をとっている。
・フロイトは心理学用語は生理学的・化学的な用語に置き換えられると予期していた。

「フロイトは原因論、アドラーは目的論」と簡単に対比されることが多いですけれども、フロイトは還元主義と特徴づけた方がいいです。それは、心の働きは(心理学の用語ではなく)いつか生理学的な用語(遺伝子、ホルモン、脳シナプスの活動など)で説明されるようになるだろうという立場です。

・アドラーの主観主義(subjectivism)はこれとは異なり、価値と目的(goals)を重視した。
・もし心理的な出来事が生理学的な出来事に還元できないとすれば、心理的な出来事の階層構造を確立する以外に体系化はできない。つまり、価値と目的の階層構造である。
・これによって、目的論(teleology)と目的因論(finalism)の立場に到達する。

フロイトの還元主義に対して、アドラーは心の働きは生理学に還元できないと考えました。生理学に還元できないとすれば、心の構造がそれ自体でシステムとして成立しているはずだと考えたのです。そのシステムの柱となるものが「価値と目的」です。価値と目的を基礎とした心のシステムを想定すること。これがアドラーの目的論の基礎です。

・主観主義を実証科学に位置づける

・しかしこの立場は、科学的根拠から離れて、神学に近づいてしまうという危険がある。
・そこで、アドラーが自分の主観主義的で目的因論的な心理学の哲学的な基盤として見出したのが、ファイヒンガーの理想主義的な(idealistic)実証主義だった。それは、受け入れ可能で、勇気づけ、刺激を与えるものだった。

個人の価値と目的は、その人の主観によって形成されると考えられますから、そのシステムは実証できずに、科学ではなくなってしまうというリスクがあります。では、どうしたら実証科学になるか。そこでファイヒンガーの「かのように(as-if)」哲学を援用したのです。

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