2019まとめ

【アドラー心理学】2019年好評だった記事:ライフスタイルを変えるにはどうするか/アドラー心理学の3つの特徴/21世紀におけるアドラー心理学の価値

月曜日はアドラー心理学のトピックで書いています。2019年の最終週は、この年に書いた記事をふりかえって、「いいね」がよくついた記事を全文再録しています。

【アドラー心理学の実践】 ライフスタイルを変えるにはどうするか

前回はライフスタイルがどのように作られるかということを説明しました。私たちは共同体への所属を確保すること、つまり「自分の居場所がある」という状態を作るために最も有効な戦略を(意識的にも無意識的にも)選んでいきます。

そして、「この方向でいけば私はこの共同体に居場所が作れるぞ」と(無意識的にでも)確信した方向性で自分を伸ばしていこうとします。このイメージが「自己理想 self-ideal」です。人はこの自己理想のイメージを常に参照しながら自分のライフスタイルを決めていきます。家族からはじめてひととおりの人間関係を経験する10歳くらいまでに自分のライフスタイルが固まっていくのはそのためです。

ではこのようにして形成されたライフスタイルはその後変えられないのでしょうか。

そんなことはありません。アドラーは「死ぬ1、2日前まで変えられる」と言っています。もちろんこれはユーモアですけれども、その人自身の決断さえあればいつでもライフスタイルは変えられるということを言っているのです。

ライフスタイルを変えるためには、まず自分がどのようなライフスタイルを持っているかを確認する必要があります。というのは自分のライフスタイルは子供の頃から無意識のうちに形成されていますので、自分にとってあまりにも自然なことであり、意識できないことなのです。これは自分のまわりの他者のライフスタイルの独自性がいやでも意識させられてしまうのとは対照的です。

つまり、自分のライフスタイルは気がつかない一方で、他人のライフスタイルは気になるのです。だから「なんであの人はあんなライフスタイルなんだろう。少しは変えればいいのに」といつも思っています。その一方で、自分のライフスタイルについてはほんの少しでも顧みようとはしないのです。だから私たちは常に他人のライフスタイルについて不満を持ち、自分のライフスタイルについては当然のことと考えているのです。

自分のライフスタイルを変えるためには、まずそれがどのようなものであるかを振り返って確認します。つまり自分が、人生の課題に対してどのように「動いているか」ということを再確認することです。そしてその動き方を少しだけ変えてみます。

もちろん最初は少しであっても自分の動き方を変えることは不安でしょう。まわりの人からなにか言われたらどうしようとか、失敗したらどうしようなどといったことを考えてしまうかもしれません。

そこを少しの勇気を持って失敗を怖れずに行動してみるという決断が必要です。もし勇気が出てこなければ先延ばししてもいいでしょう。少なくともイメージトレーニングはできたのですから。そんなふうにして少しずつ挑戦してみます。そうすれば知らないうちに自分のライフスタイルを変えていくことができます。

【アドラーオンライン】 アドラー心理学の3つの特徴

今回は「アドラー心理学の3つの特徴」について書きます。

アドラー心理学の1つ目の特徴は、わかりやすく、実用的であるということです。これを特徴の1番目にあげるのは少し変な感じがするかもしれません。科学としての心理学が100年ほどの積み重ねを経て、さまざまな理論が提案されてきました。その理論は学問的に価値のあるものではありますけれども、その多くは必ずしもわかりやすいものではありませんし、またすぐに実用できるかといえばそうでもないのです。

その点で、アドラー心理学は大部分が日常的な言葉で語られています。日常のさまざまな問題を扱うのですからそれは自然なことです。そのため理論をすぐに生活の中で試すことができます。反面、日常的な言葉で語られているために誤解されるリスクもあります。たとえば「劣等感」や「勇気」といった言葉はアドラー心理学の中ではきちんと定義づけられている一方で、それとは別に日常でもよく使う単語です。

しかし、わかりやすい言葉で語られているということは、全体としてみればメリットと言えます。とっつきやすいので、それを自分の生活や仕事の現場で活かしてみようという気になります。実際、アドラー心理学は子育てや教育や職場の人間関係といった場面で活かすことができます。またそれこそがアドラーが望んだことなのです。

アドラー心理学の2つ目の特徴は、人間を中心とした理論であるということです。20世紀は科学技術の世紀として捉えることができます。科学技術によって多くの産業が進展し、経済が発展しました。その一方で、経済至上主義の中で人間が人間らしく扱われなかったり、人間関係がギスギスしたり、経済的格差が拡大するという弊害も生まれました。そうした経済中心の社会では、ともすれば人が生きる意味が軽視されてしまいます。

科学や技術の中からは人が生きる意味というのは生まれてきません。意味というのは目的のことです。科学や技術は人に生きる目的を与えてくれるものではありません。そうではなく生きる意味、生きる目的はそれぞれの人が決めなければなりません。それは意識的に決めなくても10歳くらいまでには自分で決めているというのがアドラー心理学の見方です。そしてそれを自覚する方法を提案しています。

アドラー心理学の3つ目の特徴は、社会運動的な側面を保持しているということです。科学としての心理学は、心理学的な視点で人や社会を捉え、それをモデル化・理論化するということを目指しています。その成果として、よりよい社会や組織や教育に改善していこうということはあるにしても、最初から直接そうすることを目指しているわけではありません。

アドラー心理学もまたそのような心理学としてやっていこうという分岐点はありました。しかしアドラーは自分が打ち立てた心理学の社会運動的な側面を捨てませんでした。それは、人々が協力しあう社会を作るために、共同体感覚を育成することを目指したのです。それは1つの価値観であり、思想なのです。正しいかどうかはわかりません。しかし、アドラーは人々が共同体感覚を持って生きることで社会がより良いものになることを確信して、それを推し進めていこうとしたのです。

【アドラー実践】 21世紀におけるアドラー心理学の価値

早稲田大学エクステンションセンター中野校で、10月3日(木)から「アドラー心理学実践講座(全8回)」が始まります。これに合わせてしばらくの間、アドラー心理学実践講座の内容で書いていきます。

さて、実践講座の初回は、21世紀におけるアドラー心理学の価値ということをお話ししたいと思います。今から約百年前、20世紀の初頭に活躍したアルフレッド・アドラーは「個人心理学/アドラー心理学」を体系づけました。

アドラー心理学の内容は、心理学の研究者や専門家の間でも、また心理学の教科書の中でも、長い間、正当に扱われることがありませんでした。日本では、2014年の『嫌われる勇気』の大ヒットによって、心理学者というよりも、自己啓発としてのアドラーの名前は広く知られるようになりました。

アドラーの言葉には多くの人の心に響くものが多いために、自己啓発や生き方の処方として都合よく引用されます。たとえば「勇気」「勇気づける」「タテの関係・ヨコの関係」「尊敬、信頼、貢献」「いまここ」(これはアドラーとは関係ない)「それはあなたの課題です」(これも厳密にはアドラー ではない)などです。こうした言葉は自己啓発のフレーズとしてはいいでしょう。それを都合よく使うのも禁止するべきことでもありません。流行したものが土着化するのは止めようがありません。

しかし、アドラー心理学の真価は、このような断片的なフレーズにあるわけではありません。アドラー用語を使っていれば、なんとなく格好良く見えたり、説得力が増すように見えるかもしれません。しかし、ただそれだけのことです。アドラー心理学の真価は、いくつかの重要な概念とそれを理論的に組み立てたところにあります。それを知らないでいる人は、ただ表面的にアドラー用語を使っているにすぎないのです。

一番自己啓発に近いところでアドラー心理学を使ったとしても、そこでは単なる人生訓以上の回答を引き出すことができます。それはアドラー心理学が理論的に作られているためなのです。アドラー心理学は生きる意味と人生を再定義することに成功しています。それはともすれば生きる意味を見失いがちな現代人にとって助けとなるでしょう。助けといってもそれは甘いものではないのですけど。

たとえば、「私が生きる意味とは何ですか?」という問いは誰でも一度は考えたり、その答えについて悩んだりすることがあるでしょう。それに対してアドラーは、その問いに悩むよりも、人生の有益な面で生きるためにはどうしたらいいのかを考えて、行動した方がいいという回答をします。そうすることによって、生きる意味が自然にわかるからです。

「どうして私はいつも不満なのでしょうか?」という問いを持つ人もいるでしょう。満足していない状態を不満というならば、すべての人が不満なのです。なぜなら、私たちは皆完璧な自分と完璧な世界を求めているからです。そしてそれがすぐにはかなえられないと感じると劣等感が生じるからです。こうして私たちは常に不満なのです。そして、この不満こそがより優れた自分になるための原動力になるのです。

「私はなぜこんな私なのでしょうか?」と悩む人もいるでしょう。そんなあなたであることをライフスタイルと呼びます。ライフスタイルはあなた自身が選んだものです。どのように選んだかというと、あなたが様々な共同体で生きていくために、そこに所属するために一番良さそうなライフスタイルを無意識に判断してそれを選んだのです。

このようにたいていの人が悩んでいることについて、アドラー心理学からの回答を聞いてみると、それは単なる人生訓以上のものであることがわかります。それはなぜかというと、アドラー心理学の大きな理論に支えられているからなのです。

以下は月ごとのタイトル一覧です。

1月
【アドラー心理学の実践】#13 “感情”についての質疑応答
【アドラー心理学の実践】#14 “ライフスタイル”とは何か
【アドラー心理学の実践】#15 “ライフスタイル”はどのように形成されるか
【アドラー心理学の実践】#16 ライフスタイルを変えるにはどうするか

2月
【アドラー心理学の実践】#17 ライフスタイルについての質疑応答
【アドラー心理学の実践】#18 まとめ(前半)
【アドラー心理学の実践】#19 まとめ(後半)
【アドラーオンライン】01 アドラー心理学オンライン講座を始めます

3月
【アドラーオンライン】02 アドラー心理学の3つの特徴
【アドラーオンライン】03 20世紀の心理学と人間性心理学
【アドラーオンライン】04 アドラーが蒔いた種
【アドラーオンライン】(号外) アドラーオンライン(note版)を始めます

4月
【アドラーオンライン】05 自分の人生を捉え直して新しくスタートする
【アドラーオンライン】06 生きることについての「理論」が必要になるとき
【アドラーオンライン】07 アドラーが目指した「生きることの科学」
【アドラーオンライン】08 みんな自己理想を持つので必ず劣等感を感じる

5月
【アドラーオンライン】09 他者と比較することはコンプレックスを生む
【アドラーオンライン】10 自尊心は3つの方法で作られる
【アドラーオンライン】11 自尊心を守るために自己防衛する
【アドラーオンライン】12 ライフスタイルではその人がどこに向かっているかに注目する

6月
【アドラーオンライン】13 ライフスタイルは何歳くらいまでに、どのように形成されるか
【アドラーオンライン】14 あなたのライフスタイルを測ってみよう
【アドラーオンライン】15 最優先目標による4つのライフスタイルの特徴
【アドラーオンライン】16 ライフスタイルは人によって違うからこそ意味がある

7月
【アドラーオンライン】17 人はまず所属を求める
【アドラーオンライン】18 共同体に所属するためにはどうすればいいか
【アドラーオンライン】19 相手との関係がうまくいっているかどうかを測るには感情を調べてみる
【アドラーオンライン】20 感情は行動の触媒
【アドラーオンライン】21 与えられた条件の上で自分をどう使うかが課題

8月
【アドラーオンライン】22 その人がどんな人かは社会生活という文脈の中でどう行動しているかを見ればわかる
【アドラーオンライン】23 共同体感覚とは自己への関心から他者への関心への拡張
【アドラーオンライン】24 家族会議、クラス会議、職場会議をやってみよう
【アドラーオンライン】25 家族会議はどのような効果をもたらすか

9月
【アドラーオンライン】26 アドラー心理学のペアレント・トレーニング(親教育)
【アドラーオンライン】27(最終回)親教育プログラムの柱となるもの
【アドラー】10月から中野でアドラー心理学実践講座が始まります
【アドラー実践】01 21世紀におけるアドラー心理学の価値

10月
【アドラー実践】02 アドラー心理学の理論的枠組のユニークさ
【アドラー実践】03 目的論と全体論は古くて新しい考え方
【アドラー実践】04 社会に埋め込まれている私たち:グループダイナミクス
【アドラー実践】05 認知理論・認知療法の早すぎた先駆者だったアドラー

11月
【アドラー実践】06 私たちはパーソナリティであると同時にそれを創る個人でもある
【アドラー実践】07 アドラーが提起した3つの重要な心理学的概念
【アドラー実践】08 アドラー派心理療法は早期回想を技法として使う
【アドラー実践】09 小学校時代の記憶はその人のライフスタイルを投影している

12月
【アドラー実践】10 アドラー心理学5つの基本前提を採用していなければ、それは「アドラー風味の◯◯」
【アドラー実践】11 アドラー心理学をどう学ぶか:アドラー自身の本を読んでみる
【アドラー実践】(12) アドラー心理学をどう学ぶか:アドラー心理学の入門書
【アドラー実践】(13) アドラー心理学をどう学ぶか:アドラー心理学のリファレンス

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