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(156) アドラーとレヴィンと21世紀のアクションリサーチ

2021年10月10日(日)

ここしばらくアクションリサーチについて書いてきました。アクションリサーチの創始者は、クルト・レヴィン(1890-1947)です。アルフレッド・アドラー(1870-1937)はレヴィンよりも20年早く生まれています。2人ともユダヤ人であり、ヨーロッパからアメリカに移ったという共通点があります。

フィールドセオリストとしてのレヴィンとアドラー

それだけではなく、レヴィンとアドラーはそれぞれが打ち立てた独自の心理学において重要な共通点があります。Heinz Ansbacher & Rowena Ansbacherが編集・注釈した “The Individual Psychology of Alfred Adler” (1956, Basic Books) の12-13ページにはこのように書かれています。

アドラー心理学を理解するには、アドラーが最初から「場の理論 (field theory)」を支持していたと考えればやさしくなります。レヴィンもアドラーも人間におけるダイナミックな力を関係的なものだと考えていました。それを、アドラーは「動き (movement)」と呼び、レヴィンは「ベクトル (vector)」と呼んだのです。いずれも特定の方向を持っているということです。

レヴィンとアドラーはほぼ同じ時代に活躍しました。お互いに自分の著書の中で言及し合うこともありました。たとえば、レヴィン『パーソナリティの力学説』(岩波書店, 1957)の104ページには次のような文章が見られます。

「児童に対する外部の場の力の効果の一例として、彼にむけられる外部の要望の水準の意味を考えてみよう。成功と失敗の経験はアドラーが正しく強調しているように、児童の勇気づけあるいは落胆に、したがって後の所業に著しい影響を与える。」

アドラー心理学の5つの基本前提とアクションリサーチの共通点

そうするとレヴィンが始めたアクションリサーチの考え方の中に、アドラー心理学の特徴が共有されているのではないかということを考えてしまいます。

アドラー心理学の5つの基本前提である、全体論、目的論、仮想論、社会統合論、個人の主体性に沿ってアクションリサーチとの共通点を探してみましょう。そうすると次のような共通性が見えてきます。

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