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【研究】2019年好評だった記事:研究におけるつまずき/書く技術/職場での研究/研究の逆向き設計

水曜日は「研究すること」のトピックで書いています。2019年の最終週は、この年に書いた記事をふりかえって、「いいね」がよくついた記事を全文再録しています。

研究におけるつまずき

全9回で「研究におけるつまずき」を連載しました。

【研究】01 研究におけるつまずき
【研究】02 研究のつまずき:自分で問いを作ることに慣れていない
【研究】03 研究のつまずき:研究に正解があると思っている
【研究】04 研究のつまずき:ゴールが明示されない
【研究】05 研究のつまずき:研究トピックが広すぎる
【研究】07 研究のつまずき:レシピ的知識から抜け出せない
【研究】08 研究のつまずき:自分の研究の価値を説明できない
【研究】09 研究のつまずき:締切を自分で作らなくてはならない

その中から第2回「自分で問いを作ることに慣れていない」を再録します。

研究のつまずき:自分で問いを作ることに慣れていない

前回はこの連載のスタートとして、研究スキルを身につけるということはかなり難しいと書きました。それは端的に言えば、研究スキルが多種多様なスキルから構成されているからです。ざっとリストしただけでも、研究トピックを探すこと、研究の問いを立てること、先行研究を調べること、実験・調査計画を立てること、データを整理し、分析すること、グラフで可視化すること、論文を書くこと、などなどのタスクをこなすためのスキルが必要です。

さらにいえば、このようなスキルを駆使して1つの成果を出すまでに、少なくとも半年はかかります。その期間に、自分をコントロールして継続的にタスクを進めていくことそのものが難しいタスクだといわなければなりません。
そうした中で最初に多くの人がつまずくところは、自分で問いを作ることに慣れていないということです。

研究はまず自分で起動することが必要です。もちろん自分以外の人や組織が「この問題を解決してほしい」と依頼してくることはあるかもしれません。そうであってもその依頼はたいていは漠然としたものです。ですのでその依頼を請け負ったとしても、依頼主の漠然とした問題意識を研究の問いの形に変換することが必要です。

たとえば、昔の話ですが、ある団体から「字幕付きの映画では、字幕を読む時間が奪われるので映画鑑賞に影響を与えているんじゃないでしょうか。それを確かめてほしい」という依頼を受けました。それを受けて、こちらでは「字幕付きの映画を視聴するときは、人はどれくらいの割合で、またどのようなタイミングで、字幕と字幕以外の映像を見ているのか」という研究上の問いに変換するというステップから研究をスタートします。

私たちは自分の現場において「なぜこうなっているんだろう?」「これはどうにかして改善しなくては」というような問題意識を持っています。しかしたいていは「まあ、いいか」で忘れ去られてしまいます。研究はそこに踏みとどまって、その問題を明らかにするか、解決をはかろうとすることです。そこではその問題意識を自分の問いとして保持することが必要です。

大学では卒業研究をします。そこでも自分で問いを作ることが最初の難関です。なぜなら、それまでは問いは先生か誰かが作ってくれたものだからです。そして自分はそれを解けばいいだけだったのです。しかし、研究では誰かが問いを作ってくれることはありません。いや、先生によっては問いを提供してくれる場合もあります。私自身も「この問題をやってみないか」とささやくこともあります。しかし、それにしても最終的には自分の問いとして捉え直すことが必要なのです。

書く技術

全6回で「書く技術」を連載しました。

【書く技術】01 「200字で石を作る」
【書く技術】02 自動翻訳でうまく翻訳されるような文を書く
【書く技術】03 5段落で1000字前後の「壁」を作る
【書く技術】04 研究のための文章は飛躍を嫌う
【書く技術】05 ミントのS-C-Qモデルで文章の最初の導入部を書く
【書く技術】06 ミントのS-C-Qモデルで文章の最初の導入部を書く(実例)

その中から第2回「自動翻訳でうまく翻訳されるような文を書く」を再録します。

【書く技術】02 自動翻訳でうまく翻訳されるような文を書く

前回は、200字でひとまとまりのことを書けるようになることが最初のステップだといいました。これを「石」としてたとえると、伝わる文章を書くという仕事は、素材としての「石」を集める→石を置く順番を試行錯誤する→石と石をモルタルでつないでいく、という仕事になります。

まず、その「石」の作り方です。石は200字前後で作られた一段落の文章です。その文章はいくつかの文からなっています。「。」で終わっているものを「文」と呼びます。石の区切り、つまり、段落の区切りは話題が変わったら切るようにします。これを「ワンパラグラフ、ワントピックの原則」と呼びます。パラグラフとは段落のこと、トピックとは話題のことです。

上の石は160字くらいの一段落の文章です。7つの文からなっています。話題は、石の作り方を扱っています。こんなふうに石=段落を作っていきます。ポイントは、1つの話題について文を書いていくことです。話題が変わったなと思ったら新しい段落に移る印だと思ってください。

1つの段落は、いくつかの文から構成されています。その文は、なるべく短く作ります。長い文は、読み手に記憶の負担をかけることになります。その結果として、読み直しが必要になったり、誤読が生じたりするという不都合が起こります。ですので、なるべく文を短くするという「短文主義」を採用します。

最近は自動翻訳が実用化されてきています。まだ誤訳や理解できない翻訳は残っているけれども、翻訳されたかなりの部分は理解できます。現状の翻訳レベルであっても、短文主義をとると、自動翻訳がうまくいく確率が増えます。自動翻訳でうまく訳せないケースというのは、長く複雑な文です。ですので、短く、シンプルな文を連ねていく短文主義を徹底させれば、自動翻訳もうまくいくでしょう。

短文主義を貫くには、自分が書いた文章の中の接続語「が、」をまず点検すると良いでしょう。会話では「〜ですが、」という言い回しは気になりません。しかし、書かれた文章のなかでは、まず「が」を徹底的に排除するのが第一歩です。「が」は順接でも逆接でも使えるために、あまりにも便利なのです。しかし、文脈を考慮できない現在の自動翻訳では、うまく訳し分けることが困難です。ですので、「が」を使わずに、いったん「。」で切って、適切な接続語を使うのが良い方法です。たとえば「今日は雨の予報ですが、私は傘を持っていきません」という文は「今日は雨の予報です。しかし、私は傘を持っていきません」と書き直します。

職場における研究

全15回で「職場における研究」を連載しました。

【研究】職場で学ぶことは自立することと協力すること(だけではない)
【研究】職場で研究者的なマインドを持ってみる
【研究】推論、仮説、検証ということは日常生活で誰もがやっている
【研究】日常生活における実験
【研究】1個体でも実験はできる:シングルケースデザイン
【研究】疑うことが研究者へのステップ
【研究】07 仮説は否定されてなんぼのもの
【研究】08 自分がとったデータをきちんと解釈するために統計を利用する
【研究】09 変数を抽象化する
【研究】10 便利な理論を作り出すのが研究の目標
【研究】11 ひとつのケースを拡張して全体としてどうかを調べる
【研究】12 ひとつのケースを詳しく調べる個性記述的アプローチ
【研究】13 個性記述的アプローチはその人にとっての「意味」を明らかにする
【研究】14 感情をヒントにして価値観を明らかにするインタビュー
【研究】15 話題に関連する話を広げて聞いていく半構造化インタビュー

その中から第13回「個性記述的アプローチはその人にとっての「意味」を明らかにする」を再録します。

個性記述的アプローチはその人にとっての「意味」を明らかにする

前回は、ひとつのケースを細かく調べて記述していくという「個性記述的アプローチ (idiographic approach) 」について説明しました。それに対して、たくさんのケースを調べて一般的な法則を明らかにしようとする「法則定立的アプローチ (nomothetic approach) 」があります。

■ 個性記述的アプローチと法則定立的アプローチの違いを、口調理論に当てはめて説明してくれませんか。

□ 口調理論というのはどういうものでしたっけ。

■ 子どもに「早くしたくして」というような場合は「命令口調」。それに対して「待っててあげるから」というと「信頼口調」とするものです。

□ ああ、そうでした。親の声がけによって、子どもが行動したりしなかったりするというのが出発点ですね。

■ はい。

□ 命令口調が習慣になっていて、そのたびに「何回言ってもあの子はやらない」と愚痴を言っている状態では研究ではありません。

■ 確かにそうですね。

□ でも、たまたま声がけを信頼口調にしてみたら、不思議なことに子どもの行動が変わったことに気づきます。これはもしかしたら親の声がけによって子どもの行動が変わるかもしれないと思って、そこに注意して観察してみる。これが研究のスタートです。

■ でも、子どもが宿題をやるかやらないかはいろいろな要因がありますよね。

□ そうです。親の声がけは関係があるにしても、それ以外にも、子どものそのときの気分、宿題の内容や難しさ、友だちと一緒にやるかどうか、何か流行っているゲームがあるかどうかなど、数え上げればきりがありません。

■ それをそのたびに細かく観察したり、子どもに聞いてみたりするのが、個性記述的アプローチですね。

□ そうです。それを積み重ねていくと、その子にとっての宿題の「意味」が明らかになってきます。

■ 宿題の「意味」ですか!

□ そうです。個性記述的アプローチは、その人にとってのあるものごとがどういう意味を持っているかを明らかにするのです。

■ 宿題の意味というのは「学校の先生から出されて、家でやってくる課題」のことではないのですか。

□ それは「定義」ですね。意味というのは、その子にとっての宿題というものの考え方や価値のことです。たとえば「やらないでいると親がうるさく言ってくる面倒くさい作業」というようなことです。これがその子にとっての宿題の「意味」です。

■ なるほどその意味を明らかにするために子どもに聞いてみるのですね。

□ そうです。インタビューは個性記述的アプローチでの有力な方法です。

研究の逆向き設計

研究についてのいろいろな話題を取り上げました。

【研究】SEM(構造方程式モデリング)を使うときに注意すること
【研究】博士号を勢いで取るのは無理なことです
【研究】『教育心理学年報』は読むべき一冊。その理由。
【研究】論文「インストラクショナルデザイン研究の方法論」の要点
【研究】教育研究が難しいのは学習者が能動的な存在だから
【研究】ラブレターと論文は締切ギリギリまで書いてはいけない。
【研究】論文を書くときは「逆向き設計」で書いていくといい
【研究】「逆向き設計」で研究の思考実験をしてみると良い研究計画が書ける
【研究】開発研究の論文の結論の典型パターンと論文構成
【研究】コースの開発あるいはプログラムの開発とは何か
【研究】コースの開発は創造性を必要とする応用科学

その中から「いいね」が15個ついた「論文を書くときは「逆向き設計」で書いていくといい」を再録します。

論文を書くときは「逆向き設計」で書いていくといい

インストラクショナルデザインに「逆向き設計 (Backward design) 」という方法があります。授業や研修を設計するときに、まずそのゴールから設定して、そこからさかのぼって教える内容や教え方の詳細を設計していくという手法です。通常は最後にゴールが来ますので、逆にゴールからさかのぼっていくということで「逆向き」の名前がついています。

この逆向き設計を論文を書くときに適用するといい論文が書けます。いい論文とは、書いてあることが明確で一貫性がある論文です。一貫性があるというのは、初めから終わりまで1つの道をたどるということです。途中でいくつかの道に分かれて展開したとしても最後には1つのゴールに行き着くということです。

「はじめに/序論」から論文原稿を書いていくと、どんどん枝分かれしていってしまい、まとまりがつかなくなってしまうことを体験した人は多いでしょう。ある枝分かれは解決しないままに残り、特定の枝分かれがくねくねと続いていく。結局何が明らかになったのかがわからない論文になってしまいます。

そこで、論文もまた逆向き設計で書いてみることを提案します。つまり、次のような順番で書いていくのです。

(1) 結論を書く。「この研究で以下のようなことが明らかになった」という文で始めて、明らかになったことを箇条書きで書いていきます。たとえば「Pという条件のもとでXはYに影響を及ぼす」というような形です。

(2) 序論を書く。Xという概念、Yという概念はどういうものなのかを説明し、なぜその概念が重要とされ、これまで研究されてきたのかを書きます。そうすると研究史が書けます。研究史の中で、XとYという概念についてまだ検討されていない部分が見いだせたら、それがこの研究で扱うものだと位置づけます。

(3) XとYという概念は、操作的にはどのような具体的な尺度や行動なのかということを書きます。そうすると方法が書けます。概念レベルから操作レベル・具体レベルに落とし込む過程に妥当性があることを主張します。

(4) 「Pという条件のもとでXはYに影響を及ぼす」ことを示すためには、どのようなデータ分析をすればいいかを書きます。そしてその分析結果を書きます。そうすると結果が書けます。

(5) 結果の解釈として可能性のあるものをすべて書き出します。そしてそれぞれについて妥当性があるかを検討し、妥当性のある説明を残します。そうすると考察が書けます。

以上が、逆向き設計による論文の書き方です。お試しください。


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