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【考察】奈月彦が雪哉に相談したかったこと

2021年9月に ふせったー へ投稿したものと同じ内容。もう少し読みやすく整えてみた。
引用はなるべく文庫版から。

1)浜木綿

「きんかんをにる」初読の時点で気になった浜木綿の描写

…不格好に着膨れた奈月彦の妻だった。

烏百花 白百合の章
p284

あれ?浜木綿どした?妊娠?病気?と感じた。着膨れるくらいの重ね着をする、厚着をすることは、普段の浜木綿らしくないな、と。

『弥栄の烏』終章こぼれ種で

薄着が多い彼女にしては珍しく、里烏が着ているような、厚い布地の上着をゆったりと纏っている。

弥栄の烏
p357

浜木綿が、自身の妊娠を奈月彦に告げるシーンだ。妊婦が、身体を冷やさないようにするために厚手のものを着ているのだろう。
だから、着膨れた浜木綿の妊娠がよぎった。

浜木綿の不妊体質から妊娠は考えにくく、病気を疑った。『楽園の烏』で彼女が登場しなかったのもあり、病死したのか?と推測していた。
しかし、『追憶の烏』にて彼女は皇后として元日朝賀に列席し、翌年夫の死も気丈に看取っている。

病気ではなく、妊娠なのではないか?と考えた。

・『弥栄の烏』終章で 玉依姫の力で妊娠したことを告げる場面。

ーーささやかながら、お前に対する礼だそうだよ。

弥栄の烏
p362


・『玉依姫』で「みそぎをするだけで山神を身籠る」や「丹塗矢伝説」。

…神域の泉で無理やり禊をさせられて十月十日。愛しい男の腕に抱かれた経験もないままに、自分は母親となってしまった。

玉依姫
p107

川で水浴びをしていた玉依姫は、赤い矢を拾い、枕元に置いておいた。すると自然と妊娠し、子どもが生まれた。

玉依姫
p234


この2点から、
「浜木綿は人知を超えた力で妊娠した」
と解釈していた。

しかし、あれ?玉依姫は、澄尾を治癒したよね?
玉依姫って「子授けの神」じゃなくて「ヒーラー」なのではないか?
つまり、浜木綿の不妊体質を治癒したのではないか?そうすると、第二子妊娠の可能性を否定できないぞ、と考えた。

この先はその前提ですすめる。

2)葵/澄生


「きんかん」の時点で妊娠していたら、紫苑の宮に毒を盛られた事件は、金烏夫妻に大きく影響しているはず。妊婦と赤子(卵)は、死により近い存在なので、まずは隠して育てるのではないか。真赭の薄なら、そのための協力は惜しまないだろう。

…今も腹に子があるということで真赭の薄は宿下りをし…

追憶の烏
p51

とあるが、高貴な方の妊娠姿は人前に見せない世界なので、真実かどうかははっきりしない。その新たな宮さまのお世話で姿を見せないのではないか。

『追憶の烏』ラストに登場する 葵(澄生) 。奈月彦の子ども確定演出にのっかり、紫苑の宮でしょ!と初読で思ったが、新たな宮さま説を思いついた途端に、

‼︎‼︎‼︎…もしかして…??????

ひらめいてしまった。

葵(澄生)の描写は p300-301 でたっぷり描かれている(長くなるので割愛)が気になる箇所は

…瞳は銀河のように吸い込まれそうな色をしている。

追憶の烏
p300

瞳の描写が紫苑の宮と変えてあるのが気になるところ。ちなみに紫苑の宮は

こぼれ落ちそうな瞳は、あまりの黒さに、瑠璃色に輝いて見える。

弥栄の烏
p369

紫苑の宮ではなく、もうひとりの宮さまだから、あえて描写を変えているのではないか。

そして、奈月彦の描写を確認してみる。

…絶世の美姫と遜色ない顔の造作をしている。
線の細い女顔であり、…若い娘御のような…。

追憶の烏
p28

…まるで女のように優しげですらある。

烏は主を選ばない
p61

大戦前も後も、奈月彦はいつも女性的に描かれている。

葵(澄生)は、奈月彦のように女性と見間違うような男性ではないだろうか。
奈月彦と浜木綿の第二子なのではないだろうか。
「すみき」の「すみ」は、浜木綿から受け継いでいるのではないだろうか。

落女の試験に身体検査があったとしても、西家の推薦がある「葵」なので、無用な詮索はされないだろう。

では、なぜわたしが第二子を男子だと仮定したいのか。

3)山内のジェンダーギャップ

ここで本題の、奈月彦が雪哉に相談したかったこと。

「内緒にしてたけど、姫宮に弟宮が生まれてたんだよね。男女問わず長子相続ってどう思う?」
って聞きたかったんじゃないかな。

「男女問わず案」がわたしの中で出た理由は、外界生活の長かった奈月彦だから。

わたしは自作西暦年表を作ってある。

きっかけは、『玉依姫』第一章冒頭 で明かされた、1995年 5月。どうして90年代? この時代設定にどんな意味があるの?だった。

そこから逆算すると、奈月彦が外界生活を過ごしていたのは1980年代半ば、とわかった。当時の日本で印象的なことはなんだろうか?

たどり着いたのは
1986年4月施行 男女雇用機会均等法 だ。

法律が国会で可決制定される時、新聞やニュースはその話題で持ちきりだ。また、多くの女性も声をあげていただろう。

そんな雰囲気の中を過ごしたならば、どう感じるだろう?奈月彦は、山内はどうだろう?と比べてみなかっただろうか?

『烏百花 蛍の章』「まつばちりて」を思い出してほしい。
忍熊と松韻の会話

「女であることを誇るのなら、女の格好のまま、女の官人として働けばよいではないか」
…今まで考えたこともない言葉に…

烏百花 蛍の章
p135


能力のある女性が、女性だからという理由だけ働けない世界。
それを当たり前だと思って、変えられるとも思わない女性。
山内はそんな世界だ。

金烏になった奈月彦は、そんな山内の世界を変えたかったのではないだろうか。
女金烏擁立で、女性の活躍の場を増やしたかったのではないだろうか。

奈月彦が「外界を見た」雪哉の意見を聞きたかったのは、外界で活躍する女性を目の当たりにした上で、どう感じるかということだったんだろう。

現代社会に生きる読み手にとって、女性が学び、社会で働くことは当たり前だが、山内ではそうではないらしい。「そういう世界だから」で済ませていたわたしもまた、ジェンダーバイアスに囚われていると気づいた。

4)まとめ

奈月彦浜木綿夫婦には第二子がいて、その子は男子だった。男子だったけれども、紫苑の宮を日嗣の御子にすることを考えている。
そう雪哉に相談したかったのではないか、と考える。

「遺言」の

「全て、皇后の思うように」

追憶の烏
p271

これは、どっちの子に継がせるかは皇后に委ねるってことになるのかなぁ、と。


余談ですが
「追憶ネタバレ会」というオンラインイベントで阿部智里先生が

「澄生は男の子の可能性があった」

と発言されました。
それを聞いて(あーわたしの考察はハズレか…)と思いましたが、イベント冒頭で

「ブラフもかます」

とおっしゃっていたのを思い出し、今は逆に自信を持っています。

わたしの考察いかがでしたか?
よければコメントでつついていただければ幸いです。ひとりで考えていると、「もうこれしかない」って視野が狭く狭くなってしまうので。

最後まで読んでいただきありがとうございます。



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