見出し画像

本当は怖い「結婚」

判例研究を続けてきて、日本に蔓延る、法律婚尊重主義、嫡出子を含む婚姻共同体の保護という意識を目の当たりにした。

今や、「授かり婚」という呼ばれ方で、たしかに、多くの日本人は、「法律婚」をする。非嫡出子の出現率が極小で、日本の少子化の原因は、まず、結婚しないからだ、とも語られる。

夫婦別姓のために事実婚をする場合でも、出生時には、不本意ながらでも、一度婚姻届を提出し、「嫡出性」を満たした後、ペーパー離婚をする場合もあるほど、「嫡出」へのこだわりが根深い。

嫡出だとどんな効果があるのか?

嫡出子は、妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定される。出生と同時に法律上の父がいる。こうなると、夫だけが子の出生を知って1年以内に限られる嫡出否認の訴えのみによって、父子関係を争える。血縁関係がなくても、法律上の父であることが確定されれば、父子関係を断つのは困難だ。

これに対する、非嫡出子・・・非婚状態で生まれた子は、認知があるまで、「父」欄が空白になる。認知がない場合には認知の訴えを起こす必要があり、父の死後に認知の訴えをする場合は、死後3年以内に限られるため、その期限を過ぎると、血縁上の父でも、法律上の父子関係を成立させることができなくなる。また、認知による父子関係は、父以外の利害関係人による認知無効の訴えによって、いつでも争うことができてしまう。血縁関係がなければ、父子関係を否定されかねないというわけだ。

上記の表現は、まるで、嫡出子が優遇され、非嫡出子は差別されていることになる。だが、単純に非嫡出子が劣遇にあると言い切れるか、今日の法改正の機運と関連して、見直した方がいい。

嫡出子であれば、父子関係が推定された後、確定してしまう。法律上の父を早期に確定することが子の福祉に適うという理解に基づく。「法律上の父」は、血縁関係の有無を問わない。

嫡出否認の訴えが、出生を知ってから、1年という短期間に、出産した母の「夫」だけが申立権者となっており、申立てがなかったら、血縁関係がなくても父子関係が確定してしまう。一度確定した父子関係を争う手段がなくなってしまう。

推定されない嫡出子、推定が及ばない嫡出子であれば、親子関係不存在確認訴訟によって、父子関係を否定しうる余地があるが、婚姻から200日経過、あるいは、離婚後300日以内に産まれる子は、母が婚姻している夫(離婚していても元夫)の子として推定されるし、別居しているといった事情がなければ、推定が及ばないと言い切れるわけではない。

親子関係不存在確認訴訟が通用する場面は以外に限定されており、DNA鑑定で生物学上の親子関係が否定できる場合であっても、同訴訟が提起できないこともある。それだけ、嫡出子の父子関係の確定は厳重に尊重される。

これがとってもとっても恐ろしく、結果、無数に潜在していると語られる無戸籍児問題に関連していくことは、有名な話題であろう。

不倫する夫に思い馳せてみる。

妻子がいようが、不倫するときはする。肯定するわけではないが、現象としてあるという話だ。

不倫相手が、出産したとき、少なくとも、不倫した「夫」の子には自動的にはならない。

不倫相手が未婚者であれば、シングルマザーとなって、母子のいる戸籍に、認知によって「父」として記載される。認知届は、審査もなく、意思の表明だけで足りる。

不倫する「夫」がいるならば、「妻」だって、不倫する場合もあるだろう。

そして、妊娠、出産することもある。この場合、認知届で済むほど「簡単」にはいかなくなる。

「妻」が婚姻中に懐胎した子は「夫」の子と推定されるのである。自動的にだ。出生届の提出とともに、生物学上の親子関係の存否に関わらず、「父」が定まり、期間の経過によって、「確定」する。「確定」後は、父子関係を誰も(その父も子も)争えなくなるので、真実、生物学上の父が、養育責任を自覚の上、「父」になろうと試みても、「認知」ができない。すでに、「父」欄には、法律上の父が確定しているからだ。真実の父子関係を法律上形成する機会を失うのだ。

法律や戸籍の記載を気にせず、実態としての親子関係がある暮らしを続けることができるかもしれない。しかし、その関係はとても脆弱だ。親子なのに、親子であることを証明できなくなる。事実上の扶養が尽くされているならばともかく、翻意して家族が離散することになった場合、法律上の父に対しては、扶養義務の履行=養育費の請求が可能だが、親子なのに親子としての登録がなかったらどうだろう。相続もない。

特別養子縁組という手続きの可能性があるが、親子なのに、養子縁組なのだろうか。

違和感が止まらない。

そんな恐ろしさがあってか、妻が不倫して、不倫相手の子を出産した場合、その『夫』の子として推定されかねないので、アクロバティックな技術として、無戸籍状態にすることが考えられる。無戸籍でも、住民票上登録する方法があるので、予防接種等の暮らしに支障はない。無戸籍とした上で、嫡出否認ないし、父が「認知」をすることでの親子関係の確認を経て、真実に即した戸籍に登録する途がありうる。そうはいっても、一度父子関係の推定が働きかねない「夫」を巻き込まない方法が乏しいといわれている。

不倫する妻に理解を示し、DNA鑑定、裁判所への出頭等の手間に協力的な「夫」はどれだけいるだろうか。

夫にとっても不愉快な話であり、嫡出否認の訴えをしていかなければ、養育費の支払義務を負うことになる。血縁関係が否定される子に対して、だ。

この不合理な嫡出推定制度に見直しが入るという。

婚姻した夫婦は貞操義務をお互いに守ろうという理念はともかく、現象は規範の中にとどまるわけにはいかない。

養育費未払問題の中に、法律上の父が真実と異なることを理由とする場合も潜在するのではないか。無戸籍児が潜在していても問題の露見に時間がかかったように、養育費未払問題の真相を統計的に把握する手段はない。

嫡出推定制度の見直しは、法律婚を揺らがせる。

頑丈に父子関係を守ってきた仕組みを取り壊すのである。

それは、非婚差別の撤廃に、切り開くかもしれない。

翻って、非嫡出子の実態を見てみる。

胎児認知制度もあるから、無事産まれて、出生届を出せば、父の欄に認知をした者の氏名が記載される。生物学上の親子関係の存在は問われず、父となろうとする者が父になれる。生物学上の親子を前提に認知をしても、認知無効の訴えによって争われることがあり得るかもしれない。父と名乗ろうとする者、その他利害関係人誰もが訴えうる。しかし、真実生物関係上の親子関係が認められるときまで、いかに認知無効の訴えがあったからといって、認知の無効が認められるだろうか。いうほど、父子関係の不安定さはないかもしれない。

夫であることで、自動的に父として扱われるより、父が父として、父であることを意思表明する認知届について改めて注目していいかもしれない。出生届とは別の認知届を父自身が提出することで芽生える意識に期待が膨らむ。

いつまでも、親の自覚がないように語られる「夫」よりも、より当事者意識をもって、「父」として行動する「認知」を評価したい。

実は、この弱い関係が、ひょっとすると「母」にとって、都合がいいこともあるだろう。『夫』の子という推定がないことで、真実の父子関係を早期に登録しやすい(法が想定している仕組みと逆転している)。

誤りがあれば、母の立場で、是正することもできる。

あと、嫡出子というのは、実は、生まれてからでも得られるというのも豆知識として普及されるといい。認知と婚姻のセットによって、準正子は嫡出の身分を得るのだ。

だから、授かり婚なんて、慌てて手配することなく、ゆっくり、自分たちらしく親子関係を整えて、家族になっていけばいいのだ。


それが、多様な家族を対等に尊重する一歩になる。





親子に優しい世界に向かって,日々発信しています☆ サポートいただけると励みになります!!いただいたサポートは,恩送りとして,さらに強化した知恵と工夫のお届けに役立たせていただきます!