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法制審家族法制部会の二巡目チェック

親子関係、離婚後の子の監護について必要な事項の定めに関する検討(二読)


第1 はじめに 前回会議までで諮問に関連する論点について

一巡目の検討を終えたことから、本資料以降では、各論点に関し、一巡目の議論を踏まえた上、二巡目の検討を行う。


 本資料では、まず、前回会議における検討の結果を踏まえ、親権の有無にかかわらず、親子間に存在する法律関係を整理した規律を設ける方向性について論点の整理を行っている(後記第2)。
 次に、親の法的地位を明らかにすることを前提として、親権者、監護者とそれら以外の親との関係について、論点の整理を行っている(後記第3)。「親権者」,「監護者」の用語については後述のように見直しの可能性があるが,ここでは,民法第818条等における「親権者」,民法第76 6条第1項における「子の監護をすべき者」としての「監護者」の用語を ひとまず用いるものとする。 なお、第2及び第3で扱う論点は、一巡目では最後に検討したものであるが(部会資料11参照)、これらは、今後の親子に関する規律の検討の基礎となる事項であることから、二巡目では冒頭に検討を行っている。
 次に、父母の離婚後の子の監護について必要な事項の定めに関する規律の在り方について、実体的な規律についての論点整理を行っている(後記第4)。

第2 親子関係に関する基礎的な規律の在り方

親権の有無に関わらず、親子関係に関する法的概念について、後記1~3のとおり規律を設けることについて、どう考えるか。

(補足説明) 親は、親権を有するか否かにかかわらず、子との関係で特別な法的地位にあると解されるが(例えば、他の直系親族間とは異なる生活保持義務、民法第817条の6の同意等)、このような親の法的地位については、現行法上必ずしも明確に規定されていない。そのために、例えば、親権者でない親は、子に対して何らの責任を負わないかのような理解がされることがあり、それが養育費の不払い等の一因となっているおそれがあるとの指摘がある。 そこで、「第2」では、このような親の法的地位に関する規律の在り方につい て、叩き台を示している。なお、現行法においても、親という法的地位と親権者という法的地位とは別のものであると考えられるところであるが、以下の規律は、この関係は維持しながら前者について内容を明示しようとするものである。 したがって、仮に親の法的地位を明示する規律を設けるとしても、原則として 「親権」概念(その呼称・内容については別途検討の対象となり得る。)はさしあたり維持されることが想定されている。

子の利益を最も優先して考慮する義務
 親は、民法等の法令により子について権限を行使する場合(注1)や、現に子を監護する場合(注2)には、子の利益を最も優先して考慮しなければ ならないものとする。 子の利益の判断に当たっては、できる限り、子の意見又は心情を把握し、 子の年齢や発達の程度に応じて、尊重しなければならないものとする(注3)。
(注1)民法との関係でいえば、例えば、民法第766条第1項に定める「子の監護につ いて必要な事項」に関する協議、同条第2項の審判の申立てや、民法第817条の6の同意といった親の地位に基づく権限や、民法第820条以下の親権者の地位 に基づく権限等が考えられる。
(注2)「現に子を監護する場合」とは、現に親権者に指定されているという法的状態や、 親権者ではないが「子の監護をすべき者」としての「監護者」に指定されている法的状態を指すのではなく、親権及び監護権の有無にかかわらず、親(親権者でも監護者でもない親(面会交流中の別居親等)も含む。)が、現に子と一緒にいて子の面倒を見ているという事実上の状況を指すものである(親権者、監護者又はそれら以外の親であるかにかかわらず、現に子と一緒にいて子の面倒を見ている親を、「現に子を監護する親」と呼ぶ。)。
(注3)このような責任を果たさせるために、子と同居していない親に子の養育の状況を確認する機会を与えるべきであるとの指摘もある。

未成年の子の養育の義務
 親は、未成年の子に対し、他の直系親族間よりも重い程度(注1)の扶養 をしなければならないものとする(注2、3、4)。成年に達した子が、成年に達する前から引き続き教育を受けるために就労をすることができない等の状況にある場合(注5)には、親は、当該子が成年に達した後も相当な期間(注6)は、引き続き同人に対してこの義務(以 下、「未成年子扶養義務」といい、この義務に対応する権利を「未成年子扶養請求権」という。)を負うものとする。
(注1)具体的な程度については、更に検討を要する。
(注2)本規律を設ける場合には、民法第828条ただし書の「養育及び」は削除することも考えられる。
(注3)配偶者の子と同居する者や、親以外の者であって子の監護者に指定された者(後 記第3.2⑵参照)についても当該義務を負わせることの当否について、更に検討を要する。
(注4)子に一組の父母がいるという状況では、父母が同一の順位で当該義務を負うことを想定している。普通養子縁組の結果、複数組の父母がいる場合の当該義務の在り方については、養子制度の検討の際に扱う予定である。(注5)様々な事情から就業することができない子について、親がいつまで子に対する特別な義務を負うべきかという観点から、要件の在り方について、更に検討を要する。
(注6)上記注5と同様に、親が負う義務の外縁を明確にする観点から、具体的な期間を法定することも考えられる。

3 親の法的地位に係る法律上の呼称
 上記1及び2の義務について、適切な用語を検討するものとする(注)。 (注)親の法的地位について、包括的な呼称を付する方向性については一定の理解が得ら れたが、例えば、「責任」の語を用いることには、一巡目の議論において慎重な意見 も多く出された。

(補足説明) 1 「1 子の利益を最も優先して考慮する義務」について
⑴ 前段について
 民法等の法令による親の子についての権限としては、例えば、子の監護に ついて必要な事項の定めを求める審判を申し立てること(民法第766条 第2項)や、特別養子縁組に同意すること(民法第817条の6)などを指している。 また、「現に子の監護をする場合」とは、親権者又は監護者に指定されて いるかという法的な状態を問うものではなく、ある時点において、実際に子と同じ場所にいて子の面倒を見ているかという事実状態を問うものである。 親権者や監護者が実際に子の面倒を見ている状況だけではなく、例えば、直接交流中の別居親が子の面倒を見ている状況等も含まれることを想定している。 現行法の下でも、これらの場面では、親が子の利益を最も優先して考慮しなければならないことは当然のことと解されていると考えられるが、そのことは民法の規定上からは必ずしも明らかでない。本文前段の規律は、これを明らかにしようとするものである。
⑵ 後段について
 「子の利益」は抽象的な概念であることから、その判断のためには、具体的な基準があることが望ましい。そこで、後段の規律は、「子の利益」の判断の在り方として、「できる限り」、「子の意見又は心情」を把握し、尊重しなければならないことを明示するものである。 「意見」は、一定程度成熟している子が特定の考えを持っている場合を示し、「心情」はそのような考えを持つには未成熟である子や、特定の考えを持っていない子の主観的な状況を示そうとするものである。 もっとも、子の監護に当たっては、必ずしも子の意見又は心情が明らかでないことがあるし、具体的な事情の下では、子の意見又は心情に反しても子のために監護に必要な行為をすることが子の利益となることもある。本規律において、「子の意見又は心情を」「できる限り」「把握し、」それを「子の年齢や発達の程度に応じて」「尊重しなければならない」としているのは、 そのことを明らかにしようとするものである。
⑶ 子の養育状況を確認する機会の確保(「注3」)について
 親が子の意見又は心情を尊重した上で子の利益を最も優先して権限を行使するためには、子の養育状況について把握している必要がある。「(注3)」 は、そのような方向性の考え方を紹介するものである。 もっとも、そのような方向性については、DV事案等において再被害等につながるおそれもあり、かえって子の利益を害する事態が生ずることとならないかという点からも検討する必要がある。

2 「2 未成年の子の養育の義務」について
⑴ 前段について
 一般に、親の未成年の子に対する扶養義務は、いわゆる生活保持義務であ り、他の直系親族間のものよりも重いと解されているが、民法上そのことを 明示する規定はない。そこで、本規律は、親は、親権の有無にかかわらず、 このような生活保持義務を負っていることを明示するとともに、当該義務 に対応する権利が、未成年子を権利主体とする要保護性の強いものであることを明らかにしようとするものである。 今回の見直しにおいては、未成年子扶養請求権及びそれを基礎とする養育費請求権について、調停・審判手続及び民事執行手続において、他の直系親族間の扶養請求権よりも更に有利な取扱いをすることも検討されている。 未成年子扶養請求権について特別な根拠規定を設けることは、かかる取扱 いについて実体法の面から正当性を与えることになるものと考えられる。 なお、未成年子の扶養については実際には「養育費」の場面で問題となる ことが多いと考えられるが、「養育費」とは、民法第766条第1項の「子の監護に要する費用」に係る金員を指すものである。本規律は、ここでいう 「子の監護に要する費用」を親が負担する根拠を示すものであるから、養育費請求権が、子の権利に基礎を有することを明らかにするものといえる(養育費請求権とは、未成年子扶養義務を共同して負う父母間における事前又は事後の求償のような性質のものである。)。そうすると、本規律は、上記の手続上の有利な取扱いを養育費請求権についても及ぼすことにも正当性を与えることになるものと考えられる。なお、複数組の親が「子の監護に要する費用」を負担する場合、それらの者がその費用をどのように分担するべきかが問題となるが、それについては養子制度の検討の場面等で別途検討を 行うことにする。
⑵ 後段について
 現行法下においても、親の子に対する生活保持義務は、必ずしも子が未成 年の間にのみ存在するわけではなく、親は、子が未成熟の間(経済的に自立するまでの間)は、子が成年に達した後も引き続き同等の義務を負っていると解されているように思われる。 しかしながら、仮に、経済的に自立していない子に対しては親が常にこの ような義務を負うとの規律を設けたとすると、例えば、障害を有している子、 様々な事情から就業することができない子等に対して、親がいつまでも義務を負うこととなりかねず、社会保障と親の義務との関係を不明瞭にすることとなって、相当でないとの指摘がある。 そこで、本規律は、子が成年に達した後も、親が生活保持義務を負うことがあることを明示することとしつつ、それは「成年に達する前から引き続き教育を受けるために就労をすることができない等の状況」がある場合や「相当な期間」に限られることを示し、その外縁を明確にしようとするものであ る。もっとも、「(注5)」及び「(注6)」のとおり、本文の規律でも規範の 明確性としては不十分であるとも考えられることから、要件の在り方につ いて引き続き検討を行う必要があるものと考えられる。

3 「3 親の法的地位に係る法律上の呼称」について
 現行法下においては、親権者でない親が、あたかも子に対して何らの責任も負わないかのように捉えられ、それが養育費の不払い等の一因となっているのではないかとの指摘がある。しかも、今回の見直しでは、「親権」の語について、親の義務又は責任の側面を強調する語に置き換えることも方向性の一つとして検討されていることから、仮にそのような方向での見直しを行った場合には、そのような誤解が更に強まるおそれがあるとの指摘もある。 そこで、部会資料11では、全ての親の法的地位についての呼称を、義務や責任といった側面をあらわす語とする観点から、「親責任」という呼称を掲げていたところである。しかしながら、「責任」という語については、民事法上の一般的な「責任」概念(債務不履行「責任」、不法行為「責任」等)と整合しないことや、親のみに養育の責任を押しつける方向に働きかねないこと(社会による養育支援を阻害しかねないこと。)を指摘し、慎重な検討が必要であ るとの意見もあったところである。したがって、「(注)」のとおり、この語は飽くまでも仮置きしているものである。

第3 子の養育の観点から見た親権者、監護者及びそれら以外の親の関係の整理

親権者、監護者及びそれら以外の親の関係について、後記1及び2のよう な規律を置くことについて、どのように考えるか。


(補足説明)
子の養育との関係での親の地位の分析
 子の養育との関係で親を法的観点及び事実上の観点から分析すると、以下のようなものが考えられる。
【親の分析】
① 監護者が指定されていない場合における親権者である親
② 監護者が別に指定されている場合における親権者である親
③ 親権者ではないが監護者である親
④ 現に子の面倒を見ている親権者でも監護者でもない親(「現に子を監護する親」)
⑤ 現に子と一緒にいない親権者でも監護者でもない親
 このうち、①については、現行の民法において、「親権者」として想定されている者であり、その地位については、一定の規定が整備されている。また、⑤については、まさに上記第2で検討した親であることの法的地位に関する議論が直接妥当するものである。 これに対し、②及び③については、民法第766条第1項によれば、協議離婚に際して(民法第771条により裁判離婚に際しても同条が準用される。)、 監護者(「子の監護をすべき者」。「監護者」の法的な意味については、後記2参照)を別途定めることが可能とされているところ、このような監護者が指定されているという状態を前提とするものである。もっとも、一巡目の議論では、監護者が定められた場合に、監護者が指定されているという法的な状態において、親権者及び監護者がそれぞれどのような権限を有し、義務を負ってい るかという点については、必ずしも明らかでないことが確認されたところで ある。 また、④について、例えば、面会交流中の別居親等がこれに該当するが、当該親が、子に対し、どのような権限及び義務を有しているのかという点は現行法上、明らかでない(審判で定められたような場合には、親間で監護委託のような契約が締結されているとみることもできない。)。
2 監護者(子の監護をすべき者)概念の多義性
 上記1では③と④とを分けて記載しているが、両者は必ずしも明確に区別することはできないように思われる。 すなわち、一般的に、「監護者」とは民法第766条第1項にいう「子の監護をすべき者」を指すものであり、監護者が指定された場合には、身上監護について権限を有しない親権者(上記1②)と身上監護権のみを有する監護者(上記1③)が生じ、子は監護者と同居して生活する状態となることが想定されているものと考えられる(上述のとおり、その場合の具体的な法的状態すら必ずしも明らかではない。)。 もっとも、同項によって、例えば、親権者でない方の親が週のうち一日子の面倒を見る旨を定めることは可能であると思われ、これも「子の監護をすべき者」の定めに該当するとも考えられる。そして、これを突き詰めていくと、例えば、面会交流中の別居親も、その間については「子の監護をすべき者」とみることができるように思われる。しかし、これらの場合に、このような親が上述の全ての身上監護権を有する監護者と同じだけの権限を有したり、親権者の権限が制限されたりするとも思われない。 そこで、本資料では、「子の監護をすべき者」概念を更に分類することとし て、便宜上、「監護者」については上記1③の身上監護に関する権限を全て有する者について用いるものとし、部分的に子の監護を担当する親や、面会交流中の親のように、監護者には当たらないが現に子の面倒を見ている親について「現に子を監護する親」という語を用いて検討を行う。

3 「第3」では、このような親の分析を前提に、それぞれの親の権限及び義務や、その定めに関する規律を検討している。 なお、参考資料12-1のとおり、親権の帰属の問題(特に父母の離婚後) については、本資料では取り扱わず、部会資料13で検討を行う予定である。
1 親権者、監護者、それら以外の親に関する規律の整理
親権者概念の整理等
ア 親権者概念の整理
 「親権者」は、以下の事項について排他的な権限を有し、義務を負う ものと整理するものとする(注1)。
① 子の監護,教育,財産管理に関する重要な事項(注2、3)につい て,子の利益の観点から熟慮して決定すること
② ①の事項について子を代表すること
③ 子の財産を管理すること(子の日常生活に関する範囲のものを除 く。) イ 親権者による監護及び教育
 別に監護者を定めない限り、親権者は、後記⑵アに掲げる監護者と同 一の権限を有し、義務を負うものとする(注4)。
(注1)現行法において、親権を行う者の「監護及び教育をする」権利及び義務(民法第 820条)には、①子の監護及び教育に関する重要な事項についての決定と、そのような大枠の決定に基づいて行われる②日常的な事項の決定及び③事実としての 監護及び教育が含まれているものと考えられる。本文は、①を「親権」の中心とし、 ②及び③については、「監護者」の権限及び責任として整理しようとするものである。
(注2)1⑴から⑶まででは、子の身上及び監護に関する決定を3段階に分けた上で、以下のように決定の権限及び義務を振り分けようとするものである。
①子の監護及び教育に関する重要な事項についての決定・・親権者
②子の日常に関する事項についての決定・・監護者
③子について随時決定すべき事項及び緊急の事項の決定・・現に子を監護する親もっとも、この点については、部会資料13において、「父母の離婚後における子に関する事項の決定についての規律」の在り方として改めて検討されることと なる。
(注3)進学、就職、医療、宗教等に関する決定を指し、子の居所の指定は、後記⑵ア① の事項に含まれることを想定している。「父母の離婚後における子に関する事項の決定についての規律」における子の居所の指定の扱いについては、同規律の在り方を検討する際に、改めて検討する(部会資料13予定)。
(注4)仮に、父母の離婚後も子に関する重要な事項について父母の双方が決定に関与す ることを選択することができる制度を導入した場合における「親権者による監護及び教育」に関する規律の在り方については、別途検討を要する。 

監護者の指定
 監護者が指定された場合には、監護者は、以下の事項について排他的な権限を有し、義務を負うものとする。
 ア 監護及び教育
① 子の日常生活に関する事項についての決定(注1)
② 子の「事実としての監護及び教育」
 イ 財産管理
① 子の日常生活に関する事項(未成年子扶養請求権に関する事項を 含む。)について、子を代表すること(注2)。
② 上記①の事項に関する範囲での子の財産の管理
(注1)子の居所に関する決定はここに含まれることを想定している(既述のとおり、「父母の離婚後における子に関する事項の決定についての規律」における子の居所の 指定の扱いについては、同規律の在り方を検討する際(部会資料13予定)に改めて検討する。)。ただし、子に関する重要な事項の決定は親権者が行う以上は、子の居所を変更した場合には、親権者に子の居所を伝える必要があるとの規律を設けることも考えられる。 「子の監護,教育,財産管理に関する重要な事項」のうち、監護者に行わせることが適切なものがほかにないかという点については、更に検討を要する。
(注2)このような規律を設ける場合には、未成年者と取引をする相手方との保護等の観点から、監護者の公証等の在り方について検討を要する。
現に子を監護する親の権限及び義務
 現に子を監護する親は、子について、随時決定すべき事項及び緊急の事 項を決定する権限を有し、義務を負うものとする(注)。
(注)上記第2.1
(注2)と同様に、親権や監護権の有無とは関わりなく、親権者でも監護者でもない面会交流中の別居親等も含めた全ての親に適用されることが想定さ れている。
(補足説明)
1 「⑴ 親権者概念の整理等」について 前回資料で検討したとおり、親権は、身上監護に関する権限及び義務と財産 管理に関する権限及び義務とから構成されているが、身上監護に関するものについては、「(注1)」で指摘されているとおり、①子の監護及び教育に関する重要な事項についての決定と、そのような大枠の決定に基づいて行われる ②日常的な事項の決定及び③事実としての監護及び教育という質の異なるも のが含まれている。そして、そのことが、親権に関する議論を複雑にしている原因となっているようにも思われる。 本規律は、まずは親権については、①及びそれに関する子の財産の代表を内容とするものであると整理した上で、残りの部分については、原則として親権者に帰属するが、監護者が指定された場合には、監護者に帰属することとするものである。 ここでいう「重要な事項」の範囲については、「(注3)」のとおり、進学、 医療、宗教等を想定している。なお、民法第821条の子の居所に関する事項については、親権者とは別にあえて監護者が指定された場合には、監護者が決定することが想定されているのであるから、ここでいう「重要な事項」には含 めないことを想定している。

「⑵ 監護者の指定」について
⑴ 「監護及び教育」について
 監護者が指定された場合における監護者と親権者との役割分担について は、現行法上必ずしも明らかではない。そこで、本規律は、監護者が指定さ れた場合に、子の居所及び子の日常に関する事項についての決定並びに子の「事実としての監護及び教育」を明示するものである。 本規律は、子の医療、宗教、進学等といった「子の監護及び教育に関する重要な事項」についての決定は親権者に行わせようとするものである。これらの事項についてまで親権者の意思に反して監護者に決定させることが適切であるとなれば、もはや監護者とは別にその者を親権者としておくことの意義がなくなると考えられるからである。もっとも、「子の監護及び教育に関する重要な事項」について、監護者が決定させることが適切なものがないかという点については、更に検討を要する。
⑵ 「財産管理」について
 現行法では、監護者指定がされた場合でも法定代理権及び財産管理権に ついては親権者に留保されると考えられるため、親権者と監護者の意向が異なるときに、子を当事者とする契約を締結することができなくなるおそれがあるように思われる。また、例えば、子が自らの財産で習い事等を望んでいるような場合に、親権者が反対すると、監護者は、それを実現することもできない。 そこで、本規律は、監護者が指定された場合には、子の日常に関する事項についての法定代理権及びその範囲についての財産管理権は、監護者に属することとしようとするものである。そのような事項の中でも、未成年子扶養請求権についての法定代理権や、それにより受領した金員の管理は子の 日常生活との関連が強いものであることから、それが監護者に帰属するこ とを特に明示している。 もっとも、一定の範囲について監護者が法定代理権及び財産管理権を有することとし、その反面として親権者のそれらの権限を制限するとすれば、 取引の安全上、監護者が指定されていることを明示する必要があるが、現行法では、監護者が指定されていることを公証する手段はない。そこで、「(注 2)」において、本文の方向性で規律を検討する場合には、そのような公証等の手段について検討をする必要があることを指摘している。
3 「現に子を監護する親の権限及び義務」について
 本規律は、現に子を監護しているという事実から発生する全ての親の権限及び義務を規律するものである。 現行法においても、親は、親権者でも監護者でもないとしても、例えば、子との面会交流中の食事等に関する事項や、子と一緒にいる場面で子に緊急の医療行為の必要が生じた場合の判断等について、全て親権者の指示を仰がねばならないというわけではなく、一定程度の裁量に基づき決定する権限を有していると解されているように思われる。しかしながら、親権も監護権を有しない親のそのような権限の根拠については、現行法上は必ずしも明らかでない。そこで、本規律は、全ての親は、子に関するそれらの事項について、親としての地位に基づき決定する権限を有し義務があることを定めるものである。 決定することができる事項の範囲として、「随時決定すべき事項」とは、例えば、子の食事や衣服等、日常生活において、日々生ずる子に対する影響の大きくない事項を指している。 また、「緊急の事項」としては、ここにも例示したように緊急の医療行為等を想定している。

2 子の監護について必要な事項の取決め
⑴ 親間の定め
ア 子に親が複数ある場合(注1)において、子と同居していない親がい るときは(注2)、親間の協議により、監護者、親と子との交流、未成年子扶養義務の分担その他の子の監護について必要な事項を定めるものとする。
イ 上記アの定め若しくはその変更に係る協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、父母又は子の請求により、家庭裁判所が当該事項を定めるものとする(注3)。
(注1)本規律は、一組の父母間についての関係だけではなく、普通養子縁組によって生じた複数の父母間についても対象に含めようとするものであるが、後者の場面において、「子の監護について必要な事項」に、監護者の指定も含めることについて は、慎重な検討を要するとの指摘もある(後記⑵アも同様)。
(注2)本文の文言では、父母の婚姻中に、その一方が職務の都合上単身赴任しているという場面にも適用されることとなる。そのような場面では、本規律の対象となるとした上で、子の監護に必要な事項は黙示的に定められているものと解することも できる。他方、そもそも、そのような場合には「子と同居していない」とはいえないとの理解もあり得る。
(注3)短期間に申立てが繰り返される等濫用的な申立てがされた場合に、簡易に却下することができることとする規律等についても検討する必要がある。
⑵ 親と第三者との間の定め
ア 子の利益のために必要がある場合には、親以外の第三者も、「親権者」 (注1)との協議により、子の監護者となり、また、子との交流をすることができるものとする。
イ 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、 父母、子又は当該第三者の請求により(注2、3)、家庭裁判所が当該事項を定めるものとする。
(注1)「親権者」の語についても、別途検討を要する。
(注2)第三者の範囲について、親族に限ることや、過去に子と同居したことがある者に 限ることも考えられる。
(注3)短期間に申立てが繰り返されるなど濫用的な申立てがされた場合に、簡易に却下することができることとする規律等についても検討する必要がある。
⑶ 家庭裁判所が定める場合の考慮要素
家庭裁判所が、監護者指定、親又は第三者と子との交流を定めるに当たっては、それぞれ以下の事項を考慮して、子の利益を最も優先して考慮して定めるものとする。
ア 監護者
① 子の出生から現在までの生活及び監護の状況
② 子の発達状況及び心情
③ 監護者となろうとする者の当該子の監護者としての適性
④ 監護者となろうとする者以外の親と子との関係
⑤ 他の親と子との交流が子の利益となる場合における監護者となろうとする者の当該交流に対する態度
イ 親又は第三者と子との交流
① 子の生活状況
② 子の発達状況及び心情
③ 交流を求める者と子との関係
④ 交流を求める者と子の親権者又は監護者との関係
(補足説明) 1 「⑴ 親間の定め」及び「⑵ 親と第三者との間の定め」についていずれも部会資料11で検討した論点に係る規律である。「⑴」は、全ての父母間に関する規律であり、婚姻の有無にかかわらず全ての実親間を対象とすることはもとより、普通養子縁組により子に複数の「父母」が存する場合における複数の親子関係をも対象とするものである。これに対し、「⑵」は、親族や里親のような、親以外の第三者と子との関係に関するものである。 いずれの規律についても、「子の監護について必要な事項」としては、民法第766条第1項で例示されているものと同様のものを例示列挙している。 もっとも、この点については、一方が子の監護者であることを前提としつつ他方の関与の在り方を検討するという面会交流と、いずれが子の監護をすべきかを検討することとなる監護者の指定とは、性格の異なる問題であり、これら の問題を一体のものとして取り扱うことの当否については、慎重に検討すべ きとの指摘がある。また、このような規律を設けること自体について、実態として、一組の父母以外の者が子の養育に関与するという状況が子の利益に適うことがあるとしても、それを法制度に取り込むことについては慎重であるべきだとの指摘もある。 また、特に、父母以外の第三者を監護者に指定することについては、親権者による養育が適切ではないが、親権制限の申立てによるまでもないという場面で、実務上重要な役割を果してきたとの指摘もあるが、他方で、そういった場面について民事的な解決に委ねるのは相当でなく、行政による解決に委ねるべきだとする指摘もあった。
2 「⑶ 家庭裁判所が定める場合の考慮要素」について
 本規律は、家庭裁判所が子の監護者及び子との交流を定める場合における 考慮要素を明示するものである。 この点については、父母の離婚等に伴う問題については、事案ごとに具体的な状況は千差万別であり、画一的な考慮要素を定めることは困難であるとの指摘がある。もっとも、この問題については、当該事項の判断について、国会等で議論した上で判断枠組みを定めるべきか、それとも、裁判官の広い裁量に任せるべきかという観点から更に検討を要するとの指摘もあった。
⑴ 「ア 監護者」について
家庭裁判所が監護者を指定する場合の考慮要素を明示しようとするもの である。 まず、子について、「①」及び「②」を挙げている。
「①」では、現在の家庭裁判所の実務が判断時点で子と同居している親を監護者に指定する運用となっているのではないかとの指摘があることも踏まえ、現時点における 「生活及び監護の状況」だけではなく、出生から現在までを考慮すべきことを明示している。 次に、監護者になろうとする者について、「③」を挙げている。子を監護することが可能であったとしても、その意欲を欠く者に子を監護させるのは相当でないことから、「適性」の考慮に当たっては、単に監護の能力のみではなく、監護の意欲をも考慮されることが想定されている。「当該子の監護者としての適性」とは、監護者となろうとする者と子との具体的な関係についても考慮されることを示すものである。 最後に、監護者になろうとする者以外の親に関して、「④」及び「⑤」を 挙げている。前者は、申立てをした者以外でより監護者として適切な親がいないかという点に関するものであり、後者は、監護者となろうとする者が、 他の親と子との交流の状況についてどのような態度であるかという点に関するものである。もっとも、これは、単により多く相手方と子との交流を認める方を監護者にするという新たな規律を設けようとするものではなく、 子にとって面会交流が利益となるにもかかわらず、それに協力しない場合 に、そのことが考慮されるというものである。
⑵ 「イ 親又は第三者と子との交流」について 家庭裁判所が、親又は第三者と子との交流を定める場合の考慮要素を明示するものである。 「①」及び「②」は、上記⑴の監護者を指定する場合と同様に、まず、子の状況を考慮要素とするものである。 「③」は、交流を求める者に関するものであり、同人と子とのそれまでの交流の状況だけではなく、過去の虐待の有無等、子と当該交流を求める者とを面会させることの当否(交流する者としての適性)についても考慮されることを想定している。 「④」は、子の親権者又は監護者に関するものである。DVがあった場合等に不適切な面会交流を実施した場合には、子の養育環境が不安定となり、 結果として子の利益を害することとなるとの指摘がある。そこで、ここでは、 そのようなDV等の問題について考慮した上で、面会交流の当否やその方法等について検討されることが想定されている。

第4 離婚後の子の監護について必要な事項の定めに関する実体的な規律の検討

離婚後の子の監護について必要な事項の定めに関する実体的な規律について、以下のような見直しをすることとしてはどうか。


1 離婚時の情報提供に関する規律
⑴ 離婚時における講座の受講
 未成年の子の父母が協議上の離婚をする場合には、以下の者は、法令で定められた父母の離婚後の子の養育に関する講座(以下「離婚後養育講座」という。)を受講しなければならないものとする(注1、2)。
【案①】父母の双方
【案②】父母のうち「親権者」となる者及び監護者となる者
(注1)本規律は、受講を協議離婚の要件とする規律であるが、この点については、努力義務にとどめるという考え方もあり得る。受講を要件とする場合には、受講したか否かの確認方法や、受講することができない事情がある場合の取扱い等についても検討を要する。なお、本文の規律の下でも、離婚後養育講座を受けなくても、裁判離婚をすることは可能である。
(注2)離婚後養育講座の制度化に当たっては、講座の実施主体について検討する必要が ある。
⑵ 離婚後養育講座の内容
 離婚後養育講座の内容は、以下の内容を含まなければならないものとする。
【案①】親の法的地位、親権、監護者、養育費、面会交流等の法的な事項 【案②】上記案①の事項に加え、離婚をする当事者(注)や、父母の離婚を経験する子の一般的な反応や、それに対する配慮の在り方といった心理学等の知見
【案③】上記案②の事項に加え、ひとり親に関する支援制度に関する事項 (注)子についてだけではなく、離婚当事者の一般的な反応や、それに対する配慮について適切な情報を提供することは、当事者間の葛藤を軽減する観点から重要であると考えられる。
⑶ 離婚後養育講座の受講方法 
ア 離婚後養育講座は父母が個別又は同時に受講するものとする。
イ オンラインでの受講等、父母にとって負担のかからない複数の方法を準備するものとする。
(補足説明) 1 「⑴ 離婚時における講座の受講」について 本規律は、法律家や司法機関の関与なく離婚をすることができるという我が国の協議離婚の特性を踏まえ、離婚後の子育てに関して必要な法的情報等を確実に提供するために、未成年の子の父母が協議離婚をする場合に、父母が離婚後養育講座を受講することを確保しようとするものである。 受講すべき父母の範囲について、本来であれば、同居親及び別居親の双方が離婚後の子の養育に関する適切な知識を有し、それぞれが子に対して責任を果たしていくことが望ましいと考えられる。「【案①】」は、そのような観点か ら、父母の双方が受講しなければならないこととするものである。もっとも、 仮にそのような規律とした場合には、例えば、一方の親が養育意思を失っており、かつ離婚に積極的でないような場合に、同人が当該講座を受講しないことで協議上の離婚が難しくなり、結果として子が不安定な状況に長期間置かれるという事態が生じかねない。「【案②】」は、そのような観点から、少なくとも父母のうち親権者となる者(監護者が指定される場合においては、監護者と なる者も含む。)が受講すれば足りることとするものである。 なお、本文の規律は、規律の実効性の観点から、受講を協議離婚の要件(形 式要件)とすることを想定しているものであるが、「(注1)」では、制度創設に当たっては努力義務にとどめる考え方もあることを指摘している。
2 「⑵ 離婚後養育講座の内容」について
 仮に離婚後養育講座の制度を創設する場合には、具体的な講座の内容につ いて検討することとなるが、同種の制度を有する海外では、最低限度の内容を定めた上で民間に講座の開発を委ねたり、公的機関が自ら開発したりする例 があるようである。もっとも、どのような方法で開発することになったとしても、法制度として位置付ける以上は、当該講座に最低限度含まれるべき内容については、明示されている必要があるものと考えられる。そこで、本規律は、 同講座に含まれるべき最低限の内容を明示するものである。 「【案①】」は、親の法的地位、親権、監護者、養育費、面会交流等の法的な 事項のみを挙げるものである。なお、例えば、「養育費」という概念自体についての一般的な認知はある程度高まっているものと思われるが、例えば、債務名義の重要性や、民事執行手続の概要等については、まだ十分に認知されているとはいい難いように思われる。そこで、離婚後養育講座においては、このような点についても、丁寧な解説を行うことを想定している。 「【案②】」は、法的事項に付け加え、離婚をする当事者や、父母の離婚を経験する子の反応やその意思、それに対する配慮の在り方といった心理学等の知見を提供しようとするものである。離婚後の父母が子の養育について適切 な連携を図るためには、離婚当事者である父母間の葛藤を下げることが重要となると考えられることから、そのような効果を期待している。 「【案③】」は、上記「【案③】」に加え、さらに、ひとり親に関する各種支援制度に関する事項も含めるものである。この点については、離婚の届出をする 場合には市区町村役場の窓口において丁寧な教示が行われているところであ るが、例えば、夜間窓口で提出する場合や、届出時に説明を聞く時間がないような場合であっても、確実に情報を届けようとするものである。ただし、情報量が多くなりすぎると、かえって情報が届きにくくなる懸念があることも考慮する必要である。
3 「⑶ 離婚後養育講座の受講方法」について
離婚後養育講座については、通常、父母が揃って受講することは困難である と考えられ、個別に受講することになるものと考えられるが、同時に受講することを否定するものではない。 また、例えば、月に1回しか講座が開かれない等といった場合には離婚が困 難になるため、受講者の負担とならないように様々な受講方法を用意することを明確にしている。
2 未成年の子の父母の協議離婚に関する規律
⑴ 子の監護について必要な事項の取決めを確保する方策
未成年の子の父母が協議上の離婚をする場合には、以下のアからウま でのいずれかに該当することを要するものとする(注1)。
ア 子の監護をすべき者、親と子との交流、未成年子扶養義務の分担(養育費)その他の子の監護について必要な事項を定め、当該定めについて、 弁護士等の法律家による確認(後記⑵)を受けた上で届け出ていること (注2)。
イ 子の監護について必要な事項についての定めがされており、養育費 の部分に関して債務名義となる文書があること。
ウ 父母が、離婚届において、届出時点では子の監護について必要な事項 の協議をすることができない事情があることを申述していること。
(注1)本規律、後記⑵イ及び後記3によれば、未成年子を有する父母が協議離婚をした 場合には、常に未成年子扶養料請求権又は養育費請求権について直ちに強制執行を申し立てることができる(養育費請求権等についての債務名義が存在する。)ことと なる。
(注2)後記⑵アの規律にかかわらず、戸籍の受理時の審査は形式的なものであることか ら、受理時に法律家による適正な確認がされたことまでを審査することはできないと考えられる。仮に、確認に瑕疵があったとしても、他の要件を充足している以上は、民法第765条第2項と同様に、離婚の効力には影響を及ぼさないものと考 えられる。
⑵ 法律家による確認及び民事執行法の特則
ア 上記⑴アの確認については、弁護士等の法律家(注)が、当該定めに ついて、①父母の真意に基づき定めがされたこと、②定めの内容が子の利益に反するものでないこと(できる限り子の意見又は心情を把握するように努めた上で、子の意見又は心情に配慮されていることを含む。) を確認するものとする。
イ 上記アの確認を経て届け出られた取決めに基づく養育費について、 その執行手続の在り方については、更に検討を行う。
(注)当該定めに執行力を付与するための内容的・手続的正当性を担保するために法律家 を関わらせようとするものである。債務名義となる文書は、国家の強制権力を発動し て債務者の権利に侵害を加えることが一般に是認される程度に、高度な蓋然性をも って給付請求権(執行債権)の存在と内容を表象する文書でなければならないとされ る。そして、現行法上の債務名義のほとんどが、公的機関による判断又は関与がされ た公文書であることとの関係で、この事務を行う弁護士については、別途特定の地位 を与えることなど、執行制度との整合性について更に慎重な検討を要する。
(補足説明) 1 「⑴ 子の監護について必要な事項の取決めを確保する方策」について 本規律は、未成年の子の父母が協議上の離婚をする場合には、「ア」から「ウ」 までのいずれかでなくてはならないとすることにより、少なくとも養育費について不払いがあった場合には、直ちに強制執行をすることができる状況となっていることを確保しようとするものである。 「ア」又は「イ」は、父母間で、養育費について債務名義となる取決めをしている場合を挙げるものである(「ア」が債務名義となることについては、後記2参照)。この場合には、取決めた額について不払いがあるときは、強制執行をすることができることとなる。 これに対し、「ウ」は当事者が、離婚届において「届出時点では子の監護について必要な事項の協議をすることができない事情があること」と申述している場合を掲げている。具体的な申述方法としては、例えば、離婚届に「子の監護について必要な事項の協議をすることができない事情がある。」といったチェック欄を設けることなどが考えられる(注)。この場合には、後記「3」の法定額養育費が発生することとなるので、別居親が当該額を支払わない場合には、同額について直ちに強制執行をすることができることとなる。 なお、「子の監護について必要な事項」のうち、協議離婚の場合に債務名義とされているべき範囲を養育費に限っているのは、現行法でも、公正証書が債務名義となるのが「金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求」のみであることを考慮したものである(民事執行法第22条第5号)。すなわち、仮に、面会交流等についても債務名義の対象にするとすれば、これらに関しても公正証書を債務名義とし得るといった抜本的な制度改正をしない限り、家庭裁判所を関与させることが不可避となり、協議離婚制度を事実上廃止することに近くなるからであ る。
(注)法定額養育費制度を導入する場合には、別居親の手続保障との関係で、法定額養育 費制度について理解していることの確認も求めることが考えられる。
2 「⑵ 法律家による確認及び民事執行法の特則」について
本規律は、上記1の目的を達成するため、未成年の子の父母が離婚をする場 合に、弁護士等の法律家の確認を受けた「子の監護について必要な事項」の届 出をした場合には、養育費について、どのような形で執行等の手続をすること ができることとするかという点について、更に検討しようとするものである。 法律家を関与させることで、当該届等について債務名義としての内容面及 び手続面での正当性を担保することを意図している。もっとも、「(注)」でも 指摘しているとおり、現在の民事執行制度においては、債務名義となる文書 は、国家の強制権力を発動して債務者の権利に侵害を加えることが一般に是 認される程度に、高度な蓋然性をもって給付請求権(執行債権)の存在と内容 を表象する文書でなければならないとされ、債務名義のほとんどは公的機関の判断又は関与がされた公文書であることから、単に弁護士の確認を経た合意を債務名義として強制執行をするといった制度とすることができるかという点については、更に慎重な検討を要する(注)。
(注)法制審議会は、仲裁法制の見直しに関する諮問第112号に対し、令和4年2月14 日、法務大臣が認証をしたADR機関が行う手続において成立した養育費に関する和 20 解であって、民事執行の合意があるものについて、裁判所による執行決定を経た場合に は、当該和解に基づく強制執行をすることができるものとすることを含む答申を行っ た。
3 法定額養育費に関する規律
⑴ 法定額養育費制度の新設
 未成年の子の父母が、離婚届において、「届出時点では子の監護につい て必要な事項の協議をすることができない事情があること」を申述した 場合(上記2⑴ウ)には、子の親権者(監護者が指定された場合においては監護者)は、他方の親に対して、協議、審判等において未成年子扶養義務の分担が定まるまでの間、子一人当たりについて法定された特定額(金額については、以下の二案によるものとする。)の養育費請求権(以下「法定額養育費請求権」という。)を取得するものとする(注)。 【案①】離婚後の協議等によって取り決められるまでの最低限度を保障するという観点から定める金額とする。 【案②】標準的な父母の生活実態を参考にした金額とする。 (注)離婚の届出に際し、個々の事例に応じた算定を行うことは容易ではないことを考慮 して、速やかに離婚を成立させることができるという協議離婚制度の利点を維持する観点から、法定額養育費請求権は、全ての件について一定額とすることを想定している。
⑵ 民事執行法の特則 法定額養育費請求権に関する強制執行の方法については、更に検討を行う(注)。
(注)当該請求権の発生根拠事実を公証する書面等をもって債務名義とすることができな いかを検討しようとするものであるが、債務名義としては異質なものであり、債務名義として認められる根拠を有するといえるか等、執行制度との整合性について慎重 な検討を要する。 この点については、一巡目の検討では、養育費について一般先取特権を付けることの可能性について指摘があったところ、法定養育費請求権について一般先取特権を付けることも考えられる。もっとも、養育費について別途債務名義のある取決めをした場合にはこのような担保権がなくなるとすると、制度として不均衡であるという点や、そもそも一般債権者よりも子を優先することの相当性等について、更に慎重な 検討を要する。 
⑶ 後に定められた養育費額と法定額との差額の取扱い
 家庭裁判所は、離婚から一定期間内(注)の審判の申立て(調停から審 判に移行した場合においては、調停の申立て)によって養育費の額を定めた場合において、法定額が、子の扶養について別居親が負担すべき額に不足していたときは、別居親に対し不足していた額の支払を命ずることができるものとする。 (注)子の離婚後の生活状況を早期に安定させる観点から、例えば、離婚後1年以内とすることなどが考えられる。
(補足説明) 1 「⑴ 法定額養育費制度の新設」について 本規律は、「2⑴」の規律の目的を達成するため、未成年の子の父母が、「届出時点では子の監護について必要な事項の協議をすることができない事情が あること」を述べて協議離婚をした場合には、法定された額の具体的な養育費請求権を発生させるものである。 離婚に至る経緯が様々であることからすれば、離婚に際して常にその取決めを求めることは難しいことから、父母間で協議をすることができない事情がある場合には、後に調停や審判等で適正な金額が定められるまでの間も、養育費がゼロとなることがないように、少額でも具体的な請求権を発生させようとするものである。もっとも、本規律の主眼は、請求権の具体化そのものよりも、後記2のとおり、当該額について直ちに強制執行をすることができるようにする点にある。 迅速に離婚をすることができるという協議離婚制度の利点を維持する観点 から、法定額養育費請求権については、個別の事情を考慮せずに、法律で一定額を定めることとしている。「【案①】」は暫定的な最低限度の金額を定めるという観点から額を定めるものであるのに対し、「【案②】」は標準的な父母の生活実態を基準として算定するものである。一見すると、子の利益の観点からは 「【案②】」の方が望ましいようにも思われるが、仮にこのような金額とした場合には、家庭裁判所等で養育費を定めた場合よりも法定額の方が高くなる事例を中心に、義務者が離婚そのものに応じなくなることで、離婚の成立が遅くなるといった事態が多く生じるおそれがあるほか、養育費についての合意をするインセンティブが下がり、より一層、養育費について合意がされず、その他、離婚後の子の養育についても協議がされなくなるという可能性があり得、 かえって子の利益に反することも考えられる。
2 「⑵ 民事執行法の特則」について 法定額養育費については、「届出時点では子の監護について必要な事項の協 議をすることができない事情があること」の申出がされた離婚届によって、法定額養育費の発生していることを証明することも考えられる。 もっとも、「(注)」では、このような文書は、債務名義とされている他の文書と比べて異質であり、現行の執行制度との整合性について更に検討が必要 であることを指摘するとともに、一巡目の検討で指摘のあった、養育費について一般先取特権を付けることの可能性について紹介している。

3 「⑶ 後に定められた養育費額と法定額との差額の取扱い」について
 法定額養育費請求権の額について、「(1)」で「【案1】」を採用した場合はもちろん、「【案2】」を採用した場合であっても、別居親が本来負担すべき金額に足りていないということが生じ得る。本規律は、そのような場合には、家庭 裁判所は、審判で養育費を定めるときに、併せて過去の不足分の支払も命ずることができることとするものである。父母が「届出時点では子の監護について必要な事項の協議をすることができない事情があること」を申述して離婚をした場合であっても、子が不利益にならないようにするものである。 他方で、同様に「(1)」で上記二案のいずれを採用したとしても、法定額が本来負担すべき金額よりも大きく、いわば過払いが生じる場合もあり得る。もっとも、この場合に返還を認めることは、子の利益を害することになり、また、 別居親も法定額養育費請求権の発生を望まない場合には、別途養育費について協議をするまで離婚をしないこともできることから、「不足していたとき」を明記することで、この場合については、差額の清算を求めることはできない こととしている。 なお、法定額養育費は、後に協議、調停等によって適切な養育費額は定められることを想定している。そこで、早期に調停又は審判等によって適切な金額 を定める観点や、法的安定性の観点から、「(注)」において、上記差額の清算 については、1年等の相当な期間内に養育費に関する調停又は審判の申立てがされた場合とすることなどが考えられる。
                                以 上

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