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いよいよ反対意見<夫婦別姓訴訟>

2015年の夫婦別姓訴訟判決を研究している。補足意見、2種類の違憲意見も見てきた。最後に、違憲意見の中でも、「上告棄却」の判決異なる結論へと導く反対意見を読む。

裁判官山浦善樹の反対意見だ。


私は,多数意見と異なり,本件規定は憲法24条に違反し,本件規定を改廃する立法措置をとらなかった立法不作為は国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるべきものであるから,原判決を破棄して損害額の算定のため本件を差し戻すのが相当と考える。以下においてその理由を述べる。

立法不作為の違法と考え、原判決破棄差戻(損害額の算定を審理させる)をすべきという。どういう理屈か。

本件規定の憲法24条適合性

本件規定の憲法24条適合性については,本件規定が同条に違反するものであるとする岡部裁判官の意見に同調する。

ここは、岡部裁判官(他2名)と同調するという。この違憲意見は、4名(15名中)が同調していたということ。

岡部裁判官らの意見はこちらから。

岡部裁判官らは、違憲だが、立法不作為上の違法ではないといっていた。山浦裁判官は、違法だという。

本件規定を改廃する立法措置をとらない立法不作為の違法について

・ 社会構造の変化
岡部裁判官の意見にもあるように,戦後,女性の社会進出は顕著となり,婚姻前に稼働する女性が増加したばかりではなく,婚姻後に稼働する女性も増加した。晩婚化も進み,氏を改めることにより生ずる,婚姻前の氏を使用する中で形成されてきた他人から識別し特定される機能が阻害される不利益や,個人の信用,評価,名誉感情等にも影響が及ぶといった不利益は,極めて大きなものとなってきた。このことは,平成6年に法制審議会民法部会身分法小委員会の審議に基づくものとして法務省民事局参事官室により公表された「婚姻制度等に関する民法改正要綱試案」においても,「…この規定の下での婚姻の実態をみると,圧倒的大多数が夫の氏を称する婚姻をしており,法の建前はともかく,女性が結婚により氏を変更するのが社会的事実となっている。ここに,女性の社会進出が顕著になってきた昭和50年代以後,主として社会で活動を営んでいる女性の側から,女性にとっての婚姻による改氏が,その職業活動・社会活動に著しい不利益・不都合をもたらしているとして,(選択的)夫婦別氏制の導入を求める声が芽生えるに至った根拠がある。」として記載がされていたのであり,前記の我が国における社会構造の変化により大きなものとなった不利益は,我が国政府内においても認識されていたのである。

 女性の社会進出に伴い、事実上多く改姓しているのは女性で、不利益が生じているよね。

 ・国内における立法の動き
このような社会構造の変化を受けて,我が国においても,これに対応するために本件規定の改正に向けた様々な検討がされた。その結果,上記の「婚姻制度等に関する民法改正要綱試案」及びこれを更に検討した上で平成8年に法制審議会が法務大臣に答申した「民法の一部を改正する法律案要綱」においては,いわゆる選択的夫婦別氏制という本件規定の改正案が示された。
上記改正案は,本件規定が違憲であることを前提としたものではない。しかし,上記のとおり,本件規定が主として女性に不利益・不都合をもたらしていることの指摘の他,「我が国において,近時ますます個人の尊厳に対する自覚が高まりをみせている状況を考慮すれば,個人の氏に対する人格的利益を法制度上保護すべき時期が到来しているといって差し支えなかろう。」,「夫婦が別氏を称することが,夫婦・親子関係の本質なり理念に反するものではないことは,既に世界の多くの国において夫婦別氏制が実現していることの一事をとっても明らかである。」との説明が付されており,その背景には,婚姻の際に夫婦の一方が氏を改めることになる本件規定には人格的利益や夫婦間の実質的な平等の点において問題があることが明確に意識されていたことがあるといえるのである。
 なお,上記改正案自体は最終的に国会に提出されるには至らなかったものの,その後,同様の民法改正案が国会に累次にわたって提出されてきており,また,国会においても,選択的夫婦別氏制の採用についての質疑が繰り返されてきたものである。
 そして,上記の社会構造の変化は,平成8年以降,更に進んだとみられるにもかかわらず,現在においても,本件規定の改廃の措置はとられていない。

改正すべき機運は高まっている状況にある。

・ 海外の動き
夫婦の氏についての法制度について,海外の動きに目を転じてみても,以下の点を指摘することができる。
 前提とする婚姻及び家族に関する法制度が異なるものではあるが,世界の多くの国において,夫婦同氏の他に夫婦別氏が認められている。かつて我が国と同様に夫婦同氏制を採っていたとされるドイツ,タイ,スイス等の多くの国々でも近時別氏制を導入しており,現時点において,例外を許さない夫婦同氏制を採っているのは,我が国以外にほとんど見当たらない
 我が国が昭和60年に批准した「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」に基づき設置された女子差別撤廃委員会からは,平成15年以降,繰り返し,我が国の民法に夫婦の氏の選択に関する差別的な法規定が含まれていることについて懸念が表明され,その廃止が要請されるにまで至っている。

例外を許さない・・・制を採っているのは、我が国以外にほとんど見当たらない。・・・何かに似ている。

条約の批准、それに基づく、差別に対する懸念の表明、廃止の要請。

・ まとめ
以上を総合すれば,少なくとも,法制審議会が法務大臣に「民法の一部を改正する法律案要綱」を答申した平成8年以降相当期間を経過した時点においては,本件規定が憲法の規定に違反することが国会にとっても明白になっていたといえる。また,平成8年には既に改正案が示されていたにもかかわらず,現在に至るまで,選択的夫婦別氏制等を採用するなどの改廃の措置はとられていない。

放置しすぎていたよね、と。これは、もう、まさに違法な立法不作為だよ、ということで、次のように結論を導く。

 したがって,本件立法不作為は,現時点においては,憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反することが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたって改廃等の立法措置を怠っていたものとして,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものである。そして,本件立法不作為については,過失の存在も否定することはできない。このような本件立法不作為の結果,上告人らは,精神的苦痛を被ったものというべきであるから,本件においては,上記の違法な本件立法不作為を理由とする国家賠償請求を認容すべきであると考える。

翻って、検討するに、共同親権制に関する立法不作為についても、大いに勇気づけられる意見である。

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