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再婚禁止期間違憲判決全部違憲意見

 裁判官鬼丸かおるの意見

私は,上告人の国家賠償請求については,これを棄却すべきものとした原判決は結論において是認できるとするものであるが,多数意見と異なり,本件規定が女性について6箇月の再婚禁止期間を定めていることは,性別による不合理な差別であって憲法14条1項に違反し,また立法の指針である両性の本質的平等に立脚していないことから憲法24条2項にも違反するものであって,その全部が無効であると考えるものである。

 私は,本件規定の立法目的について,父性の推定の重複を回避し,もって父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあると解されるとする多数意見の判示は正当であると考える。また,民法733条2項は,前婚の解消等の前から懐胎していた子を出産した場合以外であっても,女性に子が生まれないことが生物学上確実な場合前婚の解消等の時点で女性が懐胎していない場合など,およそ父性の推定の重複を回避する必要がない場合には本件規定の適用の除外を認めることを許容しているものと解するのが相当であるとする共同補足意見にも賛同するものである。
 もっとも,これらの多数意見及び共同補足意見を前提にするならば,共同補足意見がその意見の中で指摘するように,民法733条2項が本件規定の適用を除外する事由として挙げる上記の場合や従来の戸籍実務において再婚禁止期間内の婚姻届を受理してよい旨の取扱いがされている場合のほかにも,当審の判例により父性の推定が及ばないと解されている場合を含め,およそ父性の推定の重複を回避する必要がない場合は本件規定の適用除外として認められるのであるから,その適用除外の範囲は,多様かつ広汎なものとなる。その結果,これらの適用除外には該当しないとされる場合,すなわち再婚の禁止によって父性の推定の重複を回避する必要があるとされる場合とは,結局,前婚の解消等の時から100日が経過していない女性が前婚中に懐胎したけれども(前婚中に懐胎したか否かが客観的に明らかにされない場合を含む。)まだ出産していない場合というごく例外的な場合に限定されることとなる。
 本件規定は,婚姻の要件を定める極めて重要な規定であり,いずれの国民にも一義的に明確であることが望ましい。しかしながら,父性の推定の重複回避のために再婚禁止期間を設ける必要のある場合はごく例外的であるのに,本件規定は,文理上は,前婚の解消等をした全ての女性(ただし,民法733条2項に規定する出産の場合を除く。)に対して一律に再婚禁止期間を設けているように読めるものである。このような,実際には上記のように適用除外が認められる場合が多く存在するという本件規定の解釈等をめぐる状況を,一般国民が的確に知ることは困難であり,再婚を考える者に混乱を生じさせ,ひいては婚姻をするについての自由を不必要に制約するおそれもないとはいえないであろう。また,共同補足意見に述べられた民法733条1項の適用除外事由についての法律解釈は正当であると考えるが,婚姻届の提出の場面では戸籍事務管掌者が形式的審査権限しか有していないため,適用除外事由の証明が不十分等の理由で婚姻届が受理されない場合も起こり得ることから,個別の婚姻届受理事務に差異が生じ得る不安定さが残ることは否めない。形式的審査により不受理となった場合についてみれば,法律解釈上は可能であるはずの再婚が,形式的審査権に阻まれるという事態を生ずることとなり,不相当な結果を招くことになる。
 以上のとおり,父性の推定の重複回避のために再婚禁止期間を設ける必要のある場合は極めて例外的であるのに,文理上は前婚の解消等をした全ての女性(ただし,民法733条2項に規定する出産の場合を除く。)に対して一律に再婚禁止期間を設けているように読める本件規定を前婚の解消等の後100日以内といえども残しておくことについては,婚姻をするについての自由の重要性や後記のように父を定めることを目的とする訴え(同法773条)の規定が類推適用できることに鑑みると,国会の立法裁量を考慮しても疑問である。多数意見のように再婚禁止期間の一部の期間を違憲無効とすることによっては,結果的には父性の推定の重複回避の必要のない多数の女性に対し再婚を制約することになりかねない状況を除去できるものではないと考える。また,共同補足意見のような法律解釈や戸籍実務等による個別救済に依拠することは,個別事案によって取扱いに差異が生ずる等の問題を生ずるおそれもあり,また限界もあるであろう。よって,男性の取扱いとの間に差別を設けた本件規定には合理的な根拠はないというべきである。
 したがって,本件規定はその全部が国会の立法裁量を逸脱するものとして,憲法14条1項及び24条2項の規定に違反し無効であると解するものである。

 上記1のように本件規定の全部を無効と解すると,ごく例外的ではあるが,父性の推定が重複する場合を生ずることがある。この場合には,民法773条(父を定めることを目的とする訴え)を類推適用することにより,子の父を定めることとなろう。そうすると,子の法律上の父は,子の出生後判決等が確定するまでの間は未定であることになる。
 ところで,父性の推定により法律上の父が確定することの法的効果は,飽くまで法律の上での身分関係や扶養義務等が定まるということにすぎないのであって,実際にその子が法律上の父から扶養を受けられる等の利益や福祉が実現することとは別の問題であるともいえる。父性の推定により法律上の父が確定したとしても,推定される父である前夫と後夫との間で紛争が生ずることは少なくなく,出産した女性が前夫の父性推定を回避するため子の出生届を提出しないといった対応をすることにより子が無戸籍者となることもあり得ることを勘案すれば,上記のように父性の推定が重複することにより,これを解消する手続をとる間一時的に(科学技術,特にDNA検査技術の進歩によりその期間は短縮されている。)子の法律上の父が存在しない状態が生ずるとしても,これが,父性の推定により父が定まることと比較して,子の利益や福祉を大きく損なうとまでいうことは困難であろう。
 多数意見は,法律上の父を確定できない状態が一定期間継続することにより,子には種々の影響が生じ得ると指摘するが,法律上の父が確定していない子も,社会生活は支障なく送れ,また,行政サービスも受けられるのであって,法的効果以外の場面においても,法律上の父が確定していないことによって子の利益や福祉が損なわれるような社会的状況はないと思料される。

 仮に共同補足意見のような法律解釈をとらず,民法733条2項を文理どおりに解釈して,本件規定の適用除外となるべき例外的な場合を認めないとすれば,本件規定は,父性の推定の重複を回避する必要の全くない極めて多数の女性に対し,再婚禁止期間を設けていると解さざるを得ないことなる。そうであれば,本件規定は,違憲性の度合いが一層強くなるものといえよう。
 また,本件規定のうち父性の推定の重複回避のために必要でない部分は違憲であるとして,本件規定の意味的な一部を違憲とするという考えもあり得るところではあるが,「父性の推定の重複回避のために必要でない部分」の解釈をめぐる考え方に統一がとりにくい可能性も存するところであり,戸籍事務管掌者の形式的審査権による婚姻届受理の可否の問題が前記のとおり存在することにも鑑みると,このような一部違憲の考え方は実際的ではないであろう。
 以上のとおりであるから,本件規定は全部違憲であると考えるものである。

法のありかたとして、「いずれの国民にも一義的に明確であることが望ましい」という指摘は、一般的にも通じると思う。「個別救済に依拠することは,個別事案によって取扱いに差異が生ずる等の問題を生ずる」とする点も、刺さる。嫡出子相続分差別規定判決においても、遺言や、遺産分割協議で平等に対応しえたとしても、法の存在自体が、差別を助長し、個別救済に任せるわけにはいかないというわけだ。

これに重なるテーマが、即座に思いつく。親権制度だ。

民法を読み込み、親権の有無にかかわらず、親子は親子であることを文字通り理解し、また、個人の尊厳を定める憲法についてもよく理解していることが、「国民全般」に浸透しているのであれば、単独親権制を子の福祉に沿うよう最大限活用することで、世界に誇れる理想的な親権制度を実現しえたであろう。脳内のシミュレーションであれば、叶う。

しかし、実際はどうだろうか。

みんなが法学を学ぶわけではない。理系の人もいる。大学に進学するばかりではない。一般教養としても、そういえば、司法試験の科目としても、民法の親子法制を読み込んでいるというのは、法曹界でも全員とは言い切れない。家事事件に携わらないという弁護士もいる(否定しない。人にはそれぞれ得意分野があるし、好みもある)。

単独親権制、親権者をひとりに決める、氏が異なる(親権の有無とは連動しないが)、同一戸籍ではなくなる、多くの親子らしい暮らしとの「違い」に直面してしまうのは、別居や会う機会が制限されるだけにとどまらないだろう。

法の定めが差別をつくる。非親権者差別は、非婚差別の成れの果て。

悲しむのは、父母を非対等な関係制に追いやられた、両者の間の子どもだ。

子どもの権利条約を批准した世界は、子どものために「共同親権制」に変わった。子どもの喜びは、大人の幸せだ。大人の幸せは、将来、大人になる子どもの幸せになる。

親子の権利のために、「共同親権宣言」が今必要である。

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