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違憲判決の意見<嫡出子相続分差別>

嫡出子と非嫡出子の相続分を差別していた規定の違憲判決についてはすでに検討した。夫婦別姓訴訟判決のほか、各意見を検討することで学びが深まったので、嫡出子差別規定の違憲判決での意見も読みたくなった。

3人の裁判官が補足意見を出している。

まずは、一人目から。

■ 裁判官金築誠志の補足意見

 裁判官金築誠志の補足意見は,次のとおりである。
 法廷意見のうち本決定の先例としての事実上の拘束性に関する判示は,これまでの当審の判例にはなかったもので,将来にわたり一般的意義を有し,種々議論があり得ると思われるので,私の理解するところを述べておくこととしたい。

違憲であるとしても、数ある係争への影響への配慮も示したという特徴を踏まえて、そこを補足するようである。前提はこちらが参照になる。

現実的な解決を示していた。さもなければ、解決したはずの紛争を再燃させかねないからだ。それを踏まえて、さて。。。

 本決定のような考え方が,いかにして可能であるのか。この問題を検討するに当たっては,我が国の違憲審査制度において確立した原則である,いわゆる付随的違憲審査制と違憲判断に関する個別的効力説を前提とすべきであろう。

違憲判決が乏しい原因に踏み込んでいく。

 付随的違憲審査制は,当該具体的事案の解決に必要な限りにおいて法令の憲法適合性判断を行うものであるところ,本件の相続で問題とされているのは,同相続の開始時に実体的な効力を生じさせている法定相続分の規定であるから,その審査は,同相続が開始した時を基準として行うべきである。本決定も,本件の相続が開始した当時を基準として,本件規定の憲法適合性を判断している。

付随的違憲審査制についての確認

 また,個別的効力説では,違憲判断は当該事件限りのものであって,最高裁判所の違憲判断といえども,違憲とされた規定を一般的に無効とする効力がないから,立法により当該規定が削除ないし改正されない限り,他の事件を担当する裁判所は,当該規定の存在を前提として,改めて憲法判断をしなければならない。個別的効力説における違憲判断は,他の事件に対しては,先例としての事実上の拘束性しか有しないのである。とはいえ,遅くとも本件の相続開始当時には本件規定は憲法14条1項に違反するに至っていた旨の判断が最高裁判所においてされた以上,法の平等な適用という観点からは,それ以降の相続開始に係る他の事件を担当する裁判所は,同判断に従って本件規定を違憲と判断するのが相当であることになる。その意味において,本決定の違憲判断の効果は,遡及するのが原則である。

個別的効力説によっても、法の平等な適用という観点から、結局、違憲判断の効果は遡及することを導く。

しかし,先例としての事実上の拘束性は,同種の事件に同一の解決を与えることにより,法の公平・平等な適用という要求に応えるものであるから,憲法14条1項の平等原則が合理的な理由による例外を認めるのと同様に,合理的な理由に基づく例外が許されてよい。また,先例としての事実上の拘束性は,同種の事件に同一の解決を与えることによって,法的安定性の実現を図るものでもあるところ,拘束性を認めることが,かえって法的安定性を害するときは,その役割を後退させるべきであろう。本決定の違憲判断により,既に行われた遺産分割等の効力が影響を受けるものとすることが,著しく法的安定性を害することについては,法廷意見の説示するとおりであるが,特に,従来の最高裁判例が合憲としてきた法令について違憲判断を行うという本件のような場合にあっては,従来の判例に依拠して行われてきた行為の効力を否定することは,法的安定性を害する程度が更に大きい

かつての合憲判断もあったわけで、法的安定性への配慮が侮れない。遡及効を制限する要請がありうる。

 遡及効を制限できるか否かは,裁判所による法の解釈が,正しい法の発見にとどまるのか,法の創造的機能を持つのかという問題に関連するところが大きいとの見解がある。確かに,当該事件を離れて,特定の法解釈の適用範囲を決定する行為は,立法に類するところがあるといわなければならない。裁判所による法解釈は正しい法の発見にとどまると考えれば,遡及効の制限についても否定的な見解に傾くことになろう。そもそも,他の事件に対する法適用の在り方について判示することの当否を問題にする向きもあるかもしれない。

正しい法の発見にとどまるのであれば、遡及効の制限は否定しうる。立法と司法の役割分担にも思い馳せる。

 しかし,本決定のこの点に関する判示は,予測される混乱を回避する方途を示すことなく本件規定を違憲と判断することは相当でないという見地からなされたものと解されるのであって,違憲判断と密接に関連しているものであるから,単なる傍論と評価すべきではない。また,裁判所による法解釈は正しい法の発見にとどまるという考え方については,法解釈の実態としては,事柄により程度・態様に違いはあっても,通常,何ほどかの法創造的な側面を伴うことは避け難いと考えられるのであって,裁判所による法解釈の在り方を上記のように限定することは,相当とは思われない。コモン・ローの伝統を受け継ぐ米国においても,判例の不遡及的変更を認めている。

司法の判断も法創造的な側面は避けがたく、不遡及的変更が許容されうる。

 また,判例の不遡及的変更は,憲法判断の場合に限られる問題ではないが,法令の規定に関する憲法判断の変更において,法的安定性の確保の要請が,より深刻かつ広範な問題として現出することは,既に述べたとおりである。法令の違憲審査については,その影響の大きさに鑑み,法令を合憲的に限定解釈するなど,謙抑的な手法がとられることがあるが,遡及効の制限をするのは,違憲判断の及ぶ範囲を限定しようというものであるから,違憲審査権の謙抑的な行使と見ることも可能であろう。

違憲審査権の謙抑性。これもよしあしではあろうが。。。

 いずれにしても,違憲判断は個別的効力しか有しないのであるから,その判断の遡及効に関する判示を含めて,先例としての事実上の拘束性を持つ判断として,他の裁判所等により尊重され,従われることによって効果を持つものである。その意味でも,立法とは異なるのであるが,実際上も,今後どのような形で関連する紛争が生ずるかは予測しきれないところがあり,本決定は,違憲判断の効果の及ばない場合について,網羅的に判示しているわけでもない。各裁判所は,本決定の判示を指針としつつも,違憲判断の要否等も含めて,事案の妥当な解決のために適切な判断を行っていく必要があるものと考える。

違憲判決は、立法とは異なるが、事実上の拘束性が規範として機能しうることへの細やかな配慮が伝わってくる。違憲を宣言しただけでは仕事が終わらないようだ。

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