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憑依、シンクロ(KOGADOの冒険ワークショップ vol.49)

北川:
『One-inch Tactics』、発売になりましたね。今の率直な気分は?

トラ崎:
 実は割とフラットですね。発売ってあまりイベントになってない感じで。ロムを提出して受け取られた時点で、チェックポイントを経過してるイメージです。

ゲスト:トラ崎さん
社歴10年目のベテラン。話題の『One-inch Tactics』ではディレクターとしても活躍。プラモが好き。
BWSには22回に登場しています。

北川:
 フラット。穏やかな、凪のような感じということですかね。

トラ崎:
 そうですね、発売ってタイミングは、既にこっちの手を離れて少し経ってますからね。
 
北川:
 でもほら、そうはいっても発見されなかった不具合が見つかるんじゃないかというドキドキ感はありません?私も長年この仕事やってるので「何もなきゃいいな」というのは毎回ドキドキしますけど。実際に最後は何とかしないといけないという立場は、やっぱりプレッシャーありませんか?

トラ崎:
 そうですね。作り終わって、チェック終わって、提出前までがキツい期間になります。「何もなきゃいいな」は、最初から最後までずーっと継続だから、むしろ認識してない可能性ありそうです。

北川:
 なるほど。

トラ崎:
 PC/Steamの場合、ユーザーごとの環境が違うんで、どのみち何か起こっちゃうとも思いますけどね。

北川:
 たしかにね。じゃあ、プラットホームさんの承認が得られたら、とりあえず一安心な感じなんですね。

トラ崎:
 自分としては「商品になった」というタイミングがそこなので。

北川:
 発売日は、売る側のスケジュールの都合ですもんね。

トラ崎:
 あくまでも、立場としては開発なので、って所ですね。

北川:
 なるほど。

北川:
 で、次に気になるのは、まあポジションにもよりますが、実際に手にとったお客さんの評判ってことになりますかね。

トラ崎:
 そうですね。買った人の納得が得られればいいなと思います。

北川:
 納得、ですか? それは、期待値に対する実態みたいな?

トラ崎:
 まずは遊んでもらう。そして100点は目指さないようにする(個人の意見です)

北川:
 え? 目指さないの?

トラ崎:
 100点が出来上がった所で、それは私にとってのみ100点だってだけなので、遊んだ人の評価には繋がらないという考え方ですね。だから何点、と自分で点数をつけるというよりは、遊んで、納得してもらうことが重要で「ああ、楽しかった。買って良かったな」と思ってもらえれば。

北川:
 なるほど。ユーザー目線で考えるとそうなるのか。


北川:
 今回は、全体のコンセプトから演出までの判断の裁量をトラ崎さんが持つ作品となりました。そのあたりはどうでしたか?

トラ崎:
 楽(らく)半分、面倒半分。楽になった部分は面倒になった部分で相殺されましたね。

北川:
 楽というのは?

トラ崎:
 決定までのプロセスが省略できるのも含め、制作の最短距離を選べるって事ですね。デメリットとしては相談が減るって辺りでしょうか。

北川:
 自分の判断で進められるから、間違うかもしれないってことですかね。

トラ崎:
 判断が入るならいいんですよ。判断してるから。そこに判断すべき要素があるかわからないケースが危ういんです。

北川:
 ああ、なるほど。レビューとか、つっこみとかが入りにくいってことですね。

トラ崎:
 そうです。社内のテストプレイや社外のデバッグでのフィードバックの重要性が上がりますね。

北川:
 開発中、社内でも積極的にいろんな人にプレイしてもらってましたもんね。

トラ崎:
 私から見ると現在のデザインが正しいかどうかわからないんですよ。特に今回のようなジャンルの場合、自分でルール策定して自分で地形作って自分で敵配置して自分でイベント仕込んで自分でチェックしてるんで、遊んだ時の感覚が何もわからない。ただ、自分でやってるから作業量と作業時間は最短想定でできる、と。

北川:
 最短で作ることはできる、それは理論上は遊びとしてできてるはず、けど客観評価を入れるまではわからない、と?

トラ崎:
 そこの客観評価を拾うか拾わざるかの判断が自分にあるのもメリットでありデメリットであり、以下ループですね。

北川:
 これ、ベテランじゃないとやれない所業ですねw
 遊びとして成立してるかを想定するのって、経験がないとできなそう。

トラ崎:
 この辺りはやれるやれないにキャリアは関係ない気がしますが、まぁいいかな。


北川:
 折角なので、ここだけのぶっちゃけ話をひとつくださいw 読者サービスとして。

トラ崎:
 どういう方向がいいかな、多分ロジック的な話は違いますね。

北川:
 そうですねえ。企画の立ち上げとか、成り立ちとか、あるいは開発中に意識したこととか? ただ、きちんと話してもらうとすごく長くなっちゃうと思うので、適当に端折ってくださいw

トラ崎:
 企画の話をすると避けられないPOWER DoLLSなんですが……

・着手に至るまでに
 ・PDを取り上げた配信と、作品解説があった
 ・資料はほぼ全滅、攻略本も一部しかない、最終的には説明書が資料になった
 ・最大手の攻略サイトは数年前に消えてた
 ・なんとかシステムと遊び方の把握はできた

・なんでボードゲーム風?
 ・昔々、会社としてボードゲームデザインの仕事をしていた
 ・昔々、ボードゲームのデジタル化というコンセプトで作られた商品もあった
 ・という話からの着想
  ・ゲーム性との相性も良い、視認性の確保もできそう

この辺りかな……。

北川:
 配信ってのはYoutubeとかの?

トラ崎:
 そうですね。Youtubeとか、Twitch、ニコ動とか。

北川:
 これが現実なんですよね。文化とか知見の継承ってホント難しいですよね。みんなできてるのかな。さもみんなできなくて当然って前提でモノを言ってますけどw

トラ崎:
 まぁ、リファレンスにしたいのは25年前の物ですし、ゲームってジャンルの陳腐化速度も考えれば、欠片が残ってる時点で幸運だったと思います。

北川:
 だって仕様書とか作らないでしょ?何世代も後の人たちが理解できるような。作るものなの?
 PDだけじゃなくて、ほんとロストされてるものがたくさんあるんですよね。ほんともったいない、というレベルではなく損失ですよね。

トラ崎:
 ないと困るのはその通り。でも仕様書が実装と乖離してる可能性が高いんですよね、どうしても。

北川:
 作りながら変えちゃうからw

トラ崎:
 実装時の変更を書類に戻すか、って言われるとその限りじゃないでしょう。

北川:
 やらないよねぇ、なかなか。

トラ崎:
 さりとて、仕様書と現物があれば良いかって言われるとその限りじゃなくて、「そこをどう作ったか」がわかっても「そこをなぜそうしたか」がわからないですよね。

北川:
 そこまでは当然書いてないですね。推しはかるしかない。

トラ崎:
 作業者当人と一緒に働いた人しかわからないでしょうね。そういう意味で、私が正解にたどり着く事は無いですね。

北川:
 その時の正解も、今の正解ではないのかもしれないし。

トラ崎:
 なので、私が作る限り直系を名乗る日は来ないです。

北川:
 なるほど。しかし「直系とは」って話に、今度はなりそうですけどねw

トラ崎:
 そこは個人個人の主観でひとつ。


北川:
 最後に、これからプレイしてくれる方、プレーしてくださった方にメッセージを。

トラ崎:
 この記事を読みに来る人は、きっと興味がある人でしょうからぜひ一度、デモ版からでも遊んでみてください。
 また、すでに遊んで頂いた方、このゲームが皆さんの納得を得られていれば幸いです。

北川:
 ありがとうございました。
 


 開発が体験版を早く準備するってことは、作品に自信があるってことなんですよ(当社比)
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 今週はこの辺で。
 また次回。

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