「おかえりモネ」と「護られなかった者たちへ」 表裏の物語
この映画は予告を見た時から映画館で観ようと思っていた。
そして10月に上映が開始されると知った。
しかし私は観に行くことが出来なかった。
なぜならそこにドッペルゲンガーがいると分かっていたから。
映画「護られなかった者たちへ」
予告を見る限りこの作品はヘビーだと思っていた。
出演者は佐藤健、阿部寛、そして清原果耶……
私の心はこの半年ずっと別の世界にいる。
特にこの2カ月は完全に心を奪われている。
「おかえりモネ」の世界に。
主演は清原果耶
清原果耶が演じる永浦百音の世界にいる自分が他の作品に出演している清原果耶を観られる自信が無かった。とても心が耐えられそうになかった。
10月29日、おかえりモネは最終回を迎えた。
優しく美しい終わり方だった。まだ当分ロスから抜けられそうにないが、それでも一応決着した。
10月31日、「護られなかった者たちへ」早朝1回だけだがまだ上映していた。
多分これを逃せば映画館で観ることが出来ないだろう。
覚悟を決め予約して映画館に足を運んだ。
衝撃的だったが、観て良かったと思っている。
公式HPやチラシを見ると佐藤健と阿部寛の2枚看板の作品のようだ。
清原果耶は3番手以下。そこそこ重要な役だろうとは思っていた。
しかし舞台挨拶などに佐藤・阿部と一緒に清原も登壇しているのを見かけた。
もしかしてかなり重要な役なのか?
映画を見始めて気付いた。「護られなかった者たちへ」と「おかえりモネ」は表裏なのかもしれないと。
舞台は東日本大震災後の宮城県。時間軸も震災から現在へとほぼ同じだ。
もちろん違いもある。
「護られなかった者たちへ」は殺人事件が発生し、犯人と犯人を追う刑事の物語。震災直後の被災者や避難所の様子がリアルに描かれている。
対して「おかえりモネ」は震災時の描写はさほどなく、震災を経験した人たちが10年間いかに生きて来たかを描く人間物語。物語中に暴力も死人は出てこない。
しかし共に大震災によって傷ついた人たちを描いている。
この2つの作品がほぼ同じ時期に観る意味。
「護られなかった者たちへ」は震災で家族や財産住む家などを無くして心も身体も傷ついた人たち。しかし震災後も貧困に陥り苦しみは続き生活保護もまともに受けることが出来ない。やり場のない憎しみが蓄積されていく。
どちらかといえば震災後に起きている問題を顕在化させる物語だ。
「おかえりモネ」は震災の時偶然家を離れていて直接被災はしなかった主人公が「そこにいなかった」という後ろめたさや無力感を抱えながら故郷を離れ、多くの人との出会いや自分のやるべき仕事を見つけ立ち直り成長していく。そして故郷に戻り、周りに居る人たちの心の傷を癒すきっかけとなっていく。
心に負った傷は他人には分からない。でも分かろうとすることで癒されることもある。どちらかといえば人間の内面の傷を癒す優しい物語だ。
対照的でもあり同じ物を扱ってもいる。
「おかえりモネ」では過去の事として描かれなかった事が「護られなかった者たちへ」ではリアルに描かれる。「おかえりモネ」の世界にいる人間としては過去を強引にほじくり返されたかのような痛みを覚える。
「おかえり」という言葉が両方の作品で出てくる。
「おかえりモネ」では最終回に前に進んでいく希望の象徴のように使われる。しかし「護られなかった者たちへ」では優しさに悲しみが続くように使われる。
そして清原果耶の存在。
清原演じる円山幹子と永浦百音。
2人とも若くして震災を経験している。他人の為に涙することが出来る優しい少女であり、困っている人の役に立ちたいと思っている。共通点はある。
しかし直接被災し母親を亡くしている幹子と、直接被災せず家族も無事だった百音。
10年後の2人の運命は全く違った物になっていく。
映画が撮影されたのは「おかえりモネ」の撮影が始まる数か月前。
幹子の姿は「おかえりモネ」で清原が演じる百音の物語中盤に東京で活躍する頃と似ている。
しかし画面から伝わってくるのは全くの別人だった。
半年間毎日見てきた百音が映画を観ることで変に上書きされたらどうしようと心配していたが、杞憂だった。姿は似ているはずなのに全くの別人に見え、終盤では似ているという感覚すらなくなっていた。どんな役を演じても同じように見えてしまう場合もあるが、清原果耶はまったく違う。
わずか1年半の間にこの2人の人物を演じていた清原果耶の凄さを改めて感じていた。
ドッペルゲンガーはいなかった。
「おかえりモネ」は半年間120回かけて描かれる朝ドラ。しかも朝ドラらしさが無く分かりづらいと評され、毎日丁寧に想像力を働かせて観なければ理解しづらい作品だ。
対して「護られなかった者たちへ」は2時間強の映画なので分かりやすい作品だ。
同じ大震災をテーマにしつつ表裏のような作品。
「おかえりモネ」を観てから「護られなかった者たちへ」を観たという偶然か必然か。
でもこの流れで観られたからこそ心に刺さる物が多かったように思える。
「護られなかった者たちへ」は普通に観ても心に残る作品だと思う。
しかし私は2倍の世界からこの作品を観ることが出来た。
このタイミングで観られたことを感謝している。