【日記超短編】管理会社が変わる

 雨のせいで道に迷い、わたしは傘の下でぐるぐると目が回るほど同じ路地を通った。アパートの管理会社が最近変わったので、同じアパートだとは思えないほどよそよそしくなったその建物に、わたしはしばしば帰れずに夜を明かすのだった。しかも今は雨が降っていて、星の見えない空に重たく蓋をされた心はほとんど路面すれすれのところを足に蹴られながら進んでいるのだ。以前の会社にはどこか底の抜けたような古臭さがあって、アパートはこの新旧まだらに入り組んだ町にそれなりの表情で収まっていた。ところが今度の会社ときたら、なんだか中途半端に新しくて合理的にやっているせいか、アパートがとても同じ場所にあるとは思えないほど浮足立っている。わたしはたぶん、今夜もう何度もその建物の前を通り過ぎているはずなのだ。玄関脇に置かれた洗濯機や、郵便受けからはみ出したピザ屋のチラシを、わたしは差している傘の柄と区別がつかずに見過ごしたのだろう。自分の差している傘の柄の中へ帰宅する勇気は、わたしにはない。そんなことなら一晩中、靴の中を水浸しにして歩きまわっていたほうがましだ。迷路はわたしたちの内部にあり、いわゆる迷路とはその内なる迷路へとみちびく手続きのことだ。これは傘の柄なんかじゃない、私の住んでいるアパートなんだ、などとつぶやきながら傘に顔を押しつけている男に雨の夜道で会いたい人間がいるだろうか? 顔が傘の骨を折り曲げ布を突き破ったときに帰宅できるのなら、わたしはとっくにそうしているし、もしかしたら、今からでも遅くない、ありったけの勇気を振り絞って、本当にそうするべきなのかもしれない。

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