【日記超短編】一日中家にいる

 今日一日家から出なかったせいで、幽霊を見損ねた。ネットではみんな今日の幽霊のでかさや凄まじさ、不気味さ、美しさ、色や形の珍しさを語りあっている。夕方の四時頃から二時間くらい出ていたらしい。私はちょうどその時間は昼寝していてネットも見なかった。たとえネットを見てなくても外出していたらすぐ気づいただろう。一番大きいときは空の三分の一を覆うほどだったらしいから。そんな大きな幽霊はかなり珍しいし、半世紀ぶりという文言も見かけたし、見た人はたぶん一生の思い出になる。幽霊は写真とか動画に写らないので実際にリアルタイムで見ないとだめなので、私はだめだった。
 幽霊の似顔絵を描いてアップする人はいるけどすぐに削除されてしまうのはそういうことをすると呪われるからだ。画像を保存しても呪われるって話だし、イラストで見ただけで呪われるっていう説もあるので私は迷ったけどアプリの幽霊フィルターは外さないことにした。どうせ実物じゃなければ見ても思い出にはならないのだから、イラストの幽霊を見てもリアルタイムのみんなの盛り上がりっぷりの想像を刺激されて悔しいだけで、そのうえ呪われるかもって不安になったら割に合わない。
 だけどイラストが駄目なのに幽霊そのものを見ても呪われない、ということになっているのは不思議で腑に落ちない話だ。本当はやっぱりそりゃあ当然呪われるんじゃないかと私は少し疑っている。現実世界にはフィルターがないから何の前触れもなく空に現れる幽霊を見ないことは不可能で、そんな避けようもない事故みたいなことで呪われてしまうのは怖すぎて救いがないから、呪われないですよという話にしてみんなで安心しているのかも。嘘の安心だけれど。
 だとすれば、私は今日の幽霊に呪われずに済んだ数少ない人間の一人ということになるのかもしれない。記録的なでかさの幽霊に呪われずに済んだならそれは記録的な呪われなさなのでは、と思うとなんだかびっくりしてしまうけど、べつにそうだとしてもとくに気分がよくなったりはしない、などと言えば、それはやっぱり嘘になる。私は、あるものだけで夕飯の準備を始める。

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