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クロスワードパズルについて

子供の頃、クロスワードパズルが大好きだった。

昭和の時代は、子供向けのクロスワードなんていうのは本当にレアで、専門の月刊誌か、大人が読むような週刊誌の懸賞ページに載っていた程度だった。

あの黒マスと白マスが織りなすコントラスト、適度に入った左上の数字、子供心をくすぐる二重マス。「カギ」に書いてあるヒントは何のことやら分からなかったが、あの盤面のデザインに何とも心を惹かれた。

昔のクロスワードの盤面に入れる言葉は、(いまコンビニで売られているような雑誌に比べると)本当に語彙レベルが高かったと思う。幼稚園の頃は当たり前とはいえ、小学生、いや中学生・高校生になっても、知らない言葉の割合が多かったように思う。

忘れられないのが「チキ」だ。初めて出会ったのは小学1年生。
さほど語彙レベルが高い言葉ではないと思うが、知らない人も正直多いと思う。漢字で書くと「知己」である。よく「正しく読めますか? 社会人なら読めないと恥ずかしい漢字」みたいな企画で出てくる常連の熟語である。
「自分の心のうちをよく知ってくれている親友」みたいな意味で、今では単に「知人」の意味でも使われる(「彼とは十年来の知己だ」のように)。

決まって、

ヨコのカギ   親友のこと。

と書いてあり、このカギに沿った言葉を、カナ2文字で入れるのだ。存命だった祖母に聞いたら「チキ(知己)じゃない?」と優しく教えてくれたのを覚えている。僕が生まれて初めて、クロスワードパズルに埋めたカタカナ2文字は「チキ」だった。

その数か月後である。またクロスワードを眺めていた小学1年生の僕は、また盤面の右下あたりのヒントに

ヨコのカギ 親友のこと。

とあるのを見つけた。やった!「チキ」だ!! でも「チキ」以外の言葉は1個も分からない。祖母のボールペンを借りて「チキ」だけ埋めて、僕は『週刊宝石』をそっと閉じた。

なぜクロスワードパズルでは「チキ」=「親友」が頻出するのか。

クイズ作家になって、この事実を深く痛感することになる。

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