眠れぬ街のマージョリー
第一話「Awakening」
私は叫びながら9ミリをブチ込む。
相棒の胸に何発も――
三番街から枝道に折れて車を止めると、死んだはずのハンクが近づいてきた。ドアを開けた途端、蒸し暑い空気とすえた臭いがまとわりつく。ブロンクスのホームレスは増える一方。大人も、子供も。
「ようマギー」
「おはよ。遅れてごめん」
「いいさ。って、顔色悪ぃな? 嫌な夢でも見たか」
ええ。あなたが死んだの。私に撃たれて…… なんて、縁起でもない。
「深酒」
「ヘッ、相変わらずだな。依存症の相棒なんてゴメンだぜ?」
「ご心配なく。で? 本当に奴なの?」
目の前のボロ宿を見上げる。
「さあな。通報はフロントから。無線を聞いたダンと新米坊やが中で確認を――」
銃声。三発。
「クソったれ」
二人同時にシグP226を抜き、目配せしてエントランスに向かう。
「おい嘘だろ!?」
先に突入した相棒が叫び、カバーに入った私は息を呑む。警官二名、民間人一名。全員手遅れ。なぜわかるかって? 首から上が無いのよ! 床も壁も真っ赤。一瞬で? 人間業じゃない。ヤクを売るしか能の無いあの男が? ――冷静に。短く深呼吸。フロントデスクの裏、クリア。奥まで続く通路に血の跡は無し。
(マギー)
一級刑事の顔になったハンクが手で合図し、銃口をエレベーターに向ける。表示灯は一階のまま。私は頷き、デスク越しに狙いをつける。ハンクが扉の脇に身を寄せ、ボタンに手を伸ばす。
扉が開く…… いない。ハンクがカゴを覗き込む。
鼻息混じりに上を向いた瞬間、肌が粟立った。天井に張り付いた人間が私を見ている。
「アダム・スレード!」
照準! 飛んだ!? ハンクの背後に――
「後ろ!」
「うおっ!?」
なんて怪力! カゴの中にハンクと銃が転がる。コイツ、乗る気!?
「待て!」
扉が閉まる! 一発! 命中! 奴は一瞬よろめき…… 抗う相棒に蹴りを入れ、平然とした顔で私に言った。
「お前、自覚がないのか」
二人の姿が完全に隠れ、表示灯が動きはじめた。
【続く】