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読み切り小説

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1記事~2記事で完結する短いやつです。
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#パルプスリンガーズ

Corona Extra! #ppslgr

 2020年4月某日。  超巨大都市型創作売買施設『note』の一角を、黒ずくめの男が歩いていた。平時であれば、真っ直ぐ歩くことも困難な賑わいを見せる商業施設だが、非常事態宣言が発令された今は閑散としている。  春だというのに全身黒ずくめの男―― レイヴンは、慣れた足どりで書籍売買エリアに入るとメインストリートを折れ、狭い裏路地をずんずんと進んでゆく。何度か角を曲がり、無数に並ぶ室外機を器用に避け、少し開けた場所に辿り着くと、小さな溜息を漏らして肩を落とす。  目の前には

ハヴ・ア・グレート・サマー・ヴァケイション

真昼だというのに、その峠道を走る車は無かった。皆無だった。・・・先ほどまでは。 峠に轟音が響き、羽を休めていた鳥たちが一斉に飛び去ってゆく。一台のオプティマスめいたキャブオーバー型牽引車が唸りをあげ、いくつもの殺人カーブを猛スピードでクリアしてゆく。そのたびに黒塗りの防弾コンテナが左へ、右へと揺られ軋む。 ----コンテナ内部---- 「なあ、楽しい旅行、って言ってたよな?」 覆面マッチョのH・Mが誰に対してでもなく口を開くと、汗だくのR・Vが「ああ」と頷いた。汗を吸って

ストレンジャー・ヴィジット・パルプスリンガーズ(前編)

 超巨大創作売買施設『Note』。その一角、狭い路地裏を抜けた場所にひっそりと存在するバーの前に、いかにも怪しげな男が立っていた。真夏だというのにベージュのトレンチコートの襟を立て、ハンチング帽を目深にかぶっている。 「ここだな」トレンチコートの男・・・モノカ・キヨシは『メキシコ』と書かれた看板を確認し、古びたスイングドアを静かに押す。余所者らしく控えめなエントリーを決めたキヨシに、むせ返るような熱気と湿気が襲い掛かった。酒と火薬の臭いが「臆病者は引き返せ」と警告する。だか

ストレンジャー・ヴィジット・パルプスリンガーズ(後編)

【前編はこちら】 「物理書籍化のご相談」「実際チャンス」「印税45%」「大手出版社とのパイプ」「アニメ化も視野に」・・・キヨシはインターネット上で甘い言葉を並べ立て、小説家の卵を何人も食い物にしてきた。「少しおカネが必要」「すぐに回収可能」そうやってカネを巻き上げ、姿をくらます。痕跡は残さない。パソコン通信やUNIXシステムに疎いキヨシだが、ハッカーカルトのあぶれ者を監禁して指示を出せば何もかも上手くいった。  有望な未発表作品と判断すれば、直に作者と顔を合わせ、殺し、原