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読み切り小説

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1記事~2記事で完結する短いやつです。
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#掌編小説

約束事

 雨叩く夜の密林。深い深い海の底のような闇に紛れ、湿気を掻き分け、兵士たちは退却を続けている。  負傷者のうめき声と、血の臭い。  全員の荒い呼吸と、汗の臭い。  追駆者たちの散発的な銃声と、硝煙の臭い。  雨では消えぬ、戦場の音。  雨では流せぬ、戦場の臭い。  兵士たちの足並みはすっかり乱れ、随分と数も減っていた。下手に反撃する者は、横殴りの雨のように返ってくる敵の弾に蜂の巣にされた。まだ動ける者だけが、黙々と自陣を目指している。  三郎は、弱った清に肩を貸し、先行く人影

Corona Extra! #ppslgr

 2020年4月某日。  超巨大都市型創作売買施設『note』の一角を、黒ずくめの男が歩いていた。平時であれば、真っ直ぐ歩くことも困難な賑わいを見せる商業施設だが、非常事態宣言が発令された今は閑散としている。  春だというのに全身黒ずくめの男―― レイヴンは、慣れた足どりで書籍売買エリアに入るとメインストリートを折れ、狭い裏路地をずんずんと進んでゆく。何度か角を曲がり、無数に並ぶ室外機を器用に避け、少し開けた場所に辿り着くと、小さな溜息を漏らして肩を落とす。  目の前には