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読み切り小説

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1記事~2記事で完結する短いやつです。
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#パルプ小説

救いのクリスマ……

「メリークリスマス、ダーンくん」  サンタはガスマスク越しにささやき、枕元にギフトボックス置いた。男児の腐敗はそれほど進んでおらず、表情は安らかに見えた。冬場にもかかわらず窓が少し開いているのは、両親によるせめてもの配慮だったのだろう。サンタは痛む腰をのばし、薄暗い子供部屋を見回す。家具の配置は昨年と変わりないが、どうやらこの一年でフットボールに興味がわいたようだった。 「ボールのほうがよかったかな」  この家からも、今年は手紙が届かなかった。 「そろそろ、行くよ」  サンタ

『赤ら顔のタフガイ』 #パルプアドベントカレンダー2020

「さあベッドに入って。……よし、今日はどの絵本にしようか」 「ねぇダディ、どうして、ペッカお爺ちゃんのお顔はいつも真っ赤なの? どうして、ほかのお爺ちゃんと違うの?」 「え?」 唐突な質問に、トゥオマスは言葉を詰まらせた。ことし7歳になった娘のまなざしは、真剣そのものだ。なんと答えてあげればよいのか。トゥオマスはベッドサイドの椅子に腰かけ、娘の頭を撫でながら考えた。 「……リヤ、どうしたんだい? 突然そんなことを聞くなんて。これまで気にしていなかったよね」 「お友達

『サンタクロース 201900』 / #パルプアドベントカレンダー2019

「ならば視聴者にその刺激を与えてやる! そういってベンはキリアンをシューターに押し込み、発射ボタンを押しました。キリアンを乗せたシューターは看板に激突し爆発四散。観客は大歓声をあげて、ベンを英雄のように称えましたとさ。めでたし、めでたし。……さ、もう寝る時間だ。おやすみしよう」  父親はパタンと本を閉じ、ベッドの息子に布団をかける。 「サンタさん来るかな!?」 「まだだよ」  苦笑した父親は息子の頭をそっと撫で、優しく言い聞かせる。 「言ったろう? サンタさんが来るのはクリス

JR山手線 『ウ・内回り』の日常

 まずい。急げ。走れ。止まるな。俺。 「ハッ、ハッ、スゥー! ハッ、ハッ、スゥー!」  クソッ! 十億だぞ! 十億! 「ハッ、ハッ、スゥー! ハッ、オェ、カハッ!」  クソッ! 俺の全てを! 犠牲にしてきた! 交渉が! やっと実るって日に! 寝坊だと? バカか俺は! あの頑固ジジイ、遅刻なんぞしたら、パーにするに決まってる! 必ず間に合う。アレに乗れば。まだ間に合う!  歩道橋を駆け降りたスーツ男は渋谷駅西口のJR山手線改札をぶっちぎり、『ウ・内回り』と案内が掲げられた階

ハヴ・ア・グレート・サマー・ヴァケイション

真昼だというのに、その峠道を走る車は無かった。皆無だった。・・・先ほどまでは。 峠に轟音が響き、羽を休めていた鳥たちが一斉に飛び去ってゆく。一台のオプティマスめいたキャブオーバー型牽引車が唸りをあげ、いくつもの殺人カーブを猛スピードでクリアしてゆく。そのたびに黒塗りの防弾コンテナが左へ、右へと揺られ軋む。 ----コンテナ内部---- 「なあ、楽しい旅行、って言ってたよな?」 覆面マッチョのH・Mが誰に対してでもなく口を開くと、汗だくのR・Vが「ああ」と頷いた。汗を吸って

ストレンジャー・ヴィジット・パルプスリンガーズ(前編)

 超巨大創作売買施設『Note』。その一角、狭い路地裏を抜けた場所にひっそりと存在するバーの前に、いかにも怪しげな男が立っていた。真夏だというのにベージュのトレンチコートの襟を立て、ハンチング帽を目深にかぶっている。 「ここだな」トレンチコートの男・・・モノカ・キヨシは『メキシコ』と書かれた看板を確認し、古びたスイングドアを静かに押す。余所者らしく控えめなエントリーを決めたキヨシに、むせ返るような熱気と湿気が襲い掛かった。酒と火薬の臭いが「臆病者は引き返せ」と警告する。だか

ストレンジャー・ヴィジット・パルプスリンガーズ(後編)

【前編はこちら】 「物理書籍化のご相談」「実際チャンス」「印税45%」「大手出版社とのパイプ」「アニメ化も視野に」・・・キヨシはインターネット上で甘い言葉を並べ立て、小説家の卵を何人も食い物にしてきた。「少しおカネが必要」「すぐに回収可能」そうやってカネを巻き上げ、姿をくらます。痕跡は残さない。パソコン通信やUNIXシステムに疎いキヨシだが、ハッカーカルトのあぶれ者を監禁して指示を出せば何もかも上手くいった。  有望な未発表作品と判断すれば、直に作者と顔を合わせ、殺し、原